池上さんの「世界の見方・ロシア」からポイントを整理

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東京工業大学の同僚(笑。言うまでもなく全然立場が違う)の池上彰さんの以下の書籍を読んだ。ポイントを備忘的に整理したい。

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<そもそもの地政学的な習性>
ロシアは東西に長く、多くの国と国境を接している。 つまり多くの国から侵略されるリスクが常にある。
第二次大戦でも最も多くの死者を出したのは実はソ連で「陸地が繋がっている隣国にとんでもない無法者(当時はナチスドイツ)がいると如何に恐ろしいことになるか」が骨身に沁みたはずだ。
一方でロシアは極寒の地であり、常に南の温暖な地域に領地を伸ばしたいという誘惑がある。 つまり『侵略戦争』という言葉が攻守どちらの意味でも常に頭にある国だと言える。

<鉄のカーテン>
東西ドイツが分裂後に、東ヨーロッパの管理を任されたソ連はすかさず「ソ連寄りの国」を作ることに注力した。元々の約束は「独立した民主的な国家を作ること」だったはずだが。
こうやって西側に対しての「緩衝地帯」を作ることがロシアのお家芸。
そもそもソ連ができた時も同じ思想だった。 ロシア帝国が母体で、連合に組み込まれた他の国々はあくまでロシアにとっての緩衝地帯だったと言える。
現にソ連が解体した時にほとんどの武器、兵力、資金、資源はロシアに帰属した。あくまでロシアが大事であって他はおまけだったのだ。
そういう意味では、ロシアからするとウクライナは「色々与え過ぎた国」というように映っていてもおかしくはない。

<ホロドモール>
そのような「ロシアありき」の思想の表れの一つがホロドモールで、農業政策の一環として行われた資産没収と農地接収による国有化の末路としてウクライナで起きた大飢饉のこと。
ウクライナは小麦の一大生産地として昔から有名だったが、それらを取り上げて食いつぶして死者がどれだけ出ようと気にせず、むしろ現地の人間が死んだら中央から人を移動させるチャンスだとばかりに振る舞う姿を、きちんと歴史を知っている人、あるいは父祖父の代から聞いているウクライナ人は沢山いるはずだ。
これは間違いなくウクライナが何があろうとロシアに与しない姿勢を貫く、そしてそれが民衆の支持を得る理由だと言える。もう90年近く前の話だが、それこそ末代までの恨みを買ってるというわけだ。

<始まりはキーウ>
ロシア帝国はキーウ(キエフ)から始まって徐々に東へと広がっていった。 つまりロシアもソ連もその発祥はキーウ。それを奪還したいという気持ちはどこかにある。

<プーチンがロシア国内で評価を上げたのは資本主義のおかげ?>
ソ連崩壊後、ロシアは圧倒的に景気が悪かった。部分的に資本主義を取り入れたことによって物価は上がり、しかし技術力も資金力もなく、圧倒的に弱い国へと向かっていた。それがゴルバチョフが冷戦を終結させた理由でもある。
しかし資本主義の発展によってエネルギー需要が増え、あるタイミングで原油価格(そしてそれと連動する天然ガスの価格)が上がり始めた。
そこで大きく儲けたのがロシア。
当時中東戦争の影響で中東からの原油調達に二の足を踏む国は多く、それらの国々に対してロシアは商売をして一気に経済を立て直した。
しかし近年はというとシェール革命によってアメリカが産油国として存在感を増し、相対的にロシアは弱くなってきている。また脱炭素の動きからエネルギーシフトが進んでいるのも近年の特徴でもあり、結果的にロシアにとって現状は「まだ体力はあるが、未来を考えるととてもまずい状況」だと言える。
つまり何かを仕掛けるタイミングとしてはある意味「とても適切」だったのだ。

<20世紀スパイの限界説?>
プーチン大統領が元々KGBのスパイだったというのは有名な話だが、側近にも元スパイが揃っている。
ソ連は「共産主義」を理想として掲げる「社会主義」国家だったが、ホロドモールも含めた様々な失政を、プロパガンダ的な言論統制と厳しい管理主義(密告、強制収用、処刑、etc.)で封じ込めてきた。
インターネットがこれだけ発達した現代でそれが通用するのか?
民衆の言論を扇動によって恣意的にコントロールすることなどもはや不可能だ、というのが世界的な通説と言って本来差し支えないはずだが、今回のウクライナ侵攻の成り行きを見ている限りでは「高齢者や地方住民にはかなり通用する」ということがわかったと言える。

九頭龍 'kuz' 雄一郎 エンジニア/経営者, 日本の大企業からシリコンバレーのスタートタップまで多種多様な千尋の谷に落ちた経験を持つ。 株式会社ClayTech Founder/CEO, 監査役DX株式会社 Co-founder/CTO, 株式会社スイッチサイエンス取締役, 株式会社2nd-Community取締役, 東北大学客員教授, 東京工業大学非常勤講師, 武蔵野美術大学非常勤講師, 他複数社の顧問など。

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