Q. 起業に地方は不利なのか?

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色々なところで調査公表されているランキングのひとつに「都市別ユニコーン企業数ランキング」があります。 2020年だと1位が北京、2位がサンフランシスコ、3位が上海だそうです。
また他には「都市別スタートアップ出資額ランキング」などもありますが、さて、質問に触れると、お察しのとおり、このようなランキングで地方都市の名前が出てくることはまずありません。 国家が戦略的に強化している地域が出てくることは稀にありますが、ほとんどの場合でその国の首都、あるいは人口密集地がランキングでは上位を占めます。

じゃあやっぱり起業するなら大都市だ!

というのは少々早計というものです。 何事にもメリット・デメリットが内在するように私は思います。
ここではいくつかエピソードを交えて話をしてみましょう。

5年以上前の話ですがとある友人から相談を受けたことがありました。友人のJくんはカナダ人で当時MITに通っていたためボストンに住んでいましたが、その前は片田舎で町医者をやっていたという面白いキャリアの持ち主でした。博士課程の同僚とスタートアップを立ち上げる計画があり、すでに最初の出資についての目処が立っていたが、その時にその投資家から提案(強要)されたのがシリコンバレーへの移住だったそうで、彼はそれを受諾。そこで当時シリコンバレーに住んでいた私に住み心地、オフィスを構えるエリア、人材や給与相場の状況などを相談してきたというような流れでした。

当然(?)当時の私はシリコンバレーの素晴らしいところを列挙し「まじExcitingなParadiseだからすぐ来いよ!」的なことを無責任に言ったかなと思います。その後、彼はシリコンバレーでオフィスを構え、GoogleやTeslaなどの企業から人材を引き抜いてプロダクトを作り、TechCrunchのビジネスコンテストで優勝するようなこともありましたが、約1年前に事業を閉じました。先日少しやりとりをしましたが、彼はボストン、あるいはカナダには帰らず、そのままシリコンバレーに残って今はFacebookで働いているそうです。「スタートアップをやっていた時ほどの激しさはないけどそこそこ楽しくやってる」というのが今の彼の言葉。

ここでいくつかの点について私なりにコメントしたいと思います。

まず人材確保の面では大都市の優位性はそうそう揺るがないということ。人材の激しい争奪戦になるという側面もありますが、その分の流入が耐えることがありません(Jくんのように)。都市レベルでこの需給バランスが大きく崩れた場所というのは正直あまり見たことがありません。常に需要と供給は均衡しているか、若干供給が上回っている状況がキープされているように思います。

また選択肢の多様性も大都市の利点と言えると思います。Jくんは残念ながら自らのスタートアップを畳むことを決断しましたが、一方で現在の勤務先はFacebookです。悪くない、どころかむしろ一般には憧れと言って良いようなポジションです。チャレンジもできる、大企業に勤めることもできる、そして当然中小企業に勤めることもできます。

さて、別のエピソードを紹介しましょう。

とある日本の友人Yさんは東北の都市で会社を経営されています。言うまでもなく仙台ではありません。会津です。

名前としての知名度は十分すぎるほどありますが、雪深く、新幹線から遠く、あまり頻繁に行くようなところではありません(あくまで私個人の主観です)。

じゃあさぞ大変だろうな、と安易に考えるなかれ。私なりに彼の非常に上手いなぁと思うところがいくつかあります。何せ彼の会社は創立25年を越えていますので。

まず大学と結びついているところ。そもそも彼が会津大学で勤務していた経験があり、その際に学生たちと会社を立ち上げました。その後も学生インターン→就職→場合によっては巣立ち、というようなサイクルを持っているようです。 実は大学とスタートアップには一般にも強い結びつきがあります。仮に直接結びついていなくても、スタートアップの多い都市には必ず優秀な大学があります。にわとり卵ですが若い力が集まるところに新たなイノベーションが起こる。それがまた若い力を呼び込む、という非常に単純な話だと思います。

また彼が地方の利点を巧みに使っているところにも気付かされました。例えば彼の例で言うと地域の仕事を上手に拾っていることです。

会社経営したことがある人であれば誰しも知っていることですが「毎月入るお金」「毎年入るお金」は非常にありがたいものです。こういう言い方をすると如何にも「守り」の話をしているように聞こえてしまうかもしれませんが、定常的な収入源があれば中期的な計画が立てやすいです。そして計画が立てられてこそ、攻めも守りも使いこなせるようになるわけです。

国単位のプロジェクトは金額が大きいかもしれませんが競争率も激しいです。そしてそういうネタは実際のところは大抵大企業がかっさらっていくものです(あくまで私個人の主観です)。そしてスタートアップや中小企業は子、あるいは孫でそれのおこぼれにあずかるような実態があります。

それであればむしろ県や市区町村の案件を巧みに拾っていけば、安定しかつ十分な収益を効率よく上げることができ、それを原資に様々なチャレンジができる、というわけです。 「〇〇億円調達して、のるかそるかの大勝負だ!」 という思考の人には向いていないかも知れませんが、そういう経営、そういうチャレンジの仕方もあるのだなぁととても勉強になりました。

また地方の面白いところは「コンテキストの類似性」があると思います。

元々そこに住んでいる人たちを除くと、多くの地方居住者は何かしら仕事の都合か自らの選択でそこに住み着いている人たちだと言えます。 そういう人たちは「なぜここに辿り着いたか」あるいは「なんやかんやここを出て行くつもりがないよね」というようないくつかの側面でコンテキストが一致していることが非常に多いように思います。私も浜松にいた頃の経験からよくわかります(浜松から出て行ってしまいましたが決して嫌いではないのです)

会社を組織する際のとても重要なファクターに「カルチャーフィット」があります。 要するに考え方とか主義趣向などが周囲と合っているかどうかです。地方はある意味カルチャーフィットしていない人にはとても居心地が悪く、すぐに出て行ってしまうので、そこにいる人とはカルチャーフィットする確率が非常に高いと言えます。きっと採用で事故る確率もかなり低いのではないでしょうか。

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幸せなIoTスタートアップの輪郭

九頭龍 'kuz' 雄一郎 エンジニア/経営者, 日本の大企業からシリコンバレーのスタートタップまで多種多様な千尋の谷に落ちた経験を持つ。 株式会社ClayTech Founder/CEO, 監査役DX株式会社 Co-founder/CTO, 株式会社スイッチサイエンス取締役, 株式会社2nd-Community取締役, 東北大学客員教授, 東京工業大学非常勤講師, 武蔵野美術大学非常勤講師, 他複数社の顧問など。

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