敗北を刻む

最終更新日

多読家を自称しており滅多に積読することのない私の机の上がこんな状況に。理由は2つです。
1つはワールドカップ、もう1つは経産省JETRO共催プロジェクトの『始動』でした。

ワールドカップは本日そのドラマに大団円を迎えましたが、始動も実は一昨日その区切りを迎えていました。
結果シリコンバレー派遣とはならず、私自身は次のステップへは進めませんでした。
とはいえ『以前メンターで呼ばれたプロジェクトに今度はメンタリングされる側で入る』というなんともワタシぽい発想だったかなとその点は自画自賛したいです。

というのも求めていたものは『けなされる機会の創出』でした。

人間たるもの、実績がある程度積み上がってきて職位が高くなれば、必然的に『ガチの無理解』にさらされることが減っていきます。
何故なら大抵聞き手が慮ってくれるからです。
そもそも同じ会社のメンバーや世代が近い人なら共通の暗黙知も多いですし、 課題感も解決の選択肢も似たようなものを持っています。 仮に全力で賛成できないとしても「(ふーん、この人はこう考えたんだ)」と思ってくれます。
そして、大抵表立って反対されません。

始動ではメンタリングがあり、ピッチがあります。
その過程で何度か『ガチの無理解』『お前の言ってることは意味不明だ』というリアクションに巡り合うことができました。
凹みましたが狙い通りでした。

「そういえばかれこれ十年くらい前まではずっとこんなんばっかだったよな〜」
と実感を持って思い出すことができたからです。

ヤマハ社内では新規事業提案を腐るほどしました。
直属の上司にポジティブなことを言ってもらえたことなど極めて稀で、あの手この手を使いました。 事業部長に対してチャレンジしたり、経営層の方に直談判させていただいたことも1回や2回ではありませんでした。 でもその大半は惨敗でした(負け方は色々あれど)
周囲も「九頭龍はなんかがんばってるけどよくわかんないなぁ」くらいのトーンが9割5分、残りの5%の方々の応援でなんとか踏みとどまりながら、時に孤独であり、時にやけ酒飲んだ勢いでAmazonでポチってあとで後悔したりしながら、 でもそうやって過ごしてきた20代でした。
まとまった休みがあるごとに事業計画書を書く、なんてよく凝りなかったもんだ。

しかし30代になってもその状況はあまり変わりませんでした。
ステージをスタートアップ、場所をシリコンバレーに変えただけで、資金調達のフェーズでは無理解どころか「今すぐ帰れ」と素で言われたこともあります(さすがシリコンバレー!笑) 場所を大きく変えたことによって「暗黙知」のアドバンテージが失われ、より一層厳しい状況に立たされながら、、、
でもまぁ不思議と相変わらず懲りなかったんですよね。
きっと楽しかったんでしょうね。

さて、では最近はといえば、

いくつかの会社で取締役をやっています
・部下の突き上げなんてかわいいもの
・他の役員は大体みんなジェントル
→ 経営で困ることは色々あっても、そういうのと『ガチの無理解』は次元が違います。

ハンズオンのコンサルで入ったりします
→ 排斥されて凹むことはあっても面と向かって批判されるわけではない

顧問やアドバイザーをやっています
→ 言いたい放題言ってる私に言いたいこと言う人はいない

大学で教えています
→ 学生の無理解=自分の力不足なので、そりゃあるけど単にがんばるだけ

やっぱりどうもパンチが効いてません。

もっと、練って練って積み上げたものが一瞬でぶっつぶされるような、 確信を持って臨んだものもあっけなく跳ね返されるような、そんな機会が必要なんです。

そう、ワールドカップのように。

選手たちを心から尊敬します。
国のプライドなんていう個人に抱えられるわけがない巨大なプレッシャーを背負って
ときにつま先ひとつの差、ときに右か左かの読み違い、
ときに0.1秒の判断スピードの差、三苫の1ミリ。
そんなギリギリの勝負の中に自分の人生を賭けることができるのだから。

凹んだり、傷ついたり、悔やんだり、何かを呪ったり。
しかしきっとそれが更なる成長と充実へと導いてくれるということを彼らは知っているんだと思います。

勝ち続けてあそこに立っている人は誰一人としていません。
キャリアの過程で打ちのめされ、W杯に何度出場してもタイトルに恵まれず、 その反省と、情熱と、渇望とを抱えてまた立ち上がっていく自分を信じているわけです。
そもそも優勝したアルゼンチンは初戦でサウジアラビアに負けているわけですから。

今回始動に参加した会社『監査役DX』は友人と「うちら80歳まで働くんだからさ」と言って立ち上げた会社です。
トータル約60年のキャリアと考えたら、実はまだまだ半分まで来ていません。
落ち着くのなんて早過ぎるし、まだまだたくさん負けてまだまだたくさん這い上がらなければならないのです。
もっと強くなれる。

これからの日本代表のように。

とりあえず珍しく積んだ本たちをパパッとやっつけてまたひとつパワーアップしたいと思います。

九頭龍 'kuz' 雄一郎 エンジニア/経営者, 日本の大企業からシリコンバレーのスタートタップまで多種多様な千尋の谷に落ちた経験を持つ。 株式会社ClayTech Founder/CEO, 監査役DX株式会社 Co-founder/CTO, 株式会社スイッチサイエンス取締役, 株式会社2nd-Community取締役, 東北大学客員教授, 東京工業大学非常勤講師, 武蔵野美術大学非常勤講師, 他複数社の顧問など。

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