Q. 隙の無い万全のプレゼン、強みを掘ったプレゼン、どちらが好ましい?

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ここでは商品企画初期のプレゼンを想定して話を進めましょう。
偉い人たちに説明をした上で決裁を得るような場です。

まず、隙のないプレゼンというのはどのようなものでしょうか。
企画のコンセプト、それに基づく市場調査の結果、具体的な商品およびサービスの仕様、スケジュール、予算感、必要な人員、外部協力者、プロモーション計画、単価設定、etc. これら全てを網羅しそれぞれの関連性、数字の整合性、それらが完璧に整ったプレゼンのことを指すのではないでしょうか。

明らかにtoo muchですね。

「ピークエンドの法則」というものがあります。
人は会話の中の「一番盛り上がった話=ピーク」と「最後にした話=エンド」がどうだったかで会話全体の印象をほとんどコントロールされてしまう、という法則のことです。 「そんな極端なことないだろー」と思うかも知れませんが、これは立派に確立された行動心理学的な現象です。 これを簡略化して捉えると、こちらは少々ノウハウ的な経験則ですが「プレゼンで何分話そうと相手は結局2, 3箇所のことしか覚えていない」という言い方であればそれなりに納得感があるのではないでしょうか。 色々長々と並べても、実は印象に残るのなどせいぜい2, 3箇所しかないのです。

シリコンバレーでピッチをしていた時に、非常に面白い現象に直面したことがあります。 日本ではあまり見ることがありませんが「投資家がピッチを途中で止めて質問する」のです。これはいくつかの理由があるのだと思います。

①長いプレゼンを見て時間を無駄にしたくない
②思った時に質問しないと忘れる
③投資判断にそこまでたくさんのファクターが必要だとは思っていない

まず①については直接こう言われたことがあります。
「申し訳ないけど1ページでも興味が持てないスライドがあったら私は席を立つからね」と。(怖っ)
②については先程のピークエンドの法則に惑わされないための対策と言うことができると思います。
そして③、事業の企画でも商品の企画でも、初期において重要なことというのはとても限られているのです。

逆に、得てして「重要ではないところの議論(いらぬツッコミ)」に陥ってしまうことが多いのがむしろ
「隙のないプレゼン」
のパターンなのです。(矛盾しているように聞こえるかも知れませんが)

例えば、「癒し」をテーマにした製品の企画だったとします。 最も重要な(あなたが伝えたい)ポイントは「癒し」という若干曖昧な指標をどう捉え、そしてそれに対してあなたがどうアプローチするかです。
このようなケースで例えばマーケットサイズなどは無意味です。
「癒しなんていらねぇぜ、ヒャッハー」な人は皆無と言って良いと思います。誰もがそれぞれその人なりの癒しを多かれ少なかれ求めています。市場規模はそのセグメントをどう切るか次第ですので自然に決まるものではありません。
しかしここで下手に「30代女性100人にアンケートを取ったところ」というようなデータを取り上げたら「50代のおっさんはターゲットじゃないのかな」と要らんツッコミを喰らうことになります。
また企画の極めて初期のフェーズにも関わらず予算や事業計画の詳細が精緻に書かれているプレゼン資料を見ることというのも非常に多いのですが、これは典型的な要らんツッコミを招くパターンです。仮に書くとしても四半期ごとやプロジェクト全体、あるいはファーストフェーズ終了まで、というようなマイルストーンで切った予算感をざっくり提示した方が「考えていないわけではありません。
でも現時点でここはさほど重要ではありません」というメッセージを伝えることもでき、有効です。

さて、ツッコミを受けることに対してネガティブな書き方をしてしまっていますが、実はツッコミを受けること自体にとても重要な役割を与えることもできます。ある種のプレゼンテクニックです。

これは、ヤマハに所属していた頃に商品企画を考えるのが好きな開発メンバーたちよく言っていたノウハウですが、簡単に言うと、

・プレゼンにわざとツッコミやすい場所を作っておく
・当然その「場所」はプロジェクト全体からしたらさほど重要ではないところ
・その場で考えて答えを言ったり、「課題とは認識していますが優先度が低いと考えてます」というようなことは言わず。とにかく「ありがとうございます」「気づいてなかったです」というスタンスでその場では答えを言わず終える
・次回機会があった際に颯爽と「先日ご指摘のあった件、調べてみました/データをまとめました/自分なりに考えてみました」と言うことで、その質問者は「味方」になり、今後協力的な態度を取ってくれるようになる

隙なんてむしろあった方がいい、ということですね。
それよりもあなたのアイディア、独自性、尖ったコンセプトを伝えること、そして理解してもらうことに時間を注ぐのが賢いやり方だと言えます。

九頭龍 'kuz' 雄一郎 エンジニア/経営者, 日本の大企業からシリコンバレーのスタートタップまで多種多様な千尋の谷に落ちた経験を持つ。 株式会社ClayTech Founder/CEO, 監査役DX株式会社 Co-founder/CTO, 株式会社スイッチサイエンス取締役, 株式会社2nd-Community取締役, 東北大学客員教授, 東京工業大学非常勤講師, 武蔵野美術大学非常勤講師, 他複数社の顧問など。

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