Q. とりあえず作るプロトタイプは1台で十分ですか?

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これ、たまに受ける質問なのですが、基本的にこの質問をしてくるのは自分では試作品を作らない方です。 何故なら自分で試作品を作っている人たちは「色々信用していない」からです。

<基板屋を信用していない>

私は実装基板を作る際には必ず1枚余分に生基板(部品が載っていない基板)を手配するようにしていました。部品の実装工程とは別に自分の手元で生基板の出来を確認するためです。 以前一度、多層基板の内層回路が全て無いことがありました。原因は基板メーカーの間のデータの取り違いでした。

お粗末な話ですが私はそれに気付くまでに、基板への部品実装、電源投入、各種波形チェック、電源が不動作、各点をプローブであたりながら波形確認、と2日ほど無駄にしてしまいました。最終的には基板に実装した部品を全て外して生基板の状態にし、生基板の状態で各点の導通を確認したところ上述の問題に気がつくことができました。

「生基板が別途あれば一瞬でわかっただろうに」と肩を落としました。

<実装屋も信用していたりしていなかったりする>

試作品の基板はたまに反ることがあります。基板というのは複数の素材がミルフィーユ構造になった塊ですので当然素材ごとに熱膨張率などが異なるため無闇に熱したり冷ましたりすると曲がることはあります。

「自分はそんなの見たことないなぁ」という方もいらっしゃるかも知れません。 それは大変周りに恵まれてらっしゃる。

何故なら、反るかどうかを決めるファクターはいくつかあり、大まかに基板サイズと温度ですが、実際はやってみないと確証は持てません。したがって「デキる実装屋」は事前に試すのです。生基板を余計に手配しておいて、部品も予備を用意し、事前に試して実装の状態を確認するわけです。もし基板が沿ってしまえばハンダの接触不良や小型部品の破壊など様々な一見しただけではわからない問題を引き起こします。 そのようなものを回避しているのは実装屋のような裏方の努力によるものなのです。

しかしこのような気遣いは彼らもリスクヘッジとしてやっているだけであって、「お献立」に載っているようなものではないことがほとんどです。したがって自らきちんと予防線を張るのが開発者のウデと言えます。

<自分を信用していない>

生基板にはなんのトラブルもなく、実装も滞りなく進んで、なのに動かない。そんなことがあります。というかしょっちゅうあります。 設計が間違っていたことが判明しましたが不幸中の幸い、十分手作業で改造可能な箇所です。 改造しましょう。虎の子の一枚を?

そんなことにならないように予備を持っておくのが優秀なエンジニアというものです。 念のために3枚作っておいたので1枚壊してしまったものも2枚は改造に成功しました。 一通りの動作確認が終わりファームウェアの開発に入りましたが、改造で日程をロスしてしまったせいでスケジュールが厳しいことが判明。チーム内で別のメンバーにも手伝ってもらうことにしました。

2枚あったので無事二人で手分けすることができました。

開発とは万事こんな調子です。 プロトタイプを1台で切り抜けようとする人は余程腕に自信がある人、というわけではなく単に経験が浅いだけの素人だと断定できます。

このポストの内容は以下の書籍の一部(原文)です。興味のある方はぜひ書籍をお求めください。

幸せなIoTスタートアップの輪郭

九頭龍 'kuz' 雄一郎 エンジニア/経営者, 日本の大企業からシリコンバレーのスタートタップまで多種多様な千尋の谷に落ちた経験を持つ。 株式会社ClayTech Founder/CEO, 監査役DX株式会社 Co-founder/CTO, 株式会社スイッチサイエンス取締役, 株式会社2nd-Community取締役, 東北大学客員教授, 東京工業大学非常勤講師, 武蔵野美術大学非常勤講師, 他複数社の顧問など。

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