Carbon Capture and Storage(炭素回収&貯留)を理解する ②

最終更新日

blue solar panel board

前回のポスト

に引き続き、edXにてEdinburgh Universityが提供しているオンラインクラス “CCSx: Climate Change: Carbon Capture and Storage” で学んだことを、自らのメモの意味合いで何回かに分けてサマライズしておく(ついでに誰かの役に立てば幸いだ)

CCSが入り込んでいく領域

製造業ではコンクリートと鉄鋼業。
そしてエネルギー。再生可能エネルギーと原子力を推し進めるだけの脱炭素では我々の世代のうちにCarbon Budgetを使い果たしてしまうことは目に見えている。
エネルギーの使用自体を制限することは、恐らく倫理的に認められない。

Carbon Negative / Carbon Neutral / Carbon Positive

Carbon NegativeはBECCSやDAC

またCarbon Neutralは水素や化石燃料の熱による施設が挙げられるが正確には完全なニュートラルではなく、一次エネルギーの生成の際の大気中への放出がある。

CCSはこれらの「ぎりニュートラルではない」ものをニュートラルあるいはネガティブに近づけたり、Carbon Positiveな施設、石油、石炭、天然ガスなどのプラントでCCSが働くことでCO2削減に大きく貢献することができる。

テクノロジーが拒否される4段階

  1. 実行不可能なサイエンスフィクション、とみなされる
  2. この技術は高価で複雑で不可能に近い、とみなされる
  3. この技術は大きな投資がかかるが必要だ、とみなされる
  4. 日常になる

発電もこの4段階を通って4まで来た。
他にも例えば酸性雨の元になる硫黄も1970年~1980年代に問題として認識され、20~30年かけて火力発電所における脱硫技術の進展によって解決された。そしてそのコストは1990年頃にされた予測の1/5以下となり、まだ下がり続けている。

CCSは今どこの段階にいるのか?

Cement

19世紀にイギリスで発見された。
生産されるセメント1トンあたり800kgのCO2が排出される。世界の生産量は年間40億トン。CO2排出全体の1/5が実はセメント生産である。

セメントは石灰岩(炭酸カルシウム)、シリコン、アルミニウム、鉄などを砕いて混ぜて1400℃で熱して作られる。ここで
CaCO3 -> CaO + CO2という反応が起きている。

IEAの見積もりでは2050年までに30%のセメント生産設備にCCSをつけなければならないとなっている。

Steel

鉄鋼は生産1トンごとに1.5~3トンのCO2が発生。世界で15億トン生産されており、CO2排出量全体の約1/6程度。

鉄鉱石と特定の状態の石炭を反応させる2000℃以上の高炉がある。そしてそこで全体の2/3のCO2が排出される。

鉄屑のリサイクルなどでトータルでの排出を減らす努力などをしているが、原料炭の代替材料などが見つかっているわけではなく、80%以上の削減を要求されているカテゴリーとしてはそれを満たす決定打はない。CCSが必要な領域。

肥料生産

化学肥料市場は世界規模であり膨大。化石燃料を引き続き使用すると想定される。ここにも簡単にCCSが導入できる。

Sankey Diagram

Sankey - reference

エネルギー収支を表現する典型的な記述方法。

Direct Emissionsは車などの直接排出。Indirect Emissionsは電気を使うことなどによる間接的な排出を指す。発電には石炭が非常に多く使われていてそれがまた建設に流れている様子などが見て取れる。これら個々の流れを食い止めることができればCO2削減に繋がる。

再生可能エネルギーが入ってくるとこう変わる

Sankey - efficiency

水素エネルギーが一般的になってくればこう変わる

Sankey electrification

CCSも入ってくるとこう変わる

Sankey H2+CCS

重工業にCCSが入ってくると大きく変わる

Sankey - elec + CCS

水素エネルギー

都市ガスは50%が水素。実はすでに馴染み深いエネルギー源。
現在ほとんどは天然ガスから作られていて、ここでメタンCH4が排出され最終的にCO2が排出される。
ここにCCSを使用するのはとてもマッチする。

水素を供給するパイプネットワークのインフラ構築は英国で積極的に進んでいてコスト的な見通しも良い。

リーズの事例動画

Blue HydrogenとGreen Hydrogen

CCSで生成された水素をBlue、電気分解で生成された水素をGreenで呼称。Blue HydrogenではトータルでNet Zeroにするために上流工程でのメタンの漏出の削減が大きな課題。

100%再生可能エネルギー社会

世の中には電力を全て再生可能エネルギーで賄うことを目指す人もいる。しかしこれは全くもって効率的ではない可能性がある。

再生可能エネルギーのメインプレイヤーは風力と太陽光だが、まずこれらはオンデマンドな発電ができない。そのため現在風力発電は発電容量を上げるためにとにかくオーバーサイズにすることが提案されている。また「風は(太陽も)地球のどこかで吹いている(射している)」と考えて国家間の送電網の配備を構想する動きもある。しかしこれらインフラは使用率が低いことを考えればコスト効率的ではない可能性が高い。

また電力貯蔵の問題は解決の見込みが不明瞭だ。例えば高気圧性気象によって全世界的に寒くて風のない日が数週間続くというイベントはここ10年以内に推定されている気象シナリオのひとつだ。つまり風力も太陽光もほぼない状況が数週間続いてもそれに耐えうるだけの電力貯蔵システムというものが「100%再生可能エネルギー社会」を本気で目指すなら確実に必要である。正直現時点では極めて非現実的な話だ。

したがって、原子力、低炭素排出な火力発電、BECCSなどのオプションが必ず必要になる。なおIPCCの推定ではCCSなしでは2℃目標に対するコストは50~200%上昇するとされている。

100% renewable energyのコストについて

https://www.technologyreview.com/2018/02/26/241113/relying-on-renewables-alone-would-significantly-raise-the-cost-of-overhauling-the-energy/

発電

発電関連で年間13Gt、CO2排出全体の40%と言われる。輸送部門の2倍以上(2014年のデータ)

安価な天然ガスを入手可能な国はそちらにシフトすることで一端「排出削減」はできるがそれではニュートラルには達せない。

再生可能エネルギーの50%以上は風力と太陽光だが、それらのオンデマンド稼働ができない制約を理由に古い火力発電所をCloseすることできないという現象が起きている。CCSによって低炭素な火力発電所に変更すればよい。

九頭龍 'kuz' 雄一郎 エンジニア/経営者, 日本の大企業からシリコンバレーのスタートタップまで多種多様な千尋の谷に落ちた経験を持つ。 株式会社ClayTech Founder/CEO, 監査役DX株式会社 Co-founder/CTO, 株式会社スイッチサイエンス取締役, 株式会社2nd-Community取締役, 東北大学客員教授, 東京工業大学非常勤講師, 武蔵野美術大学非常勤講師, 他複数社の顧問など。

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