出資もIPOも無い方が幸せという絶対的事実

投稿者: | 5月 30, 2017

スタートアップを立ち上げて、アーリーステージでもっとも苦しめられることが資金調達だろう。
やれ「〇〇は☓☓からの第三者割当増資を行い△△億円の資金調達を行いました」
とかいうとカッコイイよね。やっぱ。
しかし出資なんて受けないほうが良いのだ。
「オイオイ、アホか」と思うかもしれないがそれが事実。
絶対的事実その1。だ。
ポイントはいくつかあるので挙げてみよう。

出資は結婚である。いや、時にもっとエグい

出資を受けることは重婚可能な結婚みたいなものである。 運命共同体と言えばカッコイイが、家族に対する責任も発生すれば家庭に時間を割く必要もあるし妻の要望は真摯に聞かなければ家庭円満とはいかない。しかし妻が方向性を間違っていたら指摘しなければならずなぁなぁでは良くない。 このような普通の家庭で起こるハードルやトラブルや喧騒をまるっと抱え込むわけだ。よそのおっさんと。笑
これはなかなか度胸のいることだが、場合によっては素晴らしい出会いがあったり、幸せ円満な未来がある。 良いところを切り取ればね。 悪いところを切り取れば、先方が「良かれ」と思ってやってくれていることがありがた迷惑だったり、場合によっては「良かれ」と思ってブレーキになってくれたり、「良かれ」と思って会社を精算してくれたりする。笑
夫婦間コミュニケーションは重要である。方向性を合わせて、妥協点と譲れない点を明確にし、常にお互いを信頼し手を携えて進んでいかなければならない。なかなか大変なことだ。
そして離婚は簡単ではない。

株式を譲ることは命を削るようなものである

「株式を例えるなら会社の命である」とほとんどの経営者は答えるのではないだろうか。
守らなきゃいけない、でも命をBETしなければ人生は開けない。 そんな風にみんな思っていることだろう。
株式はその種類や比率によって様々な権利が付与される。 例えばわかりやすいのは議案に対する『拒否権』、そのひとの賛成を取り付けない限り大きな議案は通らない、というような状況だ。他には『議決権』、議決に参加する権利だが、その影響力は株式比率に依存する。『議案を出す権利』なんてのもある。あとは細かいことを言えば『取締役会に参加できる権利』を持っている人と『取締役会の議事録だけ読める権利』を持っている人とか。 株式によって会社内の権威は定義され、それに基づいて運営される。それが『株式会社』だ。
逆に『会計上連結決算にしなければならない義務』とかもあったりするがこれは専門書を参考にして欲しい。
会社設立当初、株式は全て創業者が持っている。それが出資等を受けることで徐々に比率が減っていき、51%までは創業者のオーナー会社だが、ある程度のラウンドをこなしたところでそれが50%を切る。 過半数以上を持っている人間がいなくなった時点で、
つまりそこには政治が生まれるのだ。
最初のラウンドでは創業者が依然ほとんどの株を持っているだろう。しかし、その道に入ることを決めたということだ。 いずれそれぞれの戦略でそれぞれの政治的舞台を勝ち抜いていく覚悟が無ければ株式の譲渡はできない。
まぁ物騒なことを書いたけど、要するに「そのくらいのリスクに見合っているなら出資を受ければ良い」という意味でもある。
一点苦言は「コンテストで優勝して出資金数百万円」なんていうシーンで20%とか30%とかの株を渡すのは愚の骨頂だ。借金苦の人間が当座のローン金利を払うために内臓を担保に闇金から金を借りるようなものだ。明日明後日に命が取られるようなところまで追い込まれた状況なら話は別かもしれないが、少なくとも起業はその限りではない。安売り注意。
ここまでのロジックを理解してくれた人にIPOについて今更言うことは無いだろう。 話は全く同じだ。 そして出資を受けることに比べるとIPOはその結婚相手が「不特定多数」になる。 とんでもなく大きなリスクだ。

IPOする?しない?

では、なぜみんなIPOするか。理由は2つ。ひとつは
「IPO以外ではもう資金調達が難しくなったから」だ。
こういう状況になっている理由、はいくつか考えられるだろう。 素晴らしい理由は、シリコンバレーではよくあるケースだが
「会社が大きくなり過ぎてもう誰も出資できなくなった」
例えばIPO前のFacebookのような会社規模になったら、例え数百億投資したとしても株式の1%も手にすることはできないだろう。出資する側にとってはそんな会社には出資するメリットがほとんどなくなったしまっているということだ。そしてFacebook側もそんな数百億だけもらっても困るのでもらうならもっと欲しい。そうすると誰も出資できない金額になってしまう。じゃあIPOしかねーな、と。とても健全なケースだ。
じゃあ本当に資金調達って必要なの?
と真摯に考える必要がある。ある程度成熟した会社の場合、大抵の場合では答えはNOではないだろうか。 もし当座の資金が必要なら一般には借り入れが好ましい。ある程度実績のある会社なら問題はないはずだ。逆にアーリーな会社ならば助成金などの手もある。 もし大幅なビジネスの転換を狙っていてそこに大規模な資金が必要なら、まずは事業の一部売却を考えるべきだ。どっちもキープ、なんていう都合の良い判断をしたいひとはそもそもリスク資金を受け取るのに向いていない。
ではそんなケースでも何故IPOするか?それはもうひとつの理由、
EXITだ。
EXITの定義上にはもっと色んな意味や建て付けがあるが、ここで言うのは要するに創業者や創業期の株主が株を売っぱらうためである。 先ほど言ったとおりに株式は命に等しい。それを売っぱらうということは、まぁ良く言えば次のフェーズへの旅立ち、悪く言えば創業者はもうその会社には未練は無いということだ。俗に言う「上場ゴール」なんてのは完全にそれだ。 この気持ち自体は一切否定しない。起業もアーリーな会社の運営も並大抵の苦労ではない。何度も挫けそうになり、何度も自暴自棄になり、何度もとっととやめたい、と思いながらたどり着いたゴール。もう楽になっても良いと心底思う。 そして会社は一度整理され、次のフェーズへ向かう。それを生き残れるかどうかは上場前を元には判断できない。だってもう別の会社なわけだから。
当然そうならないケースもある。創業者や他の大株主たちがIPOの際にほとんど株式を手放さず経営環境に影響がないようなケースだ。もしくは創業者が元々さほどの保有比率ではなく、しかし圧倒的なカリスマと信頼関係のもとに変わらず君臨し続けるようなケースだ。ちなみに前述の「会社が大きくなり過ぎて」の場合は後者にあたることが多い。当り前といえば当たり前だが。
パターンによるがIPOの判断は非常に難しい。IPOをきっかけに沈んでいく会社も多い。 したがって仮に自社が「事業が好調で自己の余裕資金で先行投資もできる」というような順調な状況ならIPOなど考える必要は基本的には無いのだ。
ゴールとしてのIPOは確かに存在する。 しかしそれが会社を永続的な成長に導くのか、それともブレーキになってしまうのか。 IPOは会社がそして自分がハッピーになるための十分条件などではないのだ。

相手の気持ちを考えましょう

だが、、、
先程の結婚の話に戻ってみよう。 結婚相手はどう思っているだろうか? 出資は様々な意図の合算、いや掛け算、いや最小公倍数を推し量ることで実行される。 意図とは当然トップはキャピタルゲインのことである。他の意図を挙げだすとキリがないので割愛。 キャピタルゲインを得るためにはどうしたら良いか?株を売ることである。 株を売るためにはどうしたら良いのか?未公開株なんてそう自由気ままにスパスパと売れるもんじゃない。 当然然るべき手続きと然るべき同意に基づいて、、、ということは『売るに十分な理由』が普通は求められる。 さて、単純に考えると「この会社の事業にもはや魅力を感じなくなったので退きたい」とか、「ファンド期限が迫っているので弊社はここで精算してオサラバしたい」とか、まぁ正直カッコイイ話じゃない。あまりみんなハッピーではない。
未公開株の取引というと例えば良くあるのはMBOだが、MBOは基本『大企業、ホールディングスなどからの資本的な切り離し』が大抵の場合の目的なのでちょっとここでの話とは違う。
ということで結婚相手の気持ちは 「創業5, 6年くらいを目処にEXITしてくんねぇかな、、、」 であるわけですよ。
奥さんが「子供はひとりで良い」と言っていたとしても、公園で幼い兄弟が楽しそうに遊んでいるのを見かけてやっぱりもうひとり欲しいと思っているかもしれない。旦那が「おれはいつも家庭優先だよ」と言いながらたまには同僚と呑んだくれて新橋駅のホームでゲロでも吐いてみたいと思っているかもしれない。 まぁそこは感じてあげないとね。
ちょっと脱線したがVCのミッションは外向きには会社の株を安く買って育てて売っ払って儲けることだが、内部のひとはそんなこと考えてないし言いもしない。彼らは新たな事業領域を切り開く人間の手助けをすることで金融資産を正当に循環させる社会的意義を感じて仕事をしているわけだから。そのジレンマは、出ちゃうこともあるし、場合によってはそれを隠さないVCも当然いる。 とある友人が過去にやったスタートアップで、あるシンガポール系のVCからシード資金(数千万円)の出資を受けた翌月くらいに「で、IPOはいつなんだ?」と真顔で聞かれてビックリした、なんて話を聞いた。
ということで結婚した以上は子供の人数は自分だけの意思で決めるわけにはいかないし、いつ呑みに行って良くていつはNGなのかは夫婦間できちんと相談した方が良いだろう。 そういうことなのだ。

そもそもさ、

スタートアップの社長になる、もしくはスタートアップの経営に関わるモチベーションというのは人それぞれだと思う。
しかしベースに共通してあるのは 「自分ならこうやる」「自分ならこの分野でこれが売れると思う」「自分ならこういう組織を作る」 というような想いを実現するためではないだろうか。その『想い』の形が人それぞれなだけで。
「自分なら世界をこう変えてやる」
という言葉にすればひょっとしたらひとつのセリフで言い切れるのかな。 それを実現するためにはパートナー選びが極めて重要であることは言うまでもない。 共同創業者、立ち上げメンバー、重役、エンジニア、協力会社、アドバイザー、そして、VCや投資家なのだ。
リスペクトできる、想いを共にできる相手を見つけたい。 もし運悪く出会えない時に、そこら辺にいる相手で適当に済ませるなんて、そんな選択肢は無いよね。

スタートアップは出資の重荷を乗せて飛ぶ?IPOは大企業への踏み台になる?

様々なところで様々な良い結婚の話は聞く。 「〇〇はシードラウンドのリードなんだけど全くうちの意思決定にクチを出してこないのですごく助かる。加えて次のラウンドにも入れたいと言ってくれている。信頼関係ができてる」 「立ち上げ当初うちにはハードウェアのノウハウを持っているメンバーがいなかったんだけど〇〇から出資を受けたことをきっかけに人脈を繋げてもらって結果的には良いEMSを見つけることができた」 「〇〇が入ってくれてなかったらマジでIPOは無理だった。彼らのノウハウはすげぇ」 などなど。
結婚は当然の営みであり、良いこと悪いこともある。だからみんなする。 しかし会社の出資関係と人間の結婚で決定的に異なるのが、
「結婚相手(出資相手)がなくとも子供(プロダクト)はできる」
である。
「それ人間も同じじゃね?」と思った人はフランス人かもしれない。笑
実はこれは良いポイントで、なぜフランス(だけに限らず欧米諸国)で事実婚が多いかというと、別に結婚しなくても事実婚で十分な社会保障が受けられるからである。子供をもったシングルマザーの働きやすさなども日本とは段違いだ。
つまり「社会的サポート(金銭的余裕や人材や技術)が十分であれば結婚(出資)などなくとも子供(プロダクト)は作れる」
当り前のことである。
なぜあえて当り前のことを言うか、
それは「出資ありき」で考えることで視野狭窄になることを避けるためである。
最後にまたもうひとつ当り前のことを付け足そう。
自己資金で開始した事業が当たりに当たりあっという間に黒字企業に。それを1年回したところでできた余剰資金で新規事業に手を出したところまたまたヒット。・・・こんな感じで繰り返しているうちに世界有数の大企業になったがIPOはしてません。だって別にメリットないもんねー。
これが最上級の成功なのは言うまでもない。 つまり出資もIPOも無い方が幸せなのだ。それが絶対的事実。