スタートアップでものづくりしたい人たちへ

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よく講演などの最後でリクエストを受ける質問への応えを書きます。
私のブログを読んでくれている読者の方々には、スタートアップでものづくりをする時に如何に多くの困難が待ち受けているかということが理解できているのではないかと思います。ここではそれらを細かく挙げ直すことはしません。
そのためスタートアップでものづくりをすることはほとんどの場合でお勧めできません。

もし起業がどういうものかを味わってみたいだけであれば、友人たちと空き時間を利用してアプリを作ってAWSの無料券でも使ってクラウドを用意してサービスを立ち上げてみれば良いと思います。 失敗しても労力の損と微々たる経費だけで終わりです。経験を得たことを考えれば十分過ぎるほど元が取れていると言えるかも知れません。
今や世の中の課題のほとんどはスマートフォンとクラウドサービスの組み合わせで解決可能と言って差し支えません。

「そうは言ってもあなたものづくりばかりやってますよね?」
という指摘が聞こえてきます。 そうです。世の中にはフィジカルを伴うものでなければ解決できない課題も数多く存在します。 私なんかはついついそういうものばかりに目がいってしまいます。
そういう性分なのです。
私はこれを自分自身の「不治の病」だと捉えています。
どうやっても拭えない宿命。避けても避けても付きまとってくるもの。そして、心のどこかで常に居心地良く求めているもの。
以前は別の言葉で「しがらみ」とも言っていたのですが、やはり「不治の病」の方がしっくりきます。 場合によっては、それによって死に至ることもあるかも知れないのですが、生まれた時から付き合ってきた持病なので今更それについて何か言うつもりはないし、他人と議論するつもりもない。そんな存在です。

あなたの中の不治の病は何でしょうか?

もしあなたが合理性を究極的に重んじるタイプの病を抱えているとしたら、まず間違いなくハードウェアを作る結論には至らないと思います。「他人に作らせる」あるいは「他人が作ったものを使う」という選択肢があるからです。
「起業」という病に取り憑かれている人もいますが、その場合は前述のとおりです。
もしあなたが「野心」や「名誉心」という病を抱えている場合も、ハードウェアを通らなくてもその症状は和らげることができそうに思います。
しかしもしあなたが、アンティークギターの大ファンであったり、こだわりのキャンプ用品を週末愛でるのが好きだったり、ついつい最新のガジェットを買い集める習性があったりしたら、ひょっとしたらものづくりの病はあなたの中にあるのかも知れません。

起業へと駆り立てるのは多くの場合で「勝手な思い込みによる必然性」です。
ちょっと矛盾したことを書いていますが、本人の中では「それをやらなければならない」という必然性が働いていることと、それが必ずしも外部から万人が納得するような形にはなっていない、という意味です。

友人の中に「真のコミュニケーション手段を確立したい(現代のコミュニケーションに風穴を開けたい)」というなんとも夢想的なテーマに凝り固まっている人がいます。彼に「〇〇とか〇〇とかあるじゃないですか」とぶつけると、アレコレとそのサービスの不足や不整合を指摘しそれを解消する必要があると熱弁を受けるのですが、カフェトークでは「そうだねーうんうん」と頷いていますが、もし私が投資家だったら「はい、ありがとうございます。ではお帰りください」が正しい反応のように思います。

不治の病は時に胸がしめつけられるような苦痛を伴うことがありますが、それも含めて人生を豊かにしてくれます。 ぜひあなたの中の不治の病を見つけてみてください。
そしてそれに忠実に動いた先に、もし「ものづくり」が見えるのだとしたら、このブログにある内容があなたのサポーターとして働いてくれることを私は期待します。

九頭龍 'kuz' 雄一郎 エンジニア/経営者, 日本の大企業からシリコンバレーのスタートタップまで多種多様な千尋の谷に落ちた経験を持つ。 株式会社ClayTech Founder/CEO, 監査役DX株式会社 Co-founder/CTO, 株式会社スイッチサイエンス取締役, 株式会社2nd-Community取締役, 東北大学客員教授, 東京工業大学非常勤講師, 武蔵野美術大学非常勤講師, 他複数社の顧問など。

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