Q. 中国って何であんなに安く製品作れるんですか?

man working inside the kitchen

中国製造の安さのカラクリについては、様々なレイヤーで様々な意見がありますので以下に示すのはあくまで私が認識している範囲のことです。

まず1つ明らかに目につくのは中国ローカルシリコンの採用です。私は仕事上、市場の製品を買って分解して中身を見ることがよくあります。その際に中国製品をバラすとすぐに気づくのが、 いくつもの見たことも聞いたこともないICが基板上に乗っているということです。

ICの表面に銘板が書いてあるためそれを手がかりにデータシートを探します。しかし手に入るデータシートは全て中国語のみで、かろうじて概要は分かるものも詳細は正直よく分かりません。物によってはデータシートが入手できないものも少なくありません。 かろうじて読み取れる限りで理解すると「なるほどこのICは〇〇社の〇〇の同等品なんだな」とわかります。加えて回路構成を紐解くことでさらにきちんとした確信が持てます。

何故ローカルシリコンが安いかという話には健全な話から不健全な話まで諸説ありますが、「海外製品向けのファブの空き時間や余剰材を使って作っているものだから」とか「枯れたICの再生産なので実質的に償却すべき資産がないから」とか「サプライチェーンがシンプルで短くなることで余計な費用が乗ることがない」というような回答がマイルドで良いのではないかと思います。

中国の工場に日本で設計した回路図や部品表を渡すと多くの場合で言われるのが「高い部品ばかり使ってる」というひとことです。 当然日本の設計者(あるいは米国や欧州や東南アジアの設計者)も一生懸命リーズナブルかつ信頼できる部品を探して回路を設計しています。世界的に多く用いられいているMouserやDigikeyなどで値段を確認すると、決して高い部品ばかりということはありません。 しかし中国の設計者にとっては、そもそもそういうサイトで取り扱っている部品自体が「高い部品」なのです。

次に、これは単体の製品だけを見てもわからないのですが、市場で複数の製品を買ってバラすとわかることが、日本や欧米では考えられないレベルの資産の流用が行われているということです。 例えば脈拍を計測して表示するようなヘルスケアバンドがあるとします。

一般に、例えばAmazonで探せば二千円くらいから手に入ります。しかし中国では数百円から手に入ります。 一度試しにそういうものを20製品くらいかき集めてみたことがあるのですが、回路のパターンは概ね2, 3通りしかありませんでした。同じ部品、同じ回路構成、下手をすれば外装も同じです。全て設計資産を流用して作られているのです。

ここから予測できることはいくつかあります。 実は製造元が全て同じ。本来は誰かの依頼で作成された設計データを不当に流用している。設計データそのものが裏で流通している。 これらのどれが正解かはわかりませんし、それぞれケースバイケースだと考える方が妥当です。

しかしながら設計リソースをあまりかけずにガンガン製品を世の中に送り出す習慣があるということです。 これはそもそもの原価を大きく削減することで当然コストに影響しますし、部品の共通化によって数の論理で調達のコストを下げることにも大きく貢献します。

しかしながら一方でカスタマーサポートやビジネスの永続性の面では疑問が残ります。製品によってはIoT製品でありながら「アプリについては〇〇社の〇〇を利用してください」と完全に丸投げしているものも少なくありません。

非常にポジティブな点としては、中国のエンジニアと付き合うと皆若くて優秀なことに気付かされます。 中国では一部の大都市を除けば一般的なリビングコストの水準は日本より安いですが、とはいえ例えば深圳の中心地で豪華な外食をすれば日本と同等どころかむしろ高くつきます。

そのような状況でも若くて野心に溢れた若者たちは、ちょろっと儲けて高級取りになることよりも、ヒット製品を出して事業を大きくすることの方に大きなモチベーションを感じています。これは日本や他の国でも変わりません。したがって彼らは生活最低限の給料をもらいながら死に物狂いで働くわけです。

中国ではそのような若者たちが積極的にものづくりに関わっていることが、業界全体をコストリーズナブルにすることに大きく貢献しているように私には思えます。

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幸せなIoTスタートアップの輪郭

九頭龍 'kuz' 雄一郎 エンジニア/経営者, 日本の大企業からシリコンバレーのスタートタップまで多種多様な千尋の谷に落ちた経験を持つ。 株式会社ClayTech Founder/CEO, 監査役DX株式会社 Co-founder/CTO, 株式会社スイッチサイエンス取締役, 株式会社2nd-Community取締役, 東北大学客員教授, 東京工業大学非常勤講師, 武蔵野美術大学非常勤講師, 他複数社の顧問など。

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