Q. チャレンジするなら20代のうちなのか?

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ポジティブな意味で「やっぱ20代のうちですよね!」と20代の人から言われるので「いやいや、それは違うよ」とここでも返しておきます。

「チャレンジに年齢なんて関係ないよ!」とかユルい寝ぼけたことは言いません。
「チャレンジするなら30代後半」です。

ちなみに「チャレンジするなら20代だ」と考える一般的な肯定的意見の背景にあるものを少し考察してみましょう。

【異論①】
発想が柔軟で常識に縛られずに思い切った行動が取れる

【異論②】
失敗してもいくらでも取り返しが利く

【異論③】
20代は三徹までいける

「そりゃもっともだ」と思った読者も多いのではないでしょうか。
しかし気づいていただきたい。ここには成功する理屈が何もないのです。

例えばスタートアップを立ち上げる場合、「良い経験をする」というスタンスで起業する人は見たことがありません。 誰もが自らのビジネスモデルに惚れ込んで、大きな顧客満足と社会的意義、そして世界中の信頼できる仲間たち、そんなビッグビジョンをイメージして起業します。 失敗などその時点では毛頭にもありません。

成功するために何をしたら良いのか?どのような選択肢を取るべきか? そう考えた時に私には20代が大多数の人にとっての最適解だとは思えないのです。

アメリカにいた時に周囲で非常に多いと感じたのが大学教授の起業です。
昔、税務署に勤めていた母から「大学教授になりなさい」なんて言われたことがありますが、日本では一般に大学教授は地位と収入が高い水準で安定した職業です。
しかしアメリカで知り合った教授たちの目つきはどうも違うように私には思えました。
彼らはほぼ起業家と同じような危機感と飢餓感を持って常にチャンスを狙っている「知的なハンター」と形容すべきキャラクターを持っていました。

実際シリコンバレーで知り合った遠い遠い遠い親戚のM氏はカーネギーメロンピッツバーグの教授でありながら3回起業して3回売却に成功しているというシリアルアントレプレナーでした。
彼の話を聞いていると、起業する時からほぼ売却のストーリーが出来上がっていたように感じます。 彼は大学である特定の技術を研究していて、それを欲しがっている企業もわかっていて、起業したらその実証あるいは実装に取り掛かってそれが成功したら売却、というとてもシンプルなフローを3回やったのです。
彼はあくまで研究者なので自分自身がBtoCなりBtoBなりのビジネスを立ち上げるつもりはありません。研究成果を社会実装可能なレベルまで高めてそれを適切なプラットフォーマーなり研究所に売るわけです。

なんて合理的な成功の法則なのか、と目から鱗でした。が、アメリカではそんなこと遥か昔からの常識です。
年齢の話に戻せば前述のM氏はかなりの高齢です。大学教授というと30代後半であれば相当早い方でしょう。 大学教授だけに限らず、特定の分野で既にある程度の成果を出していて、かつ売却先の見当がすぐにつくくらい業界にも十分に精通していて、起業するやいなや即座に適切な人員を確保してプロセスを進めることができる人脈や指導力を持つ。このような要素が全て揃えば同じ土俵に立つことはできます。

20代でここに至るイメージは持てたでしょうか?

世の中は大きな勘違いをしています。
FacebookやMicrosoft、Apple、Googleなど20代の、特に20代前半の若者が起業した会社がのちに大企業になると、皆そのエキサイティングなストーリーに酔いしれます。
しかし現実には例えばNetflixの創業者リードヘイスティングスは創業時に36歳、Oracleのラリーエリクソンは33歳、Amazonのジェフベゾスは30歳、CISCOのレナードボサックは32歳、など時価総額ランキング上位の企業の多くは創業者が30代の時に立ち上げた会社です。ちなみにTwitter創業時のジャックドーシーも30歳でした。
客観的には若さは成功にとって特別優位なファクターではありません。

ちなみに若く起業すると良い点はあります。その事業に長く関われるということです。 Googleを創業したラリーペイジはやりたいことをやり尽くしたのかモチベーションが燃え尽きたのか既にGoogleを離れましたが、それでもまだ彼は50歳になっていません。まだまだ次の新しいことに取り組めます。 なおGoogleは初期にCEOをエリックシュミットが務めたということは有名な話です。エリックは当時46歳。

ここまで様々な事例で示したように、特段若くあることがチャレンジ、特に起業に有効に働くことはさほどないように私の経験則からも思います。
しかし一方で起業なり事業の立ち上げは非常に疲れるイベントです。
多くのひとは一度やったらもう二度とやりたくないと思うものですし(Y Combinator創始者のPaul Grahamとか)、全身全霊を注いだものが終わった後は(それが成功であろうと失敗であろうと)少なくとも数ヶ月か数年か、放心してしまってもおかしくありません。
それだけのパワーを注ぎ込み、様々な困難とFightするためには当然ある程度の若さがあった方が有利です。ということで総合的に30代後半あたりがベストのタイミングだと私は考えています。

私は昔から新製品やビジネスアイディアを考えるのが好きで、過去のメモやノートあるいはプレゼン資料を保存してあります。
先日ふと久しぶりに見返してみたら、若い頃のアイディアって、マネタイズがあやふやなものや一時的に流行っただけの市場にマッチさせたものなどツッコミどころ満載なものばかりで笑っちゃうもんですが、それでもひとつひとつに魂が入ってて、なんかこういうのって良いなぁと改めて思ったりもするわけです。

九頭龍 'kuz' 雄一郎 エンジニア/経営者, 日本の大企業からシリコンバレーのスタートタップまで多種多様な千尋の谷に落ちた経験を持つ。 株式会社ClayTech Founder/CEO, 監査役DX株式会社 Co-founder/CTO, 株式会社スイッチサイエンス取締役, 株式会社2nd-Community取締役, 東北大学客員教授, 東京工業大学非常勤講師, 武蔵野美術大学非常勤講師, 他複数社の顧問など。

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