Q. 大企業を辞めたらキャリアは終わるか?

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むしろ始まります。
と言ってしまいましょう。 「大企業を辞めたら・・・」と考えているような人にとっては、ですね。
大企業に所属している人が「辞めたい」「辞めようかな」と考えるシーンはきっと沢山あると思います。 しかし大企業から大企業へ転職する人がほとんどではないでしょうか。就職市場はそのように動くことがある程度パターン化されています。そういう人は私に相談に来ませんし、そもそも私の助言は不要です。 もし選択肢の中に中小企業やスタートアップがチラホラする場合、私は圧倒的にあなたのキャリアを「開始」することをお勧めします。

何が開始するのか。
それを考えるにあたっては、そもそも何が「終わる」と思っているのかを起点として整理してみましょう。

例えば収入面です。
大企業は、例えば電気連合に入っていたり給与の安定に対して内外の働きかけがあり、かなり意図的にフラットかつ定常的な状態を保つようになっています。つまり「ある程度の高さで上がりにくく下がりにくい状態」ということです。 収入面の補佐となる福利厚生についても同様と言えます。
これを手放すということは「平均がよくわからない上がりやすく下がりやすい状態に足を突っ込む」ということですが、別の言い方をするとRiskとRewardのギャップを大きく取る、ということです。 Riskがあれば期待するRewardがあるのが当たり前です。 非常にわかりやすいのが、立ち上げたばかりのスタートアップに入って薄給で働く代わりに生株やストックオプションを受け取るケースです。当座の給与を下げるというRiskの代わりにキャピタルゲインというRewardを取ります。4年、5年とこの会社に務めて、全く会社が成長せず給与が上がらずかつ売却もIPOもできないままその会社を辞めれば、単に給与を損しただけ、という見方もできます。 しかし別の面での成長を見れば損しただけと断ずるのは少々早計と言えるのではないでしょうか。

ということで次は経験の面です。
仮にあなたが若くて独り身であれば、スタートアップや規模の小さな会社に勤めることは疑う余地なくとてもエキサイティングな経験になると思います。 収入面をさほど気にする必要もありませんし、大きなチャンスを追って仲間と奮闘する経験は非常に多くの気づきと日々の充実をくれると思います。その後のあなたのキャリアがどうなるとしても、非常に大きな糧となってくれることでしょう。
さて、ではあなたが十分に経験のあるベテランだった場合。 あなたは十分に自分だけでこなせることがあることがわかっていますし、また自分一人の力ではできないこともわかっています。ある一定の業界で経験が長ければその中で自分がどのくらいのレベルにいるかもわかっています。 しかし、それは本当にわかっているのでしょうか? 大企業では多くの業務に間接部門のサポートが働いています。つまり多くのブラックボックスの上であなたは仕事をしているのです。したがってあなたが知らないことはもっと多くて、できないことも、覚えなければならないことも、実はもっと多いのではないでしょうか?
また大企業には「看板」があります。例えばヤマハにいた時には「ヤマハの名刺を持ってればどこでも面談を断られることはない」と冗談ぽく言われていましたが、少なくとも私の在籍経験中はそれは間違いない事実でした。突然のコールドメールでも問い合わせでも、まずもって冷たくあしらわれることがありませんでした。これが看板の力です。 スタートアップや小さな企業にはそれがありません。むしろ「小さな会社だ」というネガティブな看板すら持っています。
仮にあなたの専門が営業だとして、全く自社の名前が知られていないカテゴリの人たちに、全く信用されていない製品を売りに行ったことがどれだけあるでしょうか?それは本当の経験と言えるのでしょうか? 当然、会社の規模の大小に関わらず、ベースになるテクニックや考え方は同じです。したがって、ここでは「経験の棚卸し」ができます。知りたくありませんか?本当の自分のキャリアがどの程度かということを。
ちなみに私がアメリカに行ったときに知りたかったことは「シリコンバレーすげぇすげぇってみんな言うけどエンジニア個々のレベルで見たときにそれは本当なのか。自分はどの程度通用するのか」ということでした。

最後に、嫌な話ですが心証の面です。
特にスタートアップなら、半年や1年で潰れてまた転職、となることはザラです。 その時にまたあなたはどこかで採用の面接を受けることになります。その際の心証についてです。 私は経験上採用面接を多く行なってきていますが、そのようなパターンの人材に対して私が注意して観察するポイントは、「この人はその会社の中で果たして中心的な立場だったのかどうか」「自分が関わったプロジェクトの全体像をどのくらい明瞭に説明できるか」という点です。
仮に上記についてどちらも良い印象が得られない場合は「なんとなくノリでスタートアップに行って結局何も糧にできなかった人」という判定をすることもあります。 清水の舞台を飛び降りたから偉いわけではありません。それによって何かを掴んだから評価できるのです。
よく「ジョブホッパー」という言葉がネガティブな意味で使われますが、仕事を転々とすること自体については私はむしろ好印象です。なぜなら人間試してみないとわからないことは多いので、色々と試してみる行為自体は良いことだと思います。 しかしその過程一個一個の経験が次の選択や長期的なキャリアビジョンに結びついていなければ、それは単なる「長続きしない人」です。ストレートに言えばリスク人材ですね。
しかし逆に、心の底から「よし、こいつに任せてみよう!」と思える人材は大抵の場合でいくつかの職を転々とする中で彼らなりの何かを身につけた人たちです。ひとつの大企業で長いキャリアを持つ人を採用することも当然ありますが、その場合は例えば何か特化したスキルを求めていたり、特定のポジションで特定の力を発揮する「計算できる人」になって欲しいからということがほとんどのように思います。 したがってこの心証についても経験と同じ、RiskとRewardのギャップを大きく取る行為に繋がっていると言えます。
なおシリコンバレーではジョブホップするのが当たり前という風潮があるので、むしろひとつの企業に何十年もいる人間の方がリスク人材扱いされかねません。他の企業でも通用することをキャリアの中で一度も証明していないからです。

何が開始するか、最大のファクターは価値観の転換です。 一度出てしまえば、そこからあなたはシリコンバレーだろうとベルリンだろうとテルアビブだろうと、好きなところに行くことができるのです。

九頭龍 'kuz' 雄一郎 エンジニア/経営者, 日本の大企業からシリコンバレーのスタートタップまで多種多様な千尋の谷に落ちた経験を持つ。 株式会社ClayTech Founder/CEO, 監査役DX株式会社 Co-founder/CTO, 株式会社スイッチサイエンス取締役, 株式会社2nd-Community取締役, 東北大学客員教授, 東京工業大学非常勤講師, 武蔵野美術大学非常勤講師, 他複数社の顧問など。

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