Carbon Capture and Storage(炭素回収&貯留)を理解する ①

最終更新日

edXにてEdinburgh Universityが提供しているオンラインクラス “CCSx: Climate Change: Carbon Capture and Storage” を受講した。

https://learning.edx.org/course/course-v1:EdinburghX+CCSx+3T2020/home

コースを終えるとこういうCertificateがもらえる(一応)

https://courses.edx.org/certificates/48fa366825894691a33a4f3deab01760

学んだことを自らのメモの意味合いで何回かに分けてサマライズしておく(ついでに誰かの役に立てば幸いだ)

シンプルにCCSを説明すると

多くの現状稼働しているCCSというと、主に化石燃料及びバイオマス燃料のプラントに設置され、発生した二酸化炭素を回収し、圧縮し液体化し、パイプライン経由で深さ数千メートルの貯留層、例えば採掘後の油田やガス田であったり、塩水帯水層などに注入することで半永久的に大気から隔離する技術のことを指す。
CCS自体で必要となるエネルギーは発電所の余剰や再生可能エネルギーを利用するパターンが多い。

Global CCS Map

https://www.sccs.org.uk/expertise/global-ccs-map

世界各国のCCS施設の稼働状況や年間何GtのCO2を隔離する計画になっているかなどの情報を見ることができる。

Carbonはどこにあるか

二酸化炭素 (CO2) は大気中で非常に含有量が少ない気体で、大気中の約 0.042%、分子でいうと2400 molecules中に1個存在する。 産業革命前は0.028%、3500 molecules中に1個だったとされる。

global carbon cycle

上記は炭素がどこに格納され、そしてどこからどこに移動しているかを理解するのにとても役に立つ図だ。似たようなのをIPCCの報告書等でもよく見る。

とりあえずわかることは、

  • 地質学的保存の量が桁違いに大きい
    • 大気や植物などとは桁が5, 6個違う
    • 大量に炭素隔離している印象のある深海と比較しても3, 4個違う
  • 化石燃料として取り出す量と地質学的サイクルに戻す量が大幅に釣り合っていない
  • 大気・生物・海洋の間での炭素のやりとりの規模に比べても地質学的な移転は非常に小さい
  • 化石燃料の燃焼と森林伐採を足すと火山噴火ほぼ100発分
    • 人間の活動がなければ大気中の二酸化炭素が増えることなんて到底なかったと言える

地球温暖化のシナリオ

Global temperature anomaly

上記はIPCCが公開している温暖化シナリオの例。
横軸が産業革命以降に大気に蓄積された二酸化炭素量。縦軸がそれに伴った温度上昇だ。自然や産業の変化に対応した様々なシナリオが想定されているが、総じて、温度上昇を2℃以下に抑えることを前提とすると排出総量を3000Gtに抑える必要がある、というのが目標ラインだと言える。
別の言い方をすると、総量が3000Gtを超えたら、そこからは常に「排出量 < 回収量」にしなければならないということだ。(その財布をCarbon Budgetと呼ぶ)
現在の状況から推定するとあと1000Gt程度が限界だと考えられる。

Image: Figure SPM. 10, IPCC, 2021: Summary for Policymakers. In: Climate Change 2021: The Physical Science Basis. Contribution of Working Group I to the Sixth Assessment Report of the Intergovernmental Panel on Climate Change [Masson-Delmotte, V., P. Zhai, A. Pirani, S. L. Connors, C. Péan, S. Berger, N. Caud, Y. Chen, L. Goldfarb, M. I. Gomis, M. Huang, K. Leitzell, E. Lonnoy, J.B.R. Matthews, T. K. Maycock, T. Waterfield, O. Yelekçi, R. Yu and B. Zhou (eds.)]. Cambridge University Press. In Press. available here.

なお温暖化について語る際には全て「全球平均温度」について述べている点にはとても注意が必要だ。
つまりこれは「最近夏の暑さがキツい」とか「ここ数年寒波が多い」とか、特定の場所に住んでいる個人が持つ感覚と大きく異なっていてもなんら不自然ではない。
全地球表面の平均の、しかも年平均での、さらにたかが1℃2℃の変化なんて『統計値』以外の形で感じ取ることはむしろまずもって不可能だからだ。

したがって「最近地球温暖化のせいで〇〇が××」という類の会話は注意が必要だ。なぜならそれらは多くの場合で、数年〜数十年規模のしかも局地的な季節風や海流や気圧配置の変動傾向の話をしているに過ぎない。地球が温暖化していようと寒冷化していようと北極の氷は年によってよく溶けたりあまり溶けなかったりするものだ。

パリ協定

2015年に合意されたパリ協定は全世界の排出量55%を占める国々が参加した画期的な枠組みだった。2017年にアメリカが離脱したがその結束は変わらず、むしろ2021年にアメリカが再合流した。

Climate Action Tracker
https://climateactiontracker.org/
各国のそれぞれのカテゴリーの試みが「2℃以下」「1.5℃以下」の目標に適合しているかどうかをトラッキングできるサイト。

CCSが抱えるジレンマ

CCSは化石燃料を使用するプラント等に設置され、排出されたCO2を即時回収隔離することが可能。そのため、石油産業などが二酸化炭素削減に投資することなく、CCSにばかり投資し、いずれ回収率を100%にすればCarbon Budgetにヒットすることはない、というロジックが生まれてしまう。
しかしこの論理に従うとまだまだコスト面や設備面で改良の余地が大きいCCSの領域に過剰な投資が入り、炭素回収コストをいたずらに引き上げてしまう可能性がある。

Carbon Overshoot

現時点でのIPCCの報告などにおいては「これから排出される炭素量」が「2℃ライン」を超えること=Overshootは多くのシナリオで想定されている。したがって逆に言えば「回収によるマイナス」が生まれることが大前提となっているというわけだ。
今世紀中に必要な回収量は600~800 billion tonだと言われている。

Tipping Points

European Climate Foundationが提供している。「ここがこうなったら気候変動やばいぞ」のリスト。現在は9つのTipping Pointsが挙がっている。

BECCSの重要性

BECCS principles

BECCSとはバイオマスエネルギーとCCSの融合のこと。技術的には特段難しいことはない。単にバイオマス燃料で発電する際にCCSを利用して地質学的に隔離するだけのことだ。
何が重要かというと、少々回りくどい手順ながら「大気」から「地質」へ炭素を隔離できていることだ。

植物は大気から二酸化炭素を回収し自身に蓄積させる。しかしこれはいずれ大気に霧散してしまう。このシーケンスは数十年から長くて百年程度だが「半永久的な炭素隔離」が必要とされる現状からすると生ぬるい。

つまり同じ理屈でただ漫然とバイオマス燃料を使えば良いということでもない。燃やせば炭素は大気に戻るからだ。
そこでCCSを組み合わせれば「大気」→「植物」→「エネルギー」→「地質」と炭素を隔離できる。そしてこの過程でエネルギーも得ることができるのだから非常にメリットが多い。

なぜ植林するだけではダメか?

まず一点、植物による炭素隔離期間の短さが挙げられる。産業革命以降の大気中の炭素蓄積はそれこそ数世紀かけて解決しなければならない問題でもあり、そして半永久的にぶり返してはいけない問題である。つまり炭素を数十年〜百年程度隔離してもそれは解決手法としては不十分だと言える。
そして樹木が炭素を吸収するのは主に樹木が成長している期間だけだ。

またもう一点は植林による農地の圧迫である。
仮に植林だけによって世界のCO2排出量をキャンセルしようとすると、一人当たりのCO2排出量は国によって年間0.03〜37.29tCO2まで大きく異なり、平均は約4.79tCO2となる。
樹木が貯蔵できるCO2の量もまた樹種、場所、樹齢によって異なるが、平均的な樹木は年間約25kgCO2を消費可能だとされる。仮に植えられたすべての木が生き残るとすると、一人のCO2排出量を相殺するために毎年192本の木を植え続ける必要がある。
高密度な森林地帯では1ヘクタールあたり約2500本の木を植えることができる。1平方キロメートルの土地であれば25万本の木を植えることができ、年間1300人のCO2排出量を相殺できる。

一見、これは有望な策に思えるかもしれないが、約70億人の年間排出量を相殺するためには年間600万平方キロメートルの森林を新しく植林する必要がある。これはインドの総面積の1.8倍の大きさである。
つまり毎年インド2個分を植林し続ける計画でなければ「木を植えればいいじゃん!」と無邪気に言うことはできない。2050年までにユーラシア大陸は森林だけになってしまうだろう。

また植林に適した土地というのはほとんどの場合で農地に適した土地であり、既存の農地を減らすかあるいは(食料問題を解決するために)新規の農地を作る代わりに植林をするという判断を下す必要がある。仮に植林の規模を小さくすれば諸問題との整合性が高まるが、その反面排出量削減効果が下がる。このジレンマを打破できない限り、結論として、植林はCO2の削減という観点においてはあまり有効な対策とは言えないのである。

DAC = Direct Air Capture

大気から直接炭素を回収し、そのまま地中に隔離する技術。スイスのClimeworksが世界的なトップランナーと言える。しかしまだまだ年間数千トンから数万トン程度の隔離の見込みしかなく、今後の更なるイノベーションが必要とされる。なおClimeworksは2022年現在780Mドル以上の出資を受けている。

なおこのポストの内容はほぼ全てが”EdinburghX”に帰属するコンテンツを要約および附則したものである(CC-BY4.0)

九頭龍 'kuz' 雄一郎 エンジニア/経営者, 日本の大企業からシリコンバレーのスタートタップまで多種多様な千尋の谷に落ちた経験を持つ。 株式会社ClayTech Founder/CEO, 監査役DX株式会社 Co-founder/CTO, 株式会社スイッチサイエンス取締役, 株式会社2nd-Community取締役, 東北大学客員教授, 東京工業大学非常勤講師, 武蔵野美術大学非常勤講師, 他複数社の顧問など。

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