Q. 起業家は大きな発展的ビジョンを描くべきか?

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必ずしもそうではないのですが、そうあって欲しいと願っています。
その理由をここでは書きます。

第一にそもそも産業が固定化されたことなど人類史上無いという点です。

いつの時代も100年単位で見たら安定な産業など存在せず、常に新しい試みやアイディアに古いものは踏み潰されて人類は成長してきたわけです。「スタートアップ」という言葉がなかった時代から、人類はずっとスタートアップを繰り返してきています。 したがって、もしあなたが起業を志すのであれば、その1ページを作ってくれたら素敵だな、と思います。そして自分がやる際は常にそう思います。

では具体的に「発展的ビジョン」というと何がポイントになるでしょうか。 私の個人的な考えでは、発展的であるということは必ずしもLong Termの計画があるということではなく「ある種のリファレンスとして機能する」という言葉で捉えれば適切だと思います。「型の発明」と言えるかも知れません。 スタートアップは何かしらの新たな視点や新たな工夫を市場に持ち込みます(それをイノベーションと言ったりしますが)それの応用が彼らの中では「Long Termのマイルストーン」になり、他の人にとっては「新しい基礎としての参考」になることによって、彼らの中で生きたり、他者の中で生きたり、またそれを見た他者の中で、、、そうやって伝播していきます。 それ自体をもって「発展的」と言うべきではないかと私は思います。 つまり「チマチマちょい替えのビジネスモデルでちょろっと稼ぐことを狙ってないでビッグビジョンを描け!」とは、他者の模範ともなり得るような新たな視点や工夫を市場に持ち込みなさい、という言葉で解釈するとわかりやすいですよね。

第二にスタートアップがやらないと進まない話が世の中には非常に多い、ということです。

具体的には大企業にいたら10年いても20年いても40年いても無理なことが多過ぎます。 これは決して優劣の話ではなく、役割分担と理解すべきだと思います。 例えば世の中は様々なインフラで回っています。それを支える役割を主に担っているのが大企業です。

スタートアップの特徴に「半年後に潰れてても誰も驚かない」という点があります。 仮に物流が突然止まったら。 Amazonの配送が来なくなったあとに、郵便も届かなくなって、航空便も届かなくなったら、瀕死の何かは起きないかもしれませんが、社会が大混乱に陥ることは容易に想像がつきます。こういう部分は(一部は良いですが)半年後に潰れるかも知れないスタートアップに任せるには心許ないと言えます。

しかし一部の物流を時間限定、地域限定で例えば自動運転車による無人配送に切り替えるようなチャレンジは、これは大企業がやるよりもスタートアップがやる方が好ましいでしょう。理由は「きっと散々トラブルが起きるから」です。

大企業は新規事業とは別の何か主幹事業があることがほとんどです。そこで上げた利益を他の部分の投資に回します。1年目の損失はまぁいいでしょう。2年目も、まぁいいでしょう。しかし3年目、4年目と赤字が続けば次第にそのプロジェクトの責任者の社内での立場は悪くなります。場合によっては責任者がすげ替えられるかも知れません。また場合によっては主幹事業の売り上げ落ち込みの煽りをくらってプロジェクトの予算が削減されるかも知れません。プロジェクトメンバーたちも出口の見えないプロジェクトにいるより主幹事業で結果の出やすい仕事をした方が個人のキャリアや報酬の面で優位だと考えて異動を願い出るかも知れません。これが大企業で起こる「普通のこと」だと思います。

一方スタートアップの場合は逃げ場や選択肢などありません。もう「やるしかない」のです。何年赤字だろうと出資を受けた資金が尽きるまでに明確な結果を出すために1日1日燃やし尽くすしかないのです(Burn Rateとはよく言ったものです)。 どちらの方が結果が出やすいか、それはわかりきったことだと思います。

最後にスタートアップはリスク・リワードのギャップが限界まで開き切った存在だという点を挙げます。 2, 3ヶ月後には何も無くなってるかも知れないけど、2, 3年後に社会を丸ごとひっくり返しているかも知れない。 そんな会社に従業員、協力者、顧客を呼び込むためには大きな発展的ビジョンが欠かせません。

スタートアップの成功率の低さなんてみんな知っています。でもそんな中でもスタートアップにジョインする人間が一定数いるのは、決して「算盤を弾いたところ勝つ確率が高かったから」ではなく、そこに「賭ける価値のある夢」を見たからではないかと私は思います。 発展的なビジョンは多くの場合で人を惹きつける魅力を放つものです。

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幸せなIoTスタートアップの輪郭

九頭龍 'kuz' 雄一郎 エンジニア/経営者, 日本の大企業からシリコンバレーのスタートタップまで多種多様な千尋の谷に落ちた経験を持つ。 株式会社ClayTech Founder/CEO, 監査役DX株式会社 Co-founder/CTO, 株式会社スイッチサイエンス取締役, 株式会社2nd-Community取締役, 東北大学客員教授, 東京工業大学非常勤講師, 武蔵野美術大学非常勤講師, 他複数社の顧問など。

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