Q. 製品開発スケジュールを書く上で調達のリスクが最も大きい?

men working in a warehouse

プロジェクトマネージメント(PM)の方はよくガントチャートを書きます。 それぞれのタスクやその担当者が各行に列挙され、そこから横向きに伸びた棒線が時系列でそのタスクがどこにあたるかを示している図表です。 きちんとしたプロのPMの方はタスクとサブタスクをきちんと分解し網羅的にスケジューリングを行います。 しかしながら商品の企画段階やもっと上位レイヤでのスケジューリング、例えばプロモーションや販促物、展示会イベントなども並べて描くようなざっくりしたチャートの場合、表現の粒度が下がります。 そのような時に最も見落とされがちなものが調達です。

広義に調達とは例えば部品や部材の納期、Sub Assy品の納期、金型製造の日程なども含めて考えられます。 特徴で言えば、既存のサプライチェーンの仕組みで決まっている極めて柔軟性の低いリードタイムで縛られているタスク、だと言えます。 したがって全体のスケジュールを立てる上では実はトップランクでボトルネックになり得るのです。

例えば電子部品の調達の場合、一般的には標準リードタイムと呼ばれるものが設定されています。これは生産ラインの立ち上げをして部材を調達して生産をして出荷して届くという一連のプロセスを通した場合のリードタイムと理解すればだいたい合っています。概ね10~20週です。しかしながら一般的な電子部品の場合は流通在庫があります。メーカーではなく代理店であったり販売店の倉庫にある在庫のことです。これらは当然標準リードタイムより短い時間で手に入ります。

しかし在庫は常に市場での取り合いなので確実性に欠け、手に入るかどうかはその時にならないとわかりません。 また特徴的な機能を持った電子部品はどこか大手メーカーが一気に事実上の買い占めに走ることがあります。これは別に珍しいことではなく何年かに一度のペースで必ず起きています。例えばiPhoneの新機種での採用が決まったために数百万台規模の在庫が一瞬にして市場から消え失せるようなことは何度も見られています。

Sub Assyはいわゆる途中まで組み立てたもののことですが、こちらも一般的にはリードタイムがかかるものです。例えば片側だけ組み上げたケーブルだとか、ディスプレイの前面だけだとか。これらは都度組み立てラインを設置して、製造のプロセスを構築して、出荷判断の基準を作って、検査設備も必要に応じて作って、部材を調達して、そしてラインに実際に流してようやく出荷されるわけです。ネットでポチッとオーダーすれば届くようなものではありませんので、言うまでもなく時間がかかります。

また金型の作製には時間がかかるということは一般にも理解されていると思います。金型は内部に溶かした樹脂等を流し込んでそれを固めてから取り出すことで安価で大量に同形の樹脂部品を作り出すことが可能になります。金型を作ってしまえばそこから生産は速いのですが、作るまでには時間も手間もかかります。具体的には削りの時間だけで数週かかることが珍しくありません。大きな金属の塊を削る作業です。その後試しに打ってみた後で直しが入ります。この作業が何度か繰り返されてようやく使い物になる金型が出来上がります。結果的には1~1.5ヶ月かかるのが一般的です。

ここに挙げたものはあくまで典型的な例でしかありません。 場合によっては極めて入手困難な部品が必要であったり、特定の部材が極端な品薄状態にあり価格が数倍に跳ね上がっていたり、様々な流動的ファクターをコントロールしなければ安定した調達は困難です。したがってある程度の規模以上のメーカーになれば調達の専門のチームが存在するのが一般的です。

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幸せなIoTスタートアップの輪郭

九頭龍 'kuz' 雄一郎 エンジニア/経営者, 日本の大企業からシリコンバレーのスタートタップまで多種多様な千尋の谷に落ちた経験を持つ。 株式会社ClayTech Founder/CEO, 監査役DX株式会社 Co-founder/CTO, 株式会社スイッチサイエンス取締役, 株式会社2nd-Community取締役, 東北大学客員教授, 東京工業大学非常勤講師, 武蔵野美術大学非常勤講師, 他複数社の顧問など。

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