Q. 自分が欲しい物を作る、という発想は商品企画として正しいのか?

woman with scissors cutting inscription i am sorry

商品の企画は大別すると二つのアプローチで整理できます。 ひとつは「マーケット分析型」もうひとつは「ニーズ先行型」です。

<マーケット分析型>

市場の動向を観察し、どのくらいの人数がどういうものを求めていて、その需給バランスからいってどのくらいのビジネスチャンスがあって、、、と分解していくようなやり方です。 とても一般的なやり方として広く理解されているのではないかと思います。 この手法でいくと価格や投入すべき市場もとてもわかりやすいですし戦略が立てやすいので、ほとんどの企業ではこのやり方を採用しているのではないかと思います。 このアプローチは再現性が高くまた容易に横展開や応用も可能ということが大きな利点ですが、逆に誰がやっても大体同じ結果になるという欠点を持っています。(つまり競合も同じ結論に辿り着いている)

<ニーズ先行型>

「とにかく欲しいものを作る!」というやり方です。 この一見乱暴に見えるアプローチは実は多くの示唆を含んでいます。
「孤高の変人などいるのだろうか?」
どんな人でも市場の影響を受けています。今や街中にもインターネット上にも情報が溢れています。それに触れないことはありません。 どんなに「自分は孤高の変人だ」と思っている人でも、巷の流行りや評判や友人の意見や広告などによっていくらか情報のバイアスが働いています。 したがって逆に「自分は変人」と思っているくらいがちょうど「普通よりちょっとだけズレたこと」が提案できて、むしろライバルよりも先行し、かつ市場のニーズにマッチしたものを作れる可能性が高い、と考えることもできます。

またネットの書き込みや誹謗中傷などについてある人が
「所詮1万人に1人の偏った考え方。でも日本人だけで1億人いるわけで、1万人に1人が1万人集まることが可能。1万人集まったらさすがに無視できない」と言っていました。
これはいわゆる「2ちゃん」に関する発言ですね。

これを商品企画でポジティブに解釈すれば、社内で(1万人いるとして)誰一人として賛同してくれない企画でも、世の中には(日本だけでも1億人)1万人の賛同者がいるかも知れない、と考えることができます。1万人のユーザーがもしいるのであればビジネスになるかどうかは工夫次第ではないでしょうか。さらにグローバルなアプローチにすればもっと巻き込む人も増やすことができるかも知れません。

現代ではそのような「ニーズ仮説」を証明するとても有効な手段があります。 クラウドファンディングです。 自分がとてつもなく欲しい、でも市場で本当にニーズがあるのか不安、あるとしたらどのくらいの人数が賛同してくれるのだろう、だったら一度クラウドファンディングしてみたら?というように調査の一環としてクラウドファンディングを利用するケースは近年非常に増えています。

なおこれは私見ですが、マーケット分析型で立てられた企画よりもニーズ先行型のアプローチで立てた企画の方が「中心人物=提案者の心はなかなか折れない」という特徴があるように思います。 市場分析のシミュレーションは、初期条件をちょっといじるだけで違う結果が得られることが往々にしてあります。しかし個人的な「これが欲しい!」という想いはなかなか変わりません。 企画を色々な方に見せると、分析の仕方やアプローチに色々とケチが付くことがあります。「ああ、そうかもなぁ」と思ってしまうことがあるかも知れません。しかし自分の想いに実直であれば、他者が何を言おうと関係ありません。初期コンセプトを首尾一貫つらぬくことができるのは、ニーズ先行型に多いように思います。

どちらが良い悪いを論じることは難しい側面がありますが、ひとつだけ言えることは「何かを強く『欲しい!』『作りたい!』と思うことは、実はそれほど頻繁にあることではないから、その気持ちはとても大事にするべきだ」ということではないかと思います。

このポストの内容は以下の書籍の一部(原文)です。興味のある方はぜひ書籍をお求めください。

幸せなIoTスタートアップの輪郭

九頭龍 'kuz' 雄一郎 エンジニア/経営者, 日本の大企業からシリコンバレーのスタートタップまで多種多様な千尋の谷に落ちた経験を持つ。 株式会社ClayTech Founder/CEO, 監査役DX株式会社 Co-founder/CTO, 株式会社スイッチサイエンス取締役, 株式会社2nd-Community取締役, 東北大学客員教授, 東京工業大学非常勤講師, 武蔵野美術大学非常勤講師, 他複数社の顧問など。

シェアする

コメントを残す

メールアドレスが公開されることはありません。 が付いている欄は必須項目です

コメントする