Q. プロトができていたら製造ってどこかにお願いしたらパッと作ってもらえるものなんですか?

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私はファブありの企業、ファブレスの企業、どちらでも働いたことがあります。 多くの場合でスタートアップはファブレスへと流れます。自社工場を抱えることにはイニシャルコストだけでなく非常に大きな固定費がかかり続けるからです。 それでも多くの大企業がファブありの状況を続けています。それにはコストやサプライチェーンの最適化以外にも以下の理由があるように私は思います。

それは試作から製造までの意識の統一です。

多くのファブレス企業の場合、まずは自分たちでプロトタイプを作ってみて、動作確認をして、デモをやり、誰かの目に止まって資金調達ができたりあるいはクラウドファンディングで資金を集めたりした上で「いざ製造」となります。

問題は「この段階で工場の意見を何も聞いていない」ということです。

メンバーの素養次第ということにはなりますが、最悪のケースではエッセンスのみ使えるものもほぼ作り直しとなるようなことも残念ながら十分にあり得ます。 製造をする上でケアしなければならないことは非常に多くあります。 私もそれらの全てを完全に押さえているとは言えませんが、以下に典型的なものをいくつか挙げておきましょう。

<コスト整合性>

製品は作ったら売るわけで、売るということは値札をつけるわけです。そしてその値札はきちんと利益が出るものでなければなりません。 値段は部品代を積み上げたら出るわけではありません。工場でかかる調達作業、必要な治具の作成、金型作成、工程の管理、受け入れ出荷の管理など様々な経費が乗ってようやく売価を決めることができます。 これらに全く配慮せずにとりあえずネットで部品を買ってその値段を基準に売価を想定していると、あとでビックリすることになります。最悪作り直しです。

<組立性>

仮に構造的に複雑な製品の場合、工場で組み立てるのは非常に一般的な工員です。今日はあなたの製品の組み立てをするかも知れませんが、明日は別の製品の組み立てをする工員です。 あなたの製品の構造を事前に理解もしていませんし、手順書を読んだだけでそこにある内容以上のことは何も知りません。 そういう人でも十分に効率よく組み立てることができる構造になっているか?多かれ少なかれの作り直しを要求されるケースがほとんどです。

<検査>

製品を何台作るかに関わらず、製造を誰かしらに委託する場合は出荷基準を決める必要があります。それをしなければ不良品の検出ができないからです。 出荷基準を決めるということは検査をするということです。 検査は器具を使って行うものもあれば目視で行うようなものもあります。 器具を使う場合は当然その器具に適した観測の仕方であったり、電気的な接点が必要な検査であればコネクタの形状であったり、機構的な試験であれば検査の妥当性を確保するための構造であったり治具であったり、事前に考えておくべきことがいくつもあります。 それらに対して全く配慮がないものは、当然作り直しを求められます。

冒頭の質問に戻ると、問題は果たしてプロトタイプの段階で上記のような(それ以上の)配慮がされているか?という問題にぶつかります。答えはほとんどの場合で否でしょう。 別にそれで悲観的になる必要はありません。ではどうするべきか?ファブありの企業の姿勢を見習うべきなのです。 ファブありの企業では大抵の企画会議では初期段階から工場のメンバーを巻き込みます。工場で製造しなければ製品にならないのだから極めて当たり前と言えば当たり前のことです。 そうして初期から 相互の制約条件や要望を明確にし、擦り合わせをしながらプロトタイプに取り組みます。 ファブレスの企業の場合、必然的に初期からタイトに会話してくれる製造のパートナーが必要になるわけですが、例えば立ち上げたばかりのスタートアップにそれを要求するのは少々ハードルが高いのではないかと思います。

したがって、心がけることは、一点は製造工場と会話を始めたところで色々と変更要望が入るということを予算及びスケジュールの面で想定しておくこと、もう一点は極力早く製造工場を決めなければそのリスクは拡大していくことをきちんと念頭に置いてプロジェクト全体の優先度を調整することです。

と、上記は少々一般論的な書き方だったので力技な解決方法を以下に二つ挙げておきます。
1. 製造に慣れ切った手練れをメンバーに組み込む
2. 原理試作までやったらあとは工場に任せる
1は仮に正社員ではなくても業務委託、コンサル、顧問、様々な形でメンバーに組み込むことは可能です。 2については正直オススメしませんが多くのスタートアップや中小企業で採用されているやり方ではあります。オススメしない理由は、他社に過度に依存することで資産が自分たちのものにならないからです。

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幸せなIoTスタートアップの輪郭

九頭龍 'kuz' 雄一郎 エンジニア/経営者, 日本の大企業からシリコンバレーのスタートタップまで多種多様な千尋の谷に落ちた経験を持つ。 株式会社ClayTech Founder/CEO, 監査役DX株式会社 Co-founder/CTO, 株式会社スイッチサイエンス取締役, 株式会社2nd-Community取締役, 東北大学客員教授, 東京工業大学非常勤講師, 武蔵野美術大学非常勤講師, 他複数社の顧問など。

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