Q. 技術から考えるべきか?マーケットから考えるべきか?

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あえてここではこの2面の対比についてのみ取り上げることにしたいと思います。

まず「技術主導にろくなことはない」これだけは最初に言っておきましょう。技術だけに限らず「アセット=資産を起点にしたビジネスモデル」はまずもって失敗、あるいは困難な状況に直面します。 この主張は多くの一般的な経営論と逆行する言い方になっていると思いますので以下で補足します。

<pivotの柔軟性を損なう>

ビジネスを「狩り」に例えれば、チームで協力して素早く逃げる鹿を捕らえるような状況だと言えます。

マーケット起点で考えれば(=状況に従う考え方でいけば)その鹿がどこに出没するか、時間帯、群れで行動するのかどうか、それに応じてどういう武器を使えばいいのか、地の利はあるのか、など様々な角度で最良の手段を検討することができます。

そして仮に結果として一匹目の鹿を逃してしまったとします。 「何がダメだったか」「どこまで上手くいっていたか」検討の上で次の手段を考えます。これがpivotです。

アセット起点というのは「仕留める武器」が決まっているような状況です。例えばここで投げ槍を選択したとします。まぁパッと見では悪くはない案のように思えます。チームには投げ槍の名手がいますし、射程も長いです。

しかし一匹目で失敗しました。 理由は投擲のためには必ず予備のモーション(構える→振りかぶる)が必要になり、その動作の間に必ず鹿には気付かれてしまうのです。走って逃げる鹿に投げ槍を当てるのはいかに名手と言えども至難の技です。

ではどうするか?皆口々に「やはり洞窟に追い込むのがいいんじゃないか」「網を用意して周囲を囲ってしまうのはどうか」「罠を仕掛けて足を狙うのはどうか」などなどと意見を出します。そこで件の投げ槍の名手が「ちょっと待ってくれ。私の投げ槍で仕留める方法をちゃんと考えてくれよ。つまりどうやって鹿の動きを止めるかってことだ」と言います。 「・・・(動き止めることができたら投げ槍別に必要ないよな)」 と場は微妙な空気になるでしょうね。 このような「決め技」が決まっていることは状況によってはとても頼りになりますが、多くの場合では残念ながら足枷にしかなりません。

<アセットは賞味期限付き、だがトップパフォーマンスがいつどこで出るのかわからない>

「固定資産」というものは皆さんご存知かと思います。高額の設備などを購入したときに、それを登録しておいて、法定年数にしたがって毎年損金として計上する、というような代物です。そうして段々と帳簿上の価値が目減りしていって最後には用途を終えて除却されます。

資産は腐ります。

技術も同じで時代とともに廃れる技術、不要になる技術があります。したがって過去の遺産にしがみついて物事を考えることは視野を狭めるということはすぐに誰しも理解できることだと思います。 しかしながら例え過去だけではなく未来に目を向けたとしても、特定の技術を的確なタイミングに適格な場所に投入するということは非常に難しいです。単体の企画でそのバランスを成立させるというのは極めて難しいことでしょう。そのため多くの企業では純粋研究のR&D部門と応用研究や商品開発の部門を分けて考えます。

技術は他社との差別化の決定打となる可能性があります。それはスタートアップであればExit Planを考える際の重要なファクターのひとつともなり得ます。しかし、技術とマーケットを対比すると、ターゲットとするマーケットは企画の中でなかなか変わらない(不変とは言いませんが)しかし採用する技術は常に選択肢が多ければ多いほど勝機は高まる、と考えるべきです。

つまりアセット(技術力、特許、ブランド力)を起点として物事を考えるのではなく、あくまでマーケット起点で様々なビジネスの可能性を考えた上で、アセットが活きそうな案を採用する、というのが企画の正しいプロセスだと言えます。

「どうやって実現するか」を考える段を極力後ろに持っていく努力をして下さい。これは「努力」という言い方がすこぶる適切でしょう。

どうしても(特に技術者であれば)案が出た瞬間に実現手法と必要な技術がババっと頭を巡ります。これはできる、これはできない、これは新規開発が必要、これはあの技術が流用できる、そんな調子で瞬時に整理され結論が出てしまいます。 しかしこの結論、完璧に合っている確率は何パーセントでしょうか。見落としているファクターはないでしょうか。思考の過程で勝手に捨ててしまった選択肢はないでしょうか。

このように企画アイディアのレベルに手法の議論を持ち込むと、多くの場合でミスリードが発生します。

このポストの内容は以下の書籍の一部(原文)です。興味のある方はぜひ書籍をお求めください。

幸せなIoTスタートアップの輪郭

九頭龍 'kuz' 雄一郎 エンジニア/経営者, 日本の大企業からシリコンバレーのスタートタップまで多種多様な千尋の谷に落ちた経験を持つ。 株式会社ClayTech Founder/CEO, 監査役DX株式会社 Co-founder/CTO, 株式会社スイッチサイエンス取締役, 株式会社2nd-Community取締役, 東北大学客員教授, 東京工業大学非常勤講師, 武蔵野美術大学非常勤講師, 他複数社の顧問など。

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