Draw Down〜地球温暖化を逆転させる100の方法〜についてメモ(建設・都市部門)

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『Draw Down』はアメリカのライターが主導し、世界各国の研究者たちが寄稿したプロジェクト的な書籍である。
「ドローダウン=二酸化炭素が減少に転じること」のためにできることを、現状行われていることの展望と未来の技術の紹介の大きく2つに分けて示している。
特に「現状の理解」は私個人多くの項目の詳細を知らなかった(あるいは認識すらしていなかった)ため衝撃的だった。
社会人必読書と言って良い。
しかし400ページ超の2段組ということで実質的なボリュームは一般的な単行本でゆうに3冊分あり、割と読むのが早い私でも読了に1ヶ月以上かかった。

そこである程度エッセンスを抽出して整理したいと思う。 兎にも角にも「全体感」を掴むにはうってつけの書物だ。

ここでは建設・都市部門について。

冷暖房の25-60%が外気に漏れていると言われていて非常に大きな無駄である。
またビルのエネルギー効率はIoTで最適化すれば10-20%削減できるとされるが、エネルギーに対する支出は得てして支出全体からすると小さく、設備投資に対する十分なモチベーションがない。
あくまで金の領域で考えると、ということだ。

ネット・ゼロ・エネルギー・ハウス

エネルギー収支をトータルゼロにする建物。 調光窓、冬は張り出し夏は日陰を作るベランダ、シロアリ塚や地中熱を参考にした空冷システム、天井断熱性能を高めることで冬は暖かく夏は涼しい、ソーラーパネルで発電し、明かりは日光を有効に使えるように設計する。

・ハワイのカウプニビレッジ
・フライブルクのゾンネンシフソーラーシティ

ネット・ゼロ・エネルギー・ハウス以外は建ててはいけない法律を制定する州も続々。

ロッキーマウンテン研究所

コロラド州べソルト
快適さを決めるのは気温、湿度、風速、着衣レベル、活動レベル、周囲の表面温度。
これらをコントロールすることで快適と感じることができる範囲が、従来の21-24℃に対して19-28℃に広がった。

屋上緑化

ドイツのシュツットガルト、オーストリアのリンツなど。
空から見ると一面の緑。 屋根がヒートアイランドを促進しているのでそこを緑でカバーする。

グランドカバー(地表を覆うように広がる地被植物)なら浅い土で育つため屋上に適している。
セダム、ベンケイソウ、マンネングサなど。

スイスのバーゼルのカントナル病院は1990世界で最初のグリーンルーフ。
シンガポールではグリーンルーフの半額を政府が補助。

クールルーフ

反射する屋上。コスト安い、メンテも容易。カリフォルニアで増加。
だがまぶしくて近所迷惑で冬寒い。 反射率調整機能が開発されている。

ヒートポンプ

熱移動の技術であり、冬に外部の熱を内部に送り、夏に内部の熱を外部に送ることが可能。
北日本では地熱で家を温めている。 問題は後付けが難しくコストもかかること。

DHC:地域冷暖房システム
冷温水パイプで一帯の建物をまとめて冷やしたり温めたりする。
起源はローマの温水でニューヨークで19世紀に復活。

デンマークのコペンハーゲンがDHCのトップ。
火力発電の予熱で暖房の98%をカバーし、加えて火力はバイオマスに完全に切り替わる予定。
夏はエーレスンド海峡の海水で冷房している。

歩く都市

例えばフィレンツェ、マラケシュ、ドゥブロヴニク、ブエノスアイレスなど。
便利さを訴えるものに頼らない。
徒歩移動が有益で、安全で、快適で、興味をそそるものである必要がある。
複数の公共交通機関との接続が良いことが条件。

自転車の都

アムステルダム、ロッテルダム、ユトレヒトなど。
デンマーク、ドイツ、オランダが自転車インフラは強い。
デンマークでは移動の18%が自転車。オランダは27%。米国は1%

コペンハーゲンでは自転車スーパーハイウェイを設置。意図的に駐車スペースを減らして車の利便性を下げている。

グリーンウェーブ:自転車が一定のスピードであれば信号に引っかからないという技術革新

ガラス

ガラスは家の断熱性能を下げるが、合わせガラス、低放射コーティングなどで改善されてきた。
アメリカではエネルギースター(規制)の対象となっている。

エレクトロクロミズム:電気で色が変わるガラスのこと
他にもサーモクロミズム、フォトクロミズムがある。 可視光は通して熱は遮断する、とかも最近の技術。
ボーイング787-788-789はエレクトロクロミックガラス。 スマートウィンドウとも言われる。
普及率は僅か0.004%

メタン回収

埋め立て地に穴を開けてパイプを配置して集める。 安全に排気するか、燃焼するか、圧縮して天然ガスに混ぜて使う。
埋め立てられた有機物はまずは好気性細菌が分解する。 しかし層が重なると今度は嫌気性細菌が働き二酸化炭素とメタンがほぼ半々のガスを出す。 二酸化炭素は自然の循環に回るがメタンは別。
問題は、既に埋め立て終わった場所の方がメタンの回収効率が良いが、メタン排出の90%は現役の埋め立て中の土地からであること。
また埋め立てメタンの利用は埋め立てそのものが無くなれば不要になる技術ではある。

漏水

世界では常に漏水があり(米国では1/6)、それは水のために使われたエネルギーが無駄になることを意味している。
したがって水道管インフラを整備し直すだけで温室効果ガスは削減できるということ。

【新技術や新たな試み】

LBC リビングビルディングチャレンジ

いわゆる認証なのだがいくつか特殊なルールがある。

・未開地は使わない
・土地内で食料を育てる
・1エーカー建てたら1エーカーの自然を保全
・徒歩や自転車で暮らせるデザイン
・正味プラスの水
・正味プラスのエネルギー
・レッドリスト材料を使わない
・建設時に使われたカーボンはオフセットする
・地元で調達する
・建設時の廃棄物の90%以上を再利用
・投資額の半分は社会貢献に寄付

バージニア州のブロック環境センターなど。

木造建築

木造建築は炭素を長期間隔離できる。
ノルウェーのベンゲンにある14階建てのアパート、メルボルンの10階建て、ロンドンの9階建てなど全木造のパイオニア。

薄い板の張り合わせでスチールやコンクリートの代替とすることは2百年近く前から行われてきたこと。
スチールは熱で曲がるが、木造パネルは表面が炭化して中を守る。

Tall Wood Building Prize:多くの建築基準が木造建築を4,5階建てに制限している

[関連リンク]
・Draw Downについてメモ(エネルギー部門)
・Draw Downについてメモ(農業部門)
・Draw Downについてメモ(自然保護)
・Draw Downについてメモ(運輸部門)

九頭龍 'kuz' 雄一郎 エンジニア/経営者, 日本の大企業からシリコンバレーのスタートタップまで多種多様な千尋の谷に落ちた経験を持つ。 株式会社ClayTech Founder/CEO, 監査役DX株式会社 Co-founder/CTO, 株式会社スイッチサイエンス取締役, 株式会社2nd-Community取締役, 東北大学客員教授, 東京工業大学非常勤講師, 武蔵野美術大学非常勤講師, 他複数社の顧問など。

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