Q. 金型にものすごくお金がかかるというのは本当でしょうか?

a woman standing near on the black car

本当です。 金型はスケジュールも財布も圧迫するものづくり界最大のリスクファクターです。

例えば、ちょっとした箱、上下で挟み込むような構造のものを作るだけで、場合によっては数百万単位の費用がかかります。 もし構造が複雑であったり、複数の素材を使用した多色成型であったり、精度に大きな制約があった場合はさらに上がり、1000万円以上かかるようなケースも決して珍しくはありません。なお自動車のフロントパネル(内装)のような大きな樹脂部品の金型では5000万円以上かかることもあるそうです。

大きなイニシャルコストは価格設定を悩ませます。 1000万円の金型を1万台で償却するのであれば一台あたり1000円も乗せることになってしまいます。しかし仮に100万台で償却するのであればたったの10円です。 ここをどう捉えるか次第で売値が数千円単位で変わってしまいます。

本来であれば「これをやれば金型コストが十分の一に!」というような裏技を示すことができれば良かったのですが、残念ながらそんな便利な手段はありません。 そこでいくつかのベーシックなコストダウンテクニックを紹介するにとどめます。

<共取り>

ひとつの金型で複数の部品を取るというやりかたです。場合によっては別製品の部品でも良いかもしれません。 前者は金型費そのものを減らすことができますし、後者は償却台数を増やすことができます。

<部品点数を減らし単純な構造にする>

前述の共取りはある程度条件が揃う必要があり、無闇に使うことは難しい手法です。 もっと単純かつ効果的な方法がそもそもの部品点数を減らすことです。これは設計者の力量が求められます。 しかしながら部品点数が減り単純な構造になれば組み立ての工数を減らすことができ、こちらもダイレクトなコストダウンとなります。

<本当に金型が必要か考える>

ここには2点の意味があります。 ひとつは、金型を作るタイミングを極力後回しにするという意味です。試作のどこの段階で果たして本当に金型が必要になるか、真剣に考える必要があります。なぜなら金型を作った後で修正を入れることは労力とお金がかかることです。場合によっては一切が作り直しになるリスクも孕みます。スケジュールが許す限り金型は最後の方で着手し、そこからの変更が入らないようにするという考えは、実は後々地味に利いてくるコストアップ防止策になります。 もうひとつは、金型を使わないあるいは簡易金型で製品にするという選択肢はないのか?という意味です。 一般に製造台数が少ないケースでは金型の償却は非常に頭が痛いことになります。だからといって安易に売値を上げてしまっては今度は販売がおぼつきません。 そのような場合では簡易金型の使用を考えても構わないと思います。簡易金型とひとくちに言っても実際は様々ですが、要するに耐久性を上げ精度をキープするための処理を省いた金型のことです。したがってショット数(求める性能を発揮し続けることができる回数)が低くなります。 しかしながら製造台数が少ないのであれば多くの場合で妥協できる点はあるのではないかと思います。

<原材料の安いところで作る>

金型の価格は原材料の価格に大きく影響を受けます。 金型には打つターゲットに応じて様々な鋼が使われますが、要するに作業自体はそれらを削ったり表面加工して組み上げるだけで、大変な作業ではありますが古くから行われてきている一般的なものです。 一方原材料は大きな金属の塊です。入手性が問題になることもありますし、入手性が理由になって単価が跳ね上がることもよくあります。あまり「いつも〇〇にお願いしてるから」とは考えずに都度いくつかの相見積もりを取って進めるようにするとその時々の最適な価格で金型を作ることができます。

金型は確かに大きなリスクファクターではありますし、チート的手法もありません。しかしそれがボトルネックになって製品化に進むことができない様子を見ると少々残念な気持ちになります。どうしようもないと諦めずに、プロフェッショナルのサポートを仰ぎながら色々な工夫を積み重ねてみてください。

このポストの内容は以下の書籍の一部(原文)です。興味のある方はぜひ書籍をお求めください。

幸せなIoTスタートアップの輪郭

九頭龍 'kuz' 雄一郎 エンジニア/経営者, 日本の大企業からシリコンバレーのスタートタップまで多種多様な千尋の谷に落ちた経験を持つ。 株式会社ClayTech Founder/CEO, 監査役DX株式会社 Co-founder/CTO, 株式会社スイッチサイエンス取締役, 株式会社2nd-Community取締役, 東北大学客員教授, 東京工業大学非常勤講師, 武蔵野美術大学非常勤講師, 他複数社の顧問など。

シェアする

コメントを残す

メールアドレスが公開されることはありません。 が付いている欄は必須項目です

コメントする