Draw Down〜地球温暖化を逆転させる100の方法〜についてメモ(自然保護)
『Draw Down』はアメリカのライターが主導し、世界各国の研究者たちが寄稿したプロジェクト的な書籍である。
「ドローダウン=二酸化炭素が減少に転じること」のためにできることを、現状行われていることの展望と未来の技術の紹介の大きく2つに分けて示している。
特に「現状の理解」は私個人多くの項目の詳細を知らなかった(あるいは認識すらしていなかった)ため衝撃的だった。
社会人必読書と言って良い。
しかし400ページ超の2段組ということで実質的なボリュームは一般的な単行本でゆうに3冊分あり、割と読むのが早い私でも読了に1ヶ月以上かかった。
そこである程度エッセンスを抽出して整理したいと思う。
兎にも角にも「全体感」を掴むにはうってつけの書物だ。
ここでは自然保護について。
砂漠化のプロセス
・定住と農耕が始まる
・畑を作るためと燃料を得るために森林が伐採される
・雨が土壌の栄養を流す ・灌漑することで塩害を招く
・土地が乾燥する
・無理に放牧(過放牧)して土が吹き飛ばられる
・砂漠化する
シリア、南スーダン、リビア、イエメン、ナイジェリア、ソマリア、ルワンダ、パキスタン、ネパール、フィリピン、ハイチ、アフガニスタンで同じことが起きている。 ミャンマー、タイ、インド、ボルネオ、スマトラ、フィリピン、ソマリア、ケニア、マダガスカル、サウジアラビアでは森林の90%が失われた。
マレーシアにある茶色の川。上流の伐採で土が流れているとわかる。
森林保全は技術でドイツ、資金でノルウェーがメインプレイヤーでブラジルを改善しようとしている。
湿地
沿岸湿地は熱帯雨林の5倍の炭素を貯留できる。 それは主に深部。
海洋植物が酸素が少ないせいで枯れやすく、枯れるとすぐに積み重なって嫌気的にゆっくり分解されて地中に炭素を閉じ込める。ブルーカーボンと呼ばれる。
元々は「役立たずの土地」と言われていたが近年開発され、ここ数十年で1/3のマングローブが失われた。
近年の問題は、本来海面が上下すると湿地も移動するものだが、道路があるとそれができない。つまり海面上昇すればするほど湿地=優良な炭素貯留地が減るということ。
ヨーロッパ企業がセネガルでマングローブを植えてカーボンクレジットをGET、なんて事例も。
泥炭
個体と水の中間の状態。
嫌気性でじっくり何百年もかけて分解されたもの。
炭素含有量が50%を越え、17世紀には乾燥させた泥炭は化石燃料としてメジャーだった。
泥炭地は陸地の3%に過ぎないが、森林の2倍の炭素を貯留する。
炭素を吸収する植物、炭素が大気に戻るのを止める嫌気性条件(水)が必要。 要するに湿原や沼地。
北半球の温帯〜寒冷帯気候の北米、北ヨーロッパ、ロシアで見られる。アイルランドの17%が泥炭地。 熱帯〜亜熱帯でもインドネシアやマレーシアなどにある。 東南アジアでの破壊が著しい。
泥炭地からメタンは出るが、隔離量が優れてるので差し引きプラスだと言える。
木のコミュニティ意識
切り株は光合成できないから枯れる運命。
しかし周囲に樹木があると、根と根が重なって、菌糸が間を繋いで栄養を受け渡すことがある。
植物は自分の根と他の根を区別できる。なのにわざわざ他者に栄養を渡す。
共生しなければ森はできず、森がなければ一本では水も蓄えられないし風雨に耐えられないと知っている。
焼畑
アマゾンでは未だに焼き畑式を採用しているところが多い。 薄い酸性土壌ができ一時的に収量が上がるがたちまち劣化して使い物にならなくなる。
ネイティブアメリカンの野焼きは、大規模な火災の予防にもなっていると言われる。
竹林
竹は、炭素を貯留する量が植物で最も多く、痩せた土地でも簡単に育ち、成長速度も最も速い。
コンクリート並に圧縮に強く、スチール並に引張りに強いという超有望な植物。 ただその強さ故に侵入種として嫌われる。
荒廃地、放棄地、傾斜や侵食が大きい土地などで利用するのが良い。
林冠は隣の木の枝に触れるところまでしか広げない。
宮脇方式の植林
多くの在来種を劣化した土地に植林する。 自然淘汰でレジリエンスがある森ができる。2年程度の関与であとは自然に任せればいい。
アフォレフト
起業家シュベンド・シャルマのプロジェクト。少しの土地で森林生態系を実現するオープンソースの開発。
【新技術や新たな試み】
海洋パーマカルチャー
海に植林するという考え方。
ブライアン=フォンヘルツェン カリフォルニア工科大学で物理の博士号
電気設計、システム開発でシリコンバレーでキャリアを築いたが転身。
ケルプ(大型の昆布)は森のように多くの生命の拠り所になっている。
光合成で二酸化炭素を隔離し酸素を吐く。 地球上の二酸化炭素の半分を吸収し、酸素の半分を作り出している。
大西洋の海洋生物活動は年率4-8%減で地球温暖化モデルの想定を越えている。
海面下25メートルにケルプのアレイを沈めることで炭素を海に隔離する。 そもそも海の炭素貯留は大気の55倍である。 仮に大気全部の二酸化炭素を海に隔離しても2%の上昇にしかならない。
人為的な二酸化炭素は有光層(水深150m以下)にある。 それを吸収したケルプが食物連鎖を構築して死んで海底に沈むことで炭素を海底に沈める。 植物プランクトンも死ぬと炭素を蓄えたまま海底に沈む。
海面が熱されると鉛直混合が弱まり食物連鎖の鎖が切れる。 そのため揚力や波高を利用してポンプを動かし、海底から冷たい水を上に上げる。
海藻やケルプが栄養を吸収すると植物プランクトンが増え、藻類が増える。
そして草食性の魚、甲殻類、ウニなどが増える。
さらにそれを食べに肉食性の魚か増え、アザラシ、アシカ、ラッコがそれを食べに来る。
海鳥、サメ、最後に漁師が増える。
豊かな海の出来上がりだ。
ニューヨークのブロンクス川ではケルプと貝を育てて水質改善するという試みも。
植物の共生
森林を相互補助として捉えたクレメンツ、生存競争として捉えたグリーソン。
二十世紀前半はクレメンツの説が有力だったが、1947年以降、冷戦に入る米国では植物生態学すら『共産』について口にすることは許されなかったためグリーソン的な研究ばかりになる。
近年は共同体というものは極めて普通であると思えるようになって(共産主義との戦いが終わって)二十年が経とうとしている。そのため共生に関する研究がようやく進むようになった。
キャラウェイ:開けた草原よりもオークの下の方が養分が多いことを発見しシャペロン(付添人)と呼んだ。
またアマゾンでは雨季の水を主根系によって地中深くに運び、乾季になるとまた主根系が水を吸い上げて周囲に配るリフトという現象が存在する。
ヤレータ:3千歳にもなる植物 チリの山は紫外線が強く寒く乾燥している。そこに塚を作り多くの開花種を育てるベースになる。
ウッドワイドウェブ:菌類たちの地下での繋がりのこと
栄養のやり取り、情報のやり取り、炭素同位体の振り分けを菌類たちが行なっている。
農地では耕し、除草剤を撒き、人口肥料を入れることで、それらの菌類に「お前らは不要だよ」と伝えているに等しい。結果、農地にウッドワイドウェブが見られることはない。 根を持つ植物の80%には菌類がいるのが普通だというのに。
マンモスステップ
紀元前11,700年より以前はユーラシア大陸と北米大陸が繋がっていた。
ケナガマンモスを中心とした生態系である。
温度上昇で絶滅したというのが定説だが、それを逆に捉える研究者セルゲイジモフ。
狩猟によって草食動物が減り、マンモスも激減。草が減って地表が冷やされなくなり、正のフィードバックが発生した。という仮説だ。
そもそも北極圏で草食動物が積雪を除くと、芝が露出して地面はむしろ1.7-2.2℃冷える。
北極圏にも過去に多くの生物がいた。
永久凍土が溶けるとそれらが露出して二酸化炭素やメタンが放出される。
シベリアのコリマ川流域に更新世パークを作って仮説の証明を試みている。
マンモスはもういないので、ヤクート馬、バイソン、トナカイ、ジャコウウシを放牧し、マンモスの代わりに戦車でカラマツをなぎ倒し、スズメノチャヒキ(イネ科)が育つようにする。