Draw Down〜地球温暖化を逆転させる100の方法〜についてメモ(運輸部門)

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『Draw Down』はアメリカのライターが主導し、世界各国の研究者たちが寄稿したプロジェクト的な書籍である。
「ドローダウン=二酸化炭素が減少に転じること」のためにできることを、現状行われていることの展望と未来の技術の紹介の大きく2つに分けて示している。
特に「現状の理解」は私個人多くの項目の詳細を知らなかった(あるいは認識すらしていなかった)ため衝撃的だった。
社会人必読書と言って良い。
しかし400ページ超の2段組ということで実質的なボリュームは一般的な単行本でゆうに3冊分あり、割と読むのが早い私でも読了に1ヶ月以上かかった。

そのためある程度エッセンスを抽出して整理したいと思う。
兎にも角にも「全体感」を掴むにはうってつけの書物だ。

ここでは運輸部門について。

公共交通機関

アメリカの都市圏で公共交通機関利用者は5%以下。シンガポールとロンドンは半分。
公共交通機関は炭素的には魅力的だが都市の高密度化を求める。 都市が広がり続けるスプロール現象(一般に起きていること)の逆だ。

新幹線の炭素削減効果はとても大きいがコストの問題で進まない。
カリフォルニアの高速鉄道計画もコストが倍加しながら終わる見込みが立っていない。
高速鉄道の収支がプラスになる区間は実は世界でも限られている。また建設そのものにセメントを大量に使うため炭素排出は避けられない。

モーダルシフト

ブラジルのクリチバはモデル都市。
バスは前払いで乗り場はあちこちにあり、バス専用道があり、当然自家用車より運搬能力(人数✕距離)が高い。

ジャイメ・レルネル市長
「創造性が欲しければ予算の桁をひとつ削れ、持続可能性が欲しければ2つ削れ」

電気自動車

構想自体はエジソンとヘンリーフォードの時代からあったが、バッテリー開発が進まず実現しなかった。
自動車の黎明期には「内燃」「電気」「蒸気」は互角だったが、フォードの力で内燃自動車のコストが下がり、アメリカ国内で油田が見つかることでガソリンコストが下がり、結果的に覇権を握った。

中国で電気自転車が流行ったのは1990年代に大気汚染がヤバイことになった頃だったが、鉛蓄電池のリサイクルがイマイチで問題になった。

ライドシェア

ライドシェアの始まりは実は第二次世界大戦中。資源の節約のために相乗り通勤が推奨された。
1970年代に大気汚染問題で再度注目され、その時期にカープール(2人以上乗ってる車だけが走れる渋滞回避用の特別車線。アメリカでは一般的)ができた。

トラック

トラックは台数ベースで全体の4%、走行距離でも9%程度だが、排出量は25%と燃費の悪さがヤバい。
燃費の良い最新車両への切り替えは実は1〜2年で元が取れることがわかっている。 しかしスプリットインセンティブ(車両に投資する人と燃費の削減メリットを享受する人が異なる)による困難が発生しているケースも多い。

飛行機

飛行機は最も困難な化石燃料削減カテゴリーで排出量は海運の47倍と言われている。
バイオジェット燃料への移行が期待されるがコストもインフラも実現には遠い。
航空会社に燃費データの提出を義務付けたら使用量が削減できた(着陸前に水平飛行して待機する時間を減らすとか努力)

バンカー油

海運で使われることがある石油精製の残りカス。硫黄が多くPMの元
船の運行による炭素排出は現時点では基準も規制もない。

【新技術や新たな試み】

ハイパーループ

イーロン・マスクの構想で6000億円を投入。
サンフランシスコからロサンゼルスまでを結ぶ構想で、減圧チューブの中で列車を走らせることで35分で到着する。

元々のアイディアは1910年代のロケット科学者ロバート・ゴダード。

消費電力が従来の90%減と画期的だが、問題はちょっとしたカーブで乗客にヤバイGがかかるため基本直線でしか走らせることができないこと。直線で平らな土地は確保は非常に難しい。

ザ・レイ

インターフェイス社(元々カーペットメーカー)のプロジェクト。EVが走りながら充電する

[関連リンク]
・Draw Downについてメモ(エネルギー部門)
・Draw Downについてメモ(農業部門)
・Draw Downについてメモ(自然保護)

九頭龍 'kuz' 雄一郎 エンジニア/経営者, 日本の大企業からシリコンバレーのスタートタップまで多種多様な千尋の谷に落ちた経験を持つ。 株式会社ClayTech Founder/CEO, 監査役DX株式会社 Co-founder/CTO, 株式会社スイッチサイエンス取締役, 株式会社2nd-Community取締役, 東北大学客員教授, 東京工業大学非常勤講師, 武蔵野美術大学非常勤講師, 他複数社の顧問など。

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