Q. 中国の無線認証にはとにかく時間と金がかかるから中国で製品なんて出すべきではない?

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china town

製品リリースに関わったことが無い方にはあまり馴染みのない話かも知れませんが、界隈ではよく言われている話です。

製品によって出すべき出すべきではないなど様々に異なるため当然ながら一概なことは言えません。したがって、あくまでここでは、何故そのようなことを言う人がいるのかについて書きます。

私がある違和感に気付いたのは、とある製品のリリースのために各国認証について調べていた時のことです。今から10年以上前の話。 無線製品には便利な認証方式として「モジュール認証」というものがあります。 前述の意図的放射と非意図的放射について、意図的放射の部分についてはモジュール単位で認証の取得が可能であり、同じモジュールを使っている限りは再度の認証取得が不要である、という仕組みで日本を含む多くの国々で採用されています。 そもそも無線の認証のためには無線機器をいくつかの特殊な状態(例えば特定周波数だけを特定の電力で放射するとか特定の変調をかけた状態にするとか)にして計測を行う必要があり、ほとんどの完成品メーカーのエンジニアはそのやり方を知りません。

しかしモジュールメーカーであれば知っているため、モジュールメーカー自身がモジュール認証を事前に取っておいてくれると、完成品メーカーは大助かりすることになります。 これによって無線製品の認証の時間の短縮と費用の削減に繋がっています。要するに市場の活性化のための方策と言えますね。 中国にはこの仕組みがありません。したがって如何なるメーカーも完成品で無線の試験を行う必要があります。これがひとつハードルを上げています。 当時の私はやはり必然的にモジュール認証が可能な国から優先的に対応して行ったのを覚えています。

また認証の基準に関しては多くの国がIECで整理されているものを参照しています。 しかしながら参照して自国の規格として整理することが難しい国もあります。そのような場合は「CEマーク取れていれば良し」とすることが多いです。「CEマークが付いていればうちの国でも売っていいよ」ではなく「CE取得に関する諸々の資料をよこせばそれでうちの国の認証マーク付けていいよ」というのがほとんどなので若干めんどくさいのですが、書類の審査だけで終わるというのはそれはそれでメーカーとしては認証にかかる工数を抑えることができるので非常に助かります。 しかしながら日本、米国、韓国など技術力に関しても自信があり、認証機関を運営するだけのリソースの確保が可能で、かつ自国の製造業の権益確保にモチベーションのある国は独自の規格を作ります。 中国は当然これに含まれます。

私は日本から始まり当時に主要な市場であった北米、欧州を最優先に、そしてCEの結果が流用できるアジア、オセアニア、南米などの国々を優先的に取得していき、そして中国に当たりました。 私が中国の申請を進めていく際に大きな違和感が発生したのは「全ての図面およびソフトウェアを提供せよ」と求められた時です。 例えば他の国でも無線の機能に関わる部分の説明を求められることはあります。その際にはアナログフロントエンドの部分(実際に電波を出す回路)の回路図あるいはブロック図を提供するのが通例でした。 しかしそれが全ての回路図とソフトウェアを提供するとなると、これは完全に「その情報を元にコピー品が作れる」ということを意味します。 加えて当時は認証の手続きには4ヶ月かかると言われていました。(最近はもう少し短いです)

最近でも見ることがありますが、全世界同時展開の製品に「※但し中国での販売については未定」と書いてあることは決して少なくはありません。その態度を一時期露骨に見せていたのがAppleのiPhoneシリーズでした。 認証に時間と手間がかかるから、というのも当然ひとつの理由でしょうが、主な理由は設計情報の漏洩を懸念してのことだったのではないかと想像します。

しかしながら昨今のピリピリとした米中関係を見ていると、中国側も自らの秘匿情報の漏洩を避けるために他国の製品を自国で販売することに対して、特に通信機器についてはセンシティブにならざるを得なかった、という一面もあったと理解しています。

中国は相変わらず有望な市場です。しかしながら政治的な複雑さから入りづらい市場であることはここ20年変わっていません。 なおLTE製品を中国でリリースするには通信事業者の登録をしなければならず、それだけで数百万円かかると最近知ってまた新たな衝撃を受けました。(こんなのばっか)

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幸せなIoTスタートアップの輪郭

九頭龍 'kuz' 雄一郎 エンジニア/経営者, 日本の大企業からシリコンバレーのスタートタップまで多種多様な千尋の谷に落ちた経験を持つ。 株式会社ClayTech Founder/CEO, 監査役DX株式会社 Co-founder/CTO, 株式会社スイッチサイエンス取締役, 株式会社2nd-Community取締役, 東北大学客員教授, 東京工業大学非常勤講師, 武蔵野美術大学非常勤講師, 他複数社の顧問など。

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