Q. 英語を身につけるにはとにかく現地に行け!で合っているのか?

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私のお恥ずかしい歴史について共有しましょう。

私は英語が苦手です。それは今も変わりません。アメリカに5年も住んで帰ってきて、かれこれ20年も海外と関わる仕事をし続けてきて、それでも苦手なものは苦手です。 また私はそれなりに読書家で、気になった本で翻訳が出てない場合は原書の英語版を取り寄せて読みます。それでも苦手なものは苦手です。

英語に対する最初のつまづきは中学生でした。至って普通の、東大に入るやつからヤンキーまでいる公立中学校で、英語の成績だけ中の下くらいの成績でした。何故そんなにできなかったかは明確に覚えていませんが、とにかく苦手でした。 しかし中3の時に家族でオーストラリア旅行に行った際に、私は一人で街を散歩して売店のおばちゃんと雑談して帰ってきた、ということがありました。当時使える単語なんて限られていたし、何を話したかはよく覚えていませんが、「成績悪くたってなんとかなんじゃん」と自信をつけたことは記憶にあります。

しかし高校でまた再びへこまされます。高校は都立の進学校でしたので周囲は優秀です。定期試験の順位を張り出すような学校ではなかったのですが、一度英語の「点数分布」を示す票が配られたことがあり、その時明確に自分が英語で学年最下位なことを知りました。

大学は受験で著しく英語を軽視している大学へ進むことで乗り切りましたが、またもや英語の試練に襲われます。 工学系の大学で、英語のせいであわや留年するところでした。 「出席すれば間違いなく単位はもらえる」と名高い授業で、全て出席し提出物も全て出したにも関わらず単位を落とすというミラクルを起こしたのです。それも二度。

就職するとグローバル企業に所属した自覚から徐々に英語に対して真面目に取り組み始めました。 マレーシアでの研修もありましたし、インドのベンチャーとの協業では英語でプレゼンも行いましたし、長時間英語のみの環境で缶詰になりました。海外出張も増え、シンガポールのベンチャーと協業していた頃には多い時は月2回シンガポールに出張していました。
もう英語には何も問題ないつもりでした。 プレゼンもこなせる、技術的ディカッションも問題なし、会食で雑談だってしちゃう。

そしてアメリカに「住み」ました。

状況がガラッと変わりました。 私はいくつかの勘違いに気づくことができました。

ひとつは、英語と言っても様々な英語があって、私が慣れ親しんでいたのはインド英語とシンガポール英語だけだったということ。いわゆる「聞き取りづらい」と世界的には言われている英語です。しかし私にとっては逆にアメリカで使われている英語の方がよくわからなかったのです。文法も教科書からするとめちゃくちゃだし(ちなみに会社で一番メールの文法が綺麗なのは日本人の私だったような気がする)謎の慣用句が沢山出てくるし。ちなみにメキシコ人の英語は私にとってはとても聞き取りやすかったです。

また、現地に飛び込むということは「お客さん」ではなくなるということです。 周囲が話すスピードが全然違います。 今まではお互いが第二言語として英語を話すシーンだったり、あくまで相手が「日本から来た日本人」と踏まえた上で会話してくれていることばかりだったことを思い知らされました。

そして極め付けは「雑談が全くわからない」ということでした。 これは聞き取れるかどうか以前の問題であるということにある時点で気が付きました。 例えば、歴史、慣用句、昔のCMの決め台詞など、みんなが当たり前に知っているものを私だけが知らないのです。

先日久しぶりにバックトゥザ・フューチャーを観たのですが、その中で1985年のマーティーが1955年のドクに向かって、レーガンが大統領になることを告げると、ドクが「レーガンが大統領だなんて世も末だ」と吐き捨てます。 これは背景がわかっていれば面白いやり取りです。レーガン元大統領は1981年に大統領になりますが、元は1930年代から1940年代に活躍した映画俳優です。1950年頃はテレビ番組に出たりナレーターを務めたり、という立場の人でした。 そんな人が大統領になるだなんて、確かに当時は誰も思ってなかったよな、とクスッと笑えるシーンです。 しかし、そういうことがわからない。 ロナルドレーガンと言えば第40代アメリカ合衆国大統領でレーガノミクスを進めた人でしょ、日本人の常識レベルで言えばこれで十分に満点がもらえます。

このような状況をどうするのか? とにかく食らいついていくしかありません。何を言ったのか、それはどういう背景の話なのか、とにかく聞きまくって、でもその場の雰囲気は極力崩さないように(雑談を止めるってとても勇気がいります)、場合によってはあとで個人的に聞いたりとか、工夫をしながら、その都度その都度理解を深めていくしかないのです。
そうやって、徐々に馴染んでいくのです。

これ、現地でなければできる気がしません。 言語を使って意思疎通するだけであれば、座学や駅前留学で十分かも知れません。しかし、きちんと輪の中に入って過ごすことを考えると、そこまでのご学力というものはなかなか現地に行かずに、住まずに、身につくものではないように思います。

また決まりきった返しとかもあります。日本語のやりとりでも心当たりありますよね。 例えば「〇〇やっといて」と軽めに頼まれた時に、パッと返す時は「Yes, I will do it」とかではなく「Will do」とスパッと低めのトーンで返すのが良かったりします。こういうのもみんなのやり取りを聞きながら徐々に習得していくのです。

九頭龍 'kuz' 雄一郎 エンジニア/経営者, 日本の大企業からシリコンバレーのスタートタップまで多種多様な千尋の谷に落ちた経験を持つ。 株式会社ClayTech Founder/CEO, 監査役DX株式会社 Co-founder/CTO, 株式会社スイッチサイエンス取締役, 株式会社2nd-Community取締役, 東北大学客員教授, 東京工業大学非常勤講師, 武蔵野美術大学非常勤講師, 他複数社の顧問など。

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