Q. 組織によくある典型的なリスクとは何でしょうか?

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アドバイザーやコンサルの形で会社と関わる際に私がとても気にしている組織的リスクがあります。 それは社内の別部署や別オフィスのメンバーに対して「〇〇の人たち」という言い方を使うかどうかです。

「営業の人たち」「開発の人たち」「1階の人たち」「〇〇オフィスの人たち」

これらの言い方は典型的なラベリングの始まりです。 ラベリングは抽象化によって物事を簡略化する時にとても便利に用いられますが、これを社内に用いる時は危険信号。大抵の場合で思考放棄の逃避的心理から発生しています。

なお全体をマクロ的に捉えて会話せざるを得ない、あるいはそれが適切な状況というのはあります。 わかりやすいのがマーケティングです。「40代の主婦」とか「富裕層の家庭」とか「首都圏の独居老人」とか、ある程度クラスタ分けをした上でラベリングを行わないと会話がしにくくて仕方がありません。
しかし本来「社内」というものはむしろその対極にあるはずです。

どのようなプロジェクトでも、適切なマネージメントが働いていれば、大抵は「誰が関わってるのかよくわからない」という規模までになることは少ないです。その前にプロジェクトが適切に分割され、リソースが見直され、マイルストーンが再設定されるからです。 したがって健全なプロジェクトにおいては関わっている人間全てが「見える範囲にいる」と言って良いはずです。物理的に見える、という意味ではなく個別のメンバーが「どういう役割を持っていて」「何を考え」「何をやっているか」が「知ろうと思えば知ることができる距離感」にいるという意味です。

ラベリングというのは決めつけです。特に母数の大きい集団に対して用いる場合、ここに対してそのラベリングが適当ではないことは皆知っています。「日本人は礼儀正しい」「50歳以上は頭が固い」「体育会系出身者は上下関係に厳しい」などなど。「全体で見ると確かにその傾向はあるのかも知れないけど、私は違う」という反論はそこかしこにあることでしょう。

一方、ラベリングには心理的な誘導効果があります。占いの結果を聞くと「そうかも知れない」と思うことがあるのと全く同じです。 したがってポジティブに使うのが基本となります。 「我々ならできる」「我々は類稀な優秀なメンバーたちで構成されている」「君たちはいつも緻密な調査をしてくれていて素晴らしい」など。 これは案に「できると思って進め」「優秀であれ」「調査は緻密にやれ」という誘導=指示が入っています。 魔法ではないのでこれを繰り返し使う必要がありますが、このようなラベリングは組織にとって有効に働くことがあります。

しかし「開発の人たちは頼みごとをすると嫌な顔をする」「営業は外に行ってばかりで社内の状況がわかってない」「1階のメンバーはやる気がない」「大阪支社の人間はカスタマーサポートの質が低い」というような使い方は、反感(私は違う)を買いこそすれ、何もポジティブな改善にはつながりません。
ラベリングは距離感を取ろうとする心理の現れでもあります。抽象化することで、深く相手のことを考えること、傾聴することから逃げる行為です。その後についてくる言葉がポジティブなのか、ネガティブなのか、考えずともわかることですね。

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幸せなIoTスタートアップの輪郭

九頭龍 'kuz' 雄一郎 エンジニア/経営者, 日本の大企業からシリコンバレーのスタートタップまで多種多様な千尋の谷に落ちた経験を持つ。 株式会社ClayTech Founder/CEO, 監査役DX株式会社 Co-founder/CTO, 株式会社スイッチサイエンス取締役, 株式会社2nd-Community取締役, 東北大学客員教授, 東京工業大学非常勤講師, 武蔵野美術大学非常勤講師, 他複数社の顧問など。

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