管理したがる経営者の意外なネガティブ面

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businessman in his office looking at the camera

私は仕事上多くの経営者の方々と関わりを持っていますが、 時に友人的にビジネス談義したり、時に仕事のパートナーとして共同作業に取り組んだり、 時にどちらかが依頼者でどちらかが受託者となるある種の従属関係の下で仕事をすることもあります。
このようないくつかのパターンの中で色々な会話をしていくと、先日ふと気づきがありました。 ある種パターン化された落とし穴と言って良いかと思います。

「管理したがる経営者」について。
一般には管理したがる経営者は、
・細かいところまで現場に干渉したがる
・自分で全てを把握してコントロールしていないと気が済まない
・経営者本人はビジネス的にはすこぶる優秀
というような特徴を持っていて、

ネガティブなアウトプットとしては
・現場がやる気をなくす
・社長が決めないと進まないのでスピード感が損なわれる
・いつまで経っても社員が育たない
・スケールしない
というようなことが言われます。

まさに負の循環です。

この循環を整理するとある一つの残念と言わざるを得ないメンタル的特徴が発生する可能性が高いと思い至りました。
それは「他人はアテにならない」という悲惨な考え方を『自らの行動によって招く』ということです。

例えば優秀な部下を得たとします。
このパターンの経営者はとても優秀です。
最初はその優秀な部下の知識や経験について正当な評価を下します。 「あなたは素晴らしい」と。
しかしある程度まで付き合いが続くと、経営者本人も色々と吸収し、 彼らの専門領域に対しても自分なりの意見を持ち始めます。
さて他人は所詮他人です。 意見がずっと同じということなどあり得ません。
そうするとその部下と経営者の意見が割れ始めた途端に、 「なんかズレてるんだよな」「こいつもこの程度か」と断じてしまいます。

非常に未熟な若者が入ったとします。
最初は「しばらく教育が必要だろう」と適切な手当てをして見守るでしょう。
1, 2年すると「もういけるだろ」と重い仕事を任せます。
当然1, 2年程度の経験では簡単にこなせないケースが発生します。
「申し訳ない。まだ早かったな」と正当な判断を下します。
そうして干渉が始まります。
アレコレと指示をすることでプロジェクトは進み、ミスやトラブルは減りますが、 結果として彼らの失敗と成功と葛藤の機会を奪います。 当然成長しません。
また1, 2年後に「全く伸びないな」「まだこの程度か」 「やっぱり人材育成は投資対効果が低い(社長=コスト高い がつきっきりで色々教えたのに)」 と断じてしまいます。

どちらも身から出た錆です。

前者は異なる意見や視点を受け入れないがために発生しています。
後者は人材教育のメソッドが間違っているために発生しています。

しかしこれらは相手次第では「成功したように見える」こともあります。

例えば「こちらの意図を全部汲んでくれる優秀なイエスマン」を得ることもあります。
経営者の考えていることを肯定する理由を巧みに展開し、 否定する要素には蓋をして気持ち良い関係を保ってくれます。 優秀な駒として粉骨砕身、従順に空気を読んで過ごしてくれることでしょう。
しかし、果たしてこんな人の存在は会社にとってプラスなのでしょうか?

例えば「千尋の谷に突き落としても這い上がってくるやつ」は少ないけど、確かにいます。
いかなる無茶ブリも乗り越えて息絶え絶えながら常に結果を出してきます。
しかし、往々にして無茶ブリはエスカレートしていきます。
果たしてこの人、どこまで保つでしょうか?

結果的にはどちらもネガティブな結末を迎えます。

そしてまた思います。「やっぱこの程度か」

「管理する」ということは経営者だけに限らず マネージャーやチームリーダーレベルにおいても共通の極めて一般的なタスクです。 しかし「管理」の捉え方を間違うだけで中長期的に響く取り返しのつかない状況を作り出すこともある ということは強く肝に銘じておく必要があるように私は思います。

九頭龍 'kuz' 雄一郎 エンジニア/経営者, 日本の大企業からシリコンバレーのスタートタップまで多種多様な千尋の谷に落ちた経験を持つ。 株式会社ClayTech Founder/CEO, 監査役DX株式会社 Co-founder/CTO, 株式会社スイッチサイエンス取締役, 株式会社2nd-Community取締役, 東北大学客員教授, 東京工業大学非常勤講師, 武蔵野美術大学非常勤講師, 他複数社の顧問など。

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