Q. 量産に踏み切るぞ!という判断タイミングがさっぱりわからないのですが。。。

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勘と本能と思い切りです。と言いたいところなのですが、少々理屈っぽいことも書いておきます。

まず、どこまでいったら製造して良いという技術的基準など一般には存在しないので、必然的に経営レイヤでの判断となります。 ほとんどのスタートアップは一度量産をしてもし失敗したらそこで資金が尽きてしまうのではないかと思います。 したがってまさしく「生きるか死ぬか」の非常に重たい判断です。

この重たい判断を下す場合に好ましくない思考方法を展開する方がいます。いくつか典型的事例を示しましょう。

「元々のスケジュールで決まってるから」

愚の骨頂です。何も判断していない、とすら言えます。 そもそもスケジュールには「判断する」というチェックポイントとしてのマイルストーンが含まれるべきです。

「とりあえず上手く動いているので」

開発メンバークラスではそのような思考で判断されているように思います。 しかし先ほど述べた通りにこの判断は経営レイヤの判断です。したがって上手く動いているということはスケジュール通りに開発が進んでいるという事実の証明でしかなく、スケジュールを進める理由にも止める理由にも不十分です。

「ここで量産に進めないと資金がショートする」

開発にすでにある程度の予算を投入し、量産のためにキープしている予算があり、これがギリギリのタイミング、と思うことは少なくありません。ここで先へと進める判断をした方を責めることは正直なかなかできません。 また開発は進めていたものも、もう一歩、あと一歩、と開発をし続けて結局リリースができないまま倒産するようなケースは、開発者も含めメンバーたちの悔しさは非常に大きなものだろうと想像します。 しかしながら敢えて言うなら、資金事情を起点とした一か八かをやるよりも、資金事情をひっくり返すための一か八かにチャレンジするべきではないかと思います。具体的には他社との差別化要因を洗練することであったり、対象とする市場を広げることであったり、パートナー候補を新たに獲得することであったり。 会社の魅力を拡大することは常に可能です。そしてそれは量産を行うよりも資金がかからない場合がほとんどです。 しかしこの判断は既存株主の期待を裏切るように見られてしまうケースもあるためきちんと内部統制をはかることは重要です。

さて、一方、私は量産に進める判断は以下のようにあるべきだと考えています。

「これは市場に問うべきだ」と思ったらその時が踏み切るべきタイミングです。

「勝ちを確信して進める」というのは詭弁です。 毎回勝てると思ってそのとおりに勝てるのであれば、事業とはなんと無味乾燥なものでしょうか。 市場に投入して評判を得ることもあれば、全くの想定外の結果になることもあります。投じた一石が全く別の角度から反響が返ってくることもあります。 例えば、以前ヤマハで「光るギター」という製品を出した際に、片手でもギターのコード弾きができるという機能が搭載されていましたが、これの元々のコンセプトは「片手でビールを飲みながらでも弾ける」という非常におちゃらけたものでした。しかしながらいざ製品として出してみると隻腕の方からの問い合わせや高評価を受けたそうです。

また私が「DFree」という排泄ケアの製品を開発していた際も、元々高齢者をメインターゲットとして開発していたものも、いざリリースしてみると実は高い効用が得やすい対象者は比較的低い年齢の障害者を抱える家庭なのではないかと思えるようになったという経験があります。 市場に問うためにはそれに足るクオリティが必然的に求められます。逆に言うとそれ以上は求められません。 過剰品質追求の罠に陥らず、最低限のキモを押さえたレベルがどこにあるかを体感的に捉えることは非常に難しいと思います。

しかしながらここにはとても簡単な解決法があります。自らいちユーザーになることです。
ユーザーとして使用して、実感として良いのか悪いのか。小さな不具合や使いづらさはある。それはユーザーとして許容できない範囲なのかどうか。 ここに在る手触り、質感、体験、それらを多くの人に共有したいと思える段階に来ているかどうか。

ここに発生する熱情は、いざ生まれて来るとむしろ止めることは難しく、すぐに「これは出すしかない」とあなたを焚き付けてくれるはずです。

このポストの内容は以下の書籍の一部(原文)です。興味のある方はぜひ書籍をお求めください。

幸せなIoTスタートアップの輪郭

九頭龍 'kuz' 雄一郎 エンジニア/経営者, 日本の大企業からシリコンバレーのスタートタップまで多種多様な千尋の谷に落ちた経験を持つ。 株式会社ClayTech Founder/CEO, 監査役DX株式会社 Co-founder/CTO, 株式会社スイッチサイエンス取締役, 株式会社2nd-Community取締役, 東北大学客員教授, 東京工業大学非常勤講師, 武蔵野美術大学非常勤講師, 他複数社の顧問など。

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