Q. ミッションの食い違いにモヤモヤする

serious soldier with rifle on shoulder marching in park

これは経営者やリーダークラスではなくメンバークラスの方からよく受ける相談です。 またそのようなメンバークラスのギスギス感や苛立ちを薄々感じながらそれが上手く整理できていない状況にあるリーダークラスの愚痴を聞くこともよくあります。

ここで、「ミッションの食い違い」とは。

試しに、「門番と商人」の例えで考えてみましょう。(私のオリジナルです)

ある城壁に囲まれた国、N国がありました。 交易は厳しく制限されていて、その国唯一の門を通らなければN国から出ることも国に入ることもできません。 また貿易については国外で勝手に取引を行うことは禁止されており、いかなる取引も自国内の取引所にて政府の監督の下に行うようになっています。

商人たちは財務大臣から「来年の春が来たらB国と戦争をする。そのため鉄と火薬を昨年の2倍仕入れてくれ。ただし予算は1.5倍しか確保できていないので安く取引する努力をするように」という指示が降っていました。

一方門番たちには大隊長から「いま我々はB国と緊張関係にあり、B国はC国と同盟関係にある。彼らが諜報部隊を送り込んでくるという情報もあり特にその二ヶ国からの出入りは厳しく制限するように。また例年D国からの不法入国者が後を絶たない。彼らは入国後に我々の国で犯罪集団を組織することもあり、年間100人程度いるD国からの不法入国者を今年は必ず0人にするよう防衛大臣および外務大臣から厳しい命令がきている」というような形で指示がかけられていました。

商人たちは他国を駆け巡り調査を重ねた結果、D国であれば予算の1.6倍あるいはE国であれば1.8倍程度で2倍仕入れることができるとわかった。しかし実はC国が遥かに安く1.3倍程度のコストで従来の2倍の量を入手できることがわかりました。 商人たちはC国との貿易を熱望し、大規模な使節団をC国から派遣するよう依頼しました。

そしてC国使節団の到着の時、門番たちは震え上がりました。

彼らは入国人数を制限すること、一部の武装解除には応じたものも、「最低限の自衛のため」と言って完全な武装解除には応じませんでした。彼らと同盟関係にあるB国と関係性が悪いN国に入るのに丸腰で来いというのは如何にも無理があるではないかと。

門番たちは大隊長にどうしたものかと相談しますが、大隊長以降の上役は「完全武装解除に応じないようであればC国の人間は断固入国させない」の一点張りです。

一方商人たちは使節団の到着が予定より遅れていることに気づき門まで来てみると、門番たちと何やらもめている様子です。

「何故使節団は入国できないんだ」
「彼らが武装解除に応じないので」
「いや、今回は緊急事態だし、取引をするだけなのだから多少のことは良いではないか」
「いやいや、みなさん知っての通り我々N国はB国と緊張状態にあり、C国はB国の同盟国。そんな安易な理屈が通るわけがない。そもそもこのタイミングで何故わざわざC国なんですか」
「かくかくしかじかで絶対C国と取引する必要があるんだ」
「それだったらE国はどうですか。我々の国とも友好的な関係にありますしE国からは毎日のように大勢出入りしていますから」
「E国では目標が満たせないのだよ。ではせめて今回使節団の半分を入国させてくれ。今回半分の取引を成立させれば、あとはD国と話をつければD国と残りの取引を行うことで目標は達成できる」
「いまD国と言いましたか?ご冗談を。D国は犯罪組織の温床です。今年特に重点的に取り締まらなければならない国のひとつです。特に武器の材料になる鉄と火薬をD国内で取り扱っている組織は全て犯罪組織の息がかかっていると聞きます」
「しかしD国とは従来から人の行き来があるではないか。それであれば規制を厳しくするのは構わないが、全く取引できないわけではないだろう」
「まぁ確かにそのとおりですね。ではD国なら良しとします。C国は無しとしてD国との取引ということで話をまとめて下さい。先程の数字からするとちょっと予算オーバーになるようですが、そのくらいは財務大臣と相談してください」
「お前は何を言ってるんだ。大臣の厳しさを知らんのか?あの方はビタ一文たりとも妥協をしないぞ。我々はこのミッションが満たせなければ降格間違いなしだ。もう、今すぐC国使節団を入国させろ!」
「そちらがミッションと言うならこちらもミッションがある。B国とC国からの入国は特に厳しく制限する必要がある。武器携行だなんて論外です。もし何かトラブルがあったら我々のクビが飛ぶ程度では済まない大問題になりますよ!」
「うるさい、文句があるなら財務大臣に言ってくれ、我々は指示に従ってミッションを果たすだけだ!」
「我々だって防衛大臣および外務大臣から下りてきた方針をもとに行動しています。文句があったら上に言って下さい!」

双方のミッションが食い違い、堂々巡りです。 さて、どのやってこのような状況を解決すべきでしょうか。

ここまで読んでいただいた経営者およびリーダーの方々、申し訳ありません、実はここではあなたの出番はありません。

「横連携」を発揮すべきタイミングなのです。

ここで双方が授けられているミッションは両者とも共通のゴール、ここでは「自国の繁栄」に結びついています。国内の治安の維持も重要ですし、他国の侵略に耐え、時に植民地を広げることもまた繁栄のためには必要かもしれません。 リーダーたちはそのために自らの専門領域に対して適切なミッションの設定をしています。したがって仮にここの例にあるような衝突が発生したとしてもミッションそのものを調整をすることは好ましくありません。 仮にそれをやり過ぎてしまうとミッションそのもの、果てにはゴールそのものが骨抜きになってしまうからです。

理想的な横連携は双方に「妥協」ではなく「納得」を作り出すことです。 この事例で試しにいくつか協力的な解決案を探してみましょう。

<E国に補佐を頼む>

中立国であるE国にC国使節団の護衛をしてもらうのはどうでしょうか。 E国は中立国であると同時にN国の重要な取引相手でもあります。E国に対して「C国使節団に危害は加えない」と約束をして入国させた上でE国の護衛の前でもし何かが起きた場合にはN国はE国に対しての信頼を失うことになります。その条件であればC国使節団が納得する可能性があります。

当然E国に何かしらお礼をする必要がありますが、それは安く仕入れた分の残りの予算で実行可能でしょう。 門番としてもE国とは極めて友好かつ合同の軍事演習などで双方の武器持ち込みについての規則もしっかりと定められており、極めて安全だと判断できます。

<D国にC国から仕入れてN国に流すよう求める>

D国は軍事力を背景に交渉力が強いです。C国とも国交はあり、D国が入れば通常の1.2倍の予算で2倍仕入れるくらいのこと彼らはやってのけます。その上でN国が1.5倍相当の金額で買い上げるとなれば彼らはノーリスクで大きな上前をはねることができます。この商売にD国が乗ってこない可能性はほぼありません。 またD国の人間は商売に聡く、軍事力に自信があるためか個々の警戒心は比較的低い傾向にあります。恐らく少人数かつ完全武装解除という条件でも平気でN国へ入国してくることでしょう。それであれば門番としてはリスクは最小限に留めることができます。

このように工夫次第でいくつも解決策は出てきます。それも「ミッションは崩さず」かつ「特段に上役の許可や判断を得ることなく」です。 モヤモヤを能動的に工夫し解決できる組織、そのような人材を整えることこそが経営者あるいはリーダーが心がけるべきことなのです。

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幸せなIoTスタートアップの輪郭

九頭龍 'kuz' 雄一郎 エンジニア/経営者, 日本の大企業からシリコンバレーのスタートタップまで多種多様な千尋の谷に落ちた経験を持つ。 株式会社ClayTech Founder/CEO, 監査役DX株式会社 Co-founder/CTO, 株式会社スイッチサイエンス取締役, 株式会社2nd-Community取締役, 東北大学客員教授, 東京工業大学非常勤講師, 武蔵野美術大学非常勤講師, 他複数社の顧問など。

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