Q. フルタイムでの人材確保が難しい。どうしたら良いか?

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本人がフルタイムでの就業経験しかない人の場合「人材確保が難しい」ということと「フルタイムの人材確保が難しい」ということを同等の文脈で相談されることが非常に多いです。

そうです。フルタイムにこだわる必要はないのです。

特に特殊なスキルを持つ人員を確保したいと考えている場合、そういう人間は市場で引くて数多です。
ひとつ重要な一般原則として、複数の仕事を持つ人、いわゆるポートフォリオワーカーは単一の仕事にフルタイムで従事する人よりも収入が高い傾向があります。 前述の通りにハイスキルで引くて数多だということも重要な要因ですが、もうひとつ「ある種の最低賃金」の効果について理解する必要があります。 どんな仕事でもハイスキルな人材に関わってもらう際に「失礼にならない最低の金額」が業界通例的に存在するはずです。これは業界、スキル、従事する業務によって相場が異なりますので一概にいくらとは言えません。 しかしそれはほとんどの場合において月給を時給換算した数字よりも大きいのです。

例えば月収50万円の人材がいたとします。 月20日換算、1日8時間勤務で40時間みなし残業があるとして計算すると時給換算で2500円になります。 彼はAIで特別なスキルがあり、あなたの会社のとあるAI関連プロジェクトにレビュワーとして入ってもらうとします。 レビュワーなので毎日やることがあるわけではありません。まずは週一の定例レビュー1時間に出席してもらって、ミーティング後に具体的な指導(1時間)をしてもらうとします。 週一の2時間ですので月8時間「じゃあ2500 x 8 = 20,000円でお願いします」と言えるでしょうか。 もし言うつもりだったらあなたは採用で困難を抱える覚悟をした方が良いです。 普通ある程度の経験がある人であれば「20,000円じゃ積極的に関わってもらえないな」とピンと来ます。もう少し旨みのある条件を提示する必要があります。そうすると恐らく30,000~50,000円あたりでのオファーとなり、時給換算2500円の彼としては実質的に時給が3500~6000円と増加することになります。

このような話が積み上がることで、最終的にこの人材の月収は50万円を上回ります。(ポートフォリオワーカーの収入は不安定なので瞬間最大風速を測ることにあまり意味はありませんが、それは別の問題で) したがって、このような働き方に慣れた人にとっては多くのフルタイムのオファーは魅力的には映らないのです。

以前、上場時CTOの経験を元に現在コンサルで身を立てている方が「時給10,000円の壁は多少腕に覚えがあるやつなら必ず突破する」と言っていたのを覚えています。

先程の計算に当てはめれば時給10000円は月収200万円を意味します。ということは年収2400万円です。またこのような人材は大抵独立開業します。節税のためです。そうすると従来的な雇用だとして年収換算すると多めに見積もれば3000万円相当になっているかも知れません。

ここまで来た人材をフルタイムで引き抜くというのはとても大変な話です。

「いくら給与が下がってもやりがいを取る」というのはよく聞く話です。 決して珍しい話でも感動ストーリーでもありません。よくある話です。人間は幸せになるために生きているのであって金儲けのためではありませんので至って当然です。

エクイティやSOなどキャピタルゲインの魅力を使うのも一般的です。 こちらも効果的です。というのも年収が十分に大きい人は蓄えがあります。蓄えがあるということは1, 2年無収入に陥っても困らないということです。そういう人間が一般に次に考えるのはキャピタルゲインを得ることです。 ニーズとしては一致するケースが高いですが、当然その会社の成長の確実性を厳しい目で見られることにはなります。

そして、何もチャレンジングではない無難な手段が「フルタイムではない形で関わってもらう」ということです。 とても単純ですが、まずそういう話の仕方であれば最初から断られることは考えにくいですし、条件面の詳細の話に持ち込むところまでは恐らくどのようなケースでも可能なのではないでしょうか。 仮に最終的に条件的に合わず(週2ならいいけど週3は今は無理、とかで)一旦話の折り合いがつかなかったとしても、一度詳細を話しておけば事業面や条件について相手に伝わるので、別のタイミングで「例の件だけどまだサポート必要?」なんて向こうから連絡があるかも知れません。

「欲しい人材には青天井で払う!」 なんていう惚れ惚れする選択肢を取る人もたまにいますね。 シリコンバレーでは「先日シード調達したばかりの〇〇が年収50万ドルでGoogleからスーパーエンジニアを引き抜いた!」なんて話を聞くことがありました、が、その後、再びそのスタートアップの名前を聞くことはありませんでした。

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幸せなIoTスタートアップの輪郭

九頭龍 'kuz' 雄一郎 エンジニア/経営者, 日本の大企業からシリコンバレーのスタートタップまで多種多様な千尋の谷に落ちた経験を持つ。 株式会社ClayTech Founder/CEO, 監査役DX株式会社 Co-founder/CTO, 株式会社スイッチサイエンス取締役, 株式会社2nd-Community取締役, 東北大学客員教授, 東京工業大学非常勤講師, 武蔵野美術大学非常勤講師, 他複数社の顧問など。

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