Q.大企業とスタートアップの協業は何故うまくいかないか

投稿者: | 8月 4, 2021

これもよく受ける相談です。

まずこの相談は大企業からしか来ません。 何故ならほとんどの場合でスタートアップは自分たちの欲しいものがハッキリとわかっていて、それがもらえないとわかったらサッと手を引くからです。悩む余地が特にない。

逆に大企業は、スタートアップから何を回収したいのか、さらにはどこまでを期待して良いのか、そのために自分たちから出すべきものは何なのか、それらの1個2個、下手をすれば全てがハッキリとしないまま雰囲気で協業へと進んでいるケースが非常に多いです。

以下で上記の課題について紐解きながら考察していきましょう。

まず何を回収するか。
例えば協業の典型的なパターンで「スタートアップの市場導入を助ける」というケースがあります。 その場合は例えば大企業はその業界において総合的にポジションがあり、大企業自身やその関連企業などにそのスタートアップの製品やサービスを先行導入することで、自身はその先進的なサービスを他社に先駆けて導入することで、自身のユーザーへのプロモーションあるいは実質的な利益に繋げていくことができる、というストーリーです。

ここで、ぜひ正直になって下さい。

本当は回収したいものは、そのスタートアップがチャレンジしている製品の詳細やサービスのノウハウではありませんか? 露骨ではないものも、それらを自社の製品やサービスに転換することを微塵も考えていないでしょうか? この分水嶺をハッキリさせておきましょう。それによって付き合い方が変わりますので。

次にどこまでの期待を持つか。
前述のようなスタートアップの技術詳細やノウハウも実際は全く使い物にならないレベルであることが十分に多いと言えます。 つまり過度な期待は禁物なのです。 きちんとその線引きができているでしょうか? 社内で薔薇色の話ばかり吹聴していませんか? 資本関係を結ぶ場合はまた話が変わってきますので、その境目もハッキリさせる必要があります。

最後に自分たちから出すべきものについてです。
これはスタートアップが大抵の場合でハッキリと必要としているものがあるのでそれを覚えておけば簡単です。 それは別の項でも触れましたがトップはQAおよびCSです。次点で生産ラインでしょうか。 QAやCSは必要とされる期間がある程度短期であったり状況に応じて必要なリソースの上下が激しい領域と言えます。常に慢性的なリソース不足状態でありかつ他部署からの暫定的補填などが考えにくいスタートアップには鬼門と言える領域です。 しかもこれらには多様な経験が極めて重要で、また組織的な規律だった行動が求められます。しかしながら一方で製品を構成する基礎技術などに関してそこまで深い理解を持っておく必要はありません。 そのような意味で外部、特に大企業がサポートするにはうってつけの分野と言えます。 なおスタートアップはお金は当然ありませんが、出資に関しては他のセンシティブなファクターをいくつも孕むため、必ずしも無理にあなたたちからお金をもらう必要がスタートアップ側にはありません。

あなたがもし大企業側の人間の場合、これで少しは協業の具体的イメージができたでしょうか。

私の観点ではあなたはハッキリとした戦略を取る必要があると思います。 もし最終的にスタートアップそのものを取り込むことまで狙うのであれば、資本業務提携をベースに一蓮托生の土台を作り、その上でスタートアップの求めるものをひたすら与えてあげる戦略を取るべきです。 あるいは単に彼らが有望かどうかや市場が有望かどうかなどを探っているだけなのであれば、自社の負担と犠牲を最小限にするようリスク管理した上で相手からできる限りの情報が引き出せるように、ある程度は必要なものをスタートアップに与える戦略となります。

もし前者であればスタートアップがあなたたちからのおフォーを受け入れるか受け入れないかの分岐が早期にハッキリします。進むのであれば進む、進まないのであればそこで終わり。どちらも時間と労力を無駄にすることがありません。
後者であればあくまでリスクを極力低減させた付き合い方をするというコンセンサスが両者で確立されます。お互い多くのものを期待していませんし、ちょっと連絡が滞ったりどちらかに進捗がないくらいでカリカリする必要がありません。関係性の自然消滅もあるでしょう。これはある意味で時間と労力の最小化と言えます。

このような最低限のスタンスすら固めずにふんわりと協業を持ち出すことによって、様々なところで混乱が発生しているのを目にします。 最終的にスタートアップ側は本来であれば他の何かに向けることができたはずの労力と時間を無駄に取られ、大企業は過剰な期待をしたが十分な成果が回収できず失望する、という両者にとって非生産的な結果となります。