Q. 40代でキャリアを考え直すのは遅過ぎるか?

最終更新日

Comments: 0

serious man

大抵私にこの相談をしてくる人は「マネージメントをやめてエンジニアに戻りたい」というパターンです。 実はかなり多いんですよね。

40歳前後はキャリアのアンマッチを感じるむしろ典型的な時期のように思います。 それは、キャリアにはある程度いわゆる一般的なテンプレートが用意されていて、皆それに乗せられるわけですが、当然万人に当てはまるテンプレートなど存在しないわけで、多くの人がそこにアンマッチを感じるわけです。

共通認識としてここで言う一般的なテンプレートの構造について紐解くと、20代の頃は先輩の下について仕事を覚えて徐々に成果を出し始め、30代では小規模なチームのリーダーとして管理業務を多少やりながらとはいえ最も個人で成果の出る時期を過ごし、40代になったらそろそろ中規模な組織をまとめる管理職としての席が与えられる、というようなものです。

この極めて一般的なテンプレートの大きな問題が、50代と60代とそれ以降が特に示されていないところです。 理由は単純で50代以降は管理職として出世する人とそうでない人で大きく道が異なるため一貫したテンプレートが成立しないからです。

この不合理には皆気づいています。「何故先がわからないテンプレートに乗せられるのか」「自分で別のテンプレートを選ぶことはできないのか」と憤るのはとても自然なことです。 そこで会社によっては二本立てのテンプレートを用意するようになってきています。 「マネージメントに進むルート」と「スペシャリストに進むルート」です。 しかし、多くの会社ではそう綺麗な整理ができずに「管理も実務も両方やる羽目になって結局両方とも中途半端」とか「管理する人間ばかり増えてきて全然現場のことがわからなくなってきた」というような状況に追い込まれている人が大勢います。

一旦少し話が逸れますが、給与について考えてみましょう。 年齢と給与が全く無関係な業界というのは少なからずありますが(完全歩合制や短年契約の年俸制)、ほとんどの会社員にとってそれは当てはまらないものと思います。大抵どの会社でも新入社員の給与は低く、ベテランの給与は高めです。 これは社会そのものがある種の互助会的な機能を持っているが故に自然発生した仕組みとも理解できます。何故なら年齢が高くなるにつれて家庭を持ったり子供ができたり家を買ったり様々な出費が発生し、逆に新入社員のうちは単身で狭い部屋に住んでいてもそれに大きな不満を抱える人は少ないからです。 そしてある程度若いうちは「専門的なスキルの伸び」と「給与の伸び」が連動します。自力で様々な物事が処理できるようになり、新たな案件を自ら切り開き、会社にとって最も費用対効果の高い時期がやってきます。そしてその整合性が揺らぎ始めるのが40前後なのです。 給与を頭打ちにするという手はあります。実際にそれは行われています。そうすれば会社はスキルの伸びに陰りが見えたしかし十分に業務的に貢献してくれる人間を妥当な額で雇用し続けることができます。 しかしほとんどの人は40代に入っても給与が上がり続けることを期待します。それはつまり会社からすると「それなら新たな費用対効果の期待できるスキルを身につけろ」となるのが極めて自然なことです。

じゃあ新たなスキルは「管理能力」でよろしく。

これがテンプレートの実態というわけです。 したがってマネージメントの職務をあてがわれるということは、新たな費用対効果を生み出すことであなたと会社の関係性をより長期なものに延命するための会社側からの提案なわけです。 当然マネージメントの仕事が心の底から嫌な人もいると思います。そしてやる気はあるのだけど全く向いていない人もいると思います。その場合は新たな契約関係を切ること自体には何も問題はありません。しかし提案を断るということはあなたから新たな提案をする必要があります。何故ならそのままではあなたと会社の関係性の延命には失敗する可能性がそれなりにあるからです。

ここからもこの「新たな契約」を結ぶ時期はキャリアを考え直すには至極適切な時期だということはよくわかります。

会社の提案を受けて新たな費用対効果を生み出すか、それとも別の角度で自ら提案を繰り出すか、それとも報酬面を割り切って(いずれ下がり始めることも念頭に入れて)現状をキープすることを望むか。
そして、ここに第四の選択肢を挙げておきます。転職です。

会社によって状況は異なります。 中間管理職がいなくて困っている会社もあれば、エンジニアのリーダーが不在で困っている会社もあります。 単純にマンパワーが足りなくて困っている会社もあれば、特定のスキルを持った専門家を至急必要としている会社もあります。 人材市場の多様性を利用すれば、あなたの望みはどこかで叶う可能性が十分にあります。 よく「45歳以上で転職は無理」と言われますが、これは市場でのニーズが分厚い部分のみを見ているからに過ぎません。エージェントも定番に強いところもあれば隙間ばかり狙っているようなところもあります。まず一歩踏み出してみれば世の中は案外選択肢に溢れていることに気づくことができるはずです。

「エンジニアに戻りたい」と希望する方に対して、私はアーリーな時期のスタートアップへの転職を進めています。 何故ならその時期のスタートアップはあなたに何のキャリアプランもテンプレートも提案してこないからです。 あなたのキャリアはあなただけのもの。あなたが自由に決めて、あなたの自由な道を進んでください。

このポストの内容は以下の書籍の一部(原文)です。興味のある方はぜひ書籍をお求めください。

幸せなIoTスタートアップの輪郭

九頭龍 'kuz' 雄一郎 エンジニア/経営者, 日本の大企業からシリコンバレーのスタートタップまで多種多様な千尋の谷に落ちた経験を持つ。 株式会社ClayTech Founder/CEO, 監査役DX株式会社 Co-founder/CTO, 株式会社スイッチサイエンス取締役, 株式会社2nd-Community取締役, 東北大学客員教授, 東京工業大学非常勤講師, 武蔵野美術大学非常勤講師, 他複数社の顧問など。

シェアする

コメントを残す

メールアドレスが公開されることはありません。 が付いている欄は必須項目です

コメントする