Q. 製造工場を巻き込む適切なタイミングは?

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実際のところはケースバイケースです。いくつかの典型的事例について考えてみましょう。

<A社の場合>
A社は立ち上げたばかりのスタートアップで、創業者(たち)は製造経験のあるエンジニアではありません。メンバーはほとんどが業務委託等の外部リソースで、パートタイムで力を借りながらとりあえず原理試作で動作するところまではこぎつけているとします。資金調達は開発のための最低限のシードファンディングまでで製造までの資金調達の目処はまだ立っていません。

このケースでは、製造工場を巻き込むのは時期尚早と思われます。 ひとつはA社にとっての強みがまだ確立されていないと考えられることです。創業者(たち)が仮に研究者だったとして、その成果を元に事業にしようとしているのであれば、その成果そのものよりもその成果を正しく実装したハードウェアなりサービスなりというのが差別化のための非常に重要なファクターになります。したがって、自社設計できちんと製品並みに動作するところまで漕ぎ着けなければその強みは十分に活かされません。 開発費が調達できているのであれば、それを使ってもう半年なり一年なり、メンバーを増やし試作を重ねて技術を醸成した上で、さらに資金調達をしたタイミングで勝負するのが好ましいと考えられます。

<B社の場合>
B社はすでにソフトウェア製品でそれなりの事業年数と売り上げを積み上げている会社ですが、この度意を決してハードウェアも利用したサービスへと踏み切ったとします。市場の在り物の組み合わせである程度実証実験ができたので、これを専門のハードウェアに落とし込んで製品にしたい。

このケースでは、この時点で製造工場を巻き込んでしまうのが好ましいと考えられます。 第一にはこの会社の特性としてハードウェアのノウハウが積み上がっていない上に積み上げることが好ましいとは思われないこと。むしろ彼らの強みであるソフトウェアに偏重した戦略を取る方が賢く、競合優位性もある戦い方ができると想像できます。 また在り物の組み合わせで実証実験ができたということはハードウェアそのものには独自性が薄いということであり、それであれば製造工場を巻き込んで、彼らの設計リソースや彼らのパートナーを活用して汎用的な技術の水平展開でスピーディに製品にすることが可能だと考えられます。

<C社の場合>
十分な資金を調達できているスタートアップで、メンバーも元大手開発会社の人間から製造工場を取り仕切っていた経験のある人間まで、開発及び製造を進めるために磐石なスタッフが揃っていたとします。ただしあくまでファブレスです。 試作品は2年をかけて何度も作り直しを重ねていて、一見すると量産品とさほど変わらないクオリティに仕上がっています。

このケースでは、一旦内部で製造の仕様書をきちんと整えた上で、複数の製造工場と同時に会話を始めることをオススメします。 工場の要求というものには実は大きなバラツキがあります。それは工場自体の技術力や管理能力に依存します。したがって設計に反映させる変更内容の判断をあまりに製造工場任せにしてしまうと、本来の設計意図を損なうレベルの修正を余儀なくされるという本末転倒な事態になる恐れがあります。 もし社内でそこが管理可能、判断可能なのであれば、できる限りのところまでは内部で固めてしまって、それを持って製造工場との交渉に当たった方がよりクオリティの高いアウトプットを求めることができます。しかし工場側も「できないものはできない」となるのが当たり前ですので、そのため複数の工場をあたるようにします。

九頭龍 'kuz' 雄一郎 エンジニア/経営者, 日本の大企業からシリコンバレーのスタートタップまで多種多様な千尋の谷に落ちた経験を持つ。 株式会社ClayTech Founder/CEO, 監査役DX株式会社 Co-founder/CTO, 株式会社スイッチサイエンス取締役, 株式会社2nd-Community取締役, 東北大学客員教授, 東京工業大学非常勤講師, 武蔵野美術大学非常勤講師, 他複数社の顧問など。

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