Q. 一人で起業するべきか?複数人で起業するべきか?

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実はこれは簡単に回答可能な話ではなくて、いくつかの側面について考える必要があります。 手始めに一般的な異論をそれぞれ書き出してみます。

【一人派の異論①】

起業家は孤独である。事業に対して絶対的な責任を負う覚悟がなければ起業などできない。

【一人派の異論②】

一人の方が意思決定がシンプルになり、効果的に事業に取り組むことができる。特に初期のスピード感を出す際に「船頭多くして」は避けるべき。

【複数人派の異論①】

一人で考えつくことには限界がある。新たな視点を導き出すためには意見をぶつけたり、時に厳しい指摘を投げかけるような対等なパートナーが必須だ。

【複数人派の異論②】

歴史上多くのスタートアップがCo-Founder(共同創業者)と共に創業し大成功している。Appleのジョブズとウォズニアック、Googleのラリーとセルゲイ、事例は数限りなく存在する。

「いくつかの側面について」と冒頭に述べましたが、上記の異論は実はひとつの主に「事業を如何に進めるか」という側面についての話ばかりですがどれもそれなりに正しいように聞こえます。しかし、実はここには隠れた別の側面があります。

それは「周囲からどう見えるか」です。

例えば投資家。
こういうことを言うと怒られるかも知れませんが、投資家はリスクを嫌います。 これは別にアンチテーゼ的な悪口ではなく、十分に賢いという意味(のつもり)です。リスクを見抜く眼力こそが彼らの腕の見せ所です。なんでもかんでも新規性があって技術にエッジがあって市場がキャッチーだったらそれで出資判断を下すような間抜けなことをしていたらいくら金があっても足りませんからね。

以前より「共同創業者のいない会社は投資を受けにくい」と言われることがあります。 必ずしもあてはまらないケースはありますが、それなりに正しい傾向ではないかと思わされた時期は確かにありました。

理屈としては「一人で勝手に考えたことなんてリスクがわかりにくいが、二人で考えたことなら幾分マシだろう」と乱暴に言うことができます。 それが3人であり、4人であればもう少しよりマシにはなるんじゃなかろうかと。

一人が勝手な論理で一人で突っ走っているだけであれば、複数人を連れて投資家の前にプロトタイプを持ってくることなど叶わないはずです。プロセスの途中で空中分解するのが関の山。

またガバナンスのリスクという側面もあります。
共同創業者は一般に持ち株比率を均等に近い形で分割します。それが共同経営者の共同たる所以です。決議の関係で面倒臭いことにならないように51:49にすることなどが多いですが、Googleのラリーとセルゲイは完全に50:50だったと言われています。

単独の創業者の場合、ほとんどの場合でシードステージやシリーズAの調達を経過した後でも圧倒多数の株式を持っていることが一般には多いです。そのようなケースでは、仮に株主の大半(株数ではなく人数)が「彼はCEOとして不適切だ」と確信していたとしても「説得」以外の方法で彼を退かせることができません。誰でも自分が創業した会社で(しかも最初は自分独りで)誰かに「辞めろ」と言われて辞めるのは極めて難しい判断です。自分だったら?というと正直率直に無理だと思います。

しかし、客観的に見たらこのような状況はコーポレートガバナンスの観点ではリスクでしかありません。(誤解のないように、リスクリスクと言っていますが、これはとてもよくある状況の話をしています)

一方、共同創業者がいて既に株式を51:49でも50:50でも40:30:30でも分割している場合、仮にその後に参加した幹部クラスや投資家にぼちぼち株式の持ち分を与えていた場合、例えば代表個人の比率は場合によっては拒否権発動の33%すら切っているかも知れません。

いわく、これが健全であろう。と言えます。

なお、先程のような代表が株式のほぼ大半を持っていながら降りるケースのほとんどは「追加投資の条件に代表を退くことが入った場合」です。これは概ね99.9%このパターンと言って良いのではないかと思います。数少ない例外、会社の成長とゴール達成のために自ら退いた尊敬すべき賢者を私は知っていますが、まぁこれは正直レアケースだと思います。

このようなコーポレートガバナンスの手酷い影響を受けるリスクをはらんでいるのが、あまり意識しないかも知れませんが実はスタートアップに勤める従業員です。特に上級幹部であればあるほどリスクが大きいと言えます。特に役員であれば業績にコミットしてジョインしているのが通常ですので厳しい目にさらされるのは当たり前のことです。

しかしながら、物事はそう単一の見え方ですべて語れるわけではありません。例えば、リリース時期を1ヶ月延ばしたことによって実装した機能が、半年後の会社を救うかも知れません。しかし短期的にはリリース時期を守れなかった開発系の役員は解任されて然るべきかも知れません。ここのさじ加減なんて明確な基準がありません。取締役会議の気分次第かも知れません。

さて、一人起業型の初期スタートアップの取締役会議って?と知っている方は知っている話ではありますが、実質的には代表と幹部数名の話し合いの場のことです(下手をすれば形式的に代表一人だけで開催して議事録残すだけ、なんていうのもあります)さて、そこでどのように判断が下るのかは誰が決めてるんでしょうね?リスクを感じないでしょうか?

そこであくまで例えば「創業者3名」とかが在籍しているスタートアップであればあくまで彼らは対等に話し合って会社の方向やそれぞれの業績判断などを下していくわけです。

まぁ、やはり健全であろう。と従業員からも見えます。

冒頭に挙げた異論は一人派が言うことも複数派が言うこともそれぞれほとんどが真実だと思いますし、状況やフェーズによって「こっちが良かった」「あっちが良かった」と思うことがあるはずです。しかしながらこと外部への見え方の側面については、明らかに共同創業者を確保して起業することはプラスに働く部分が多いのではないかと考えられます。

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幸せなIoTスタートアップの輪郭

九頭龍 'kuz' 雄一郎 エンジニア/経営者, 日本の大企業からシリコンバレーのスタートタップまで多種多様な千尋の谷に落ちた経験を持つ。 株式会社ClayTech Founder/CEO, 監査役DX株式会社 Co-founder/CTO, 株式会社スイッチサイエンス取締役, 株式会社2nd-Community取締役, 東北大学客員教授, 東京工業大学非常勤講師, 武蔵野美術大学非常勤講師, 他複数社の顧問など。

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