日本のスタートアップエコシステムの方向性について考えるおれは暇人か!?

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woman walking in the street during night time

とある友人に宛てたメールよりシェアする意味がありそうな部分を抽出してみる。

なお断っておくが私はいちエンジニアであって政治家でも政策提案者でもないし
VCの人間でもないしスタートアップの経営者ですらない。(まだ。笑)
しかし、ここ(シリコンバレー)にいる人間の端くれとして
感じることはまぁそれなりにあるわけだ。

 

人材流出について

まずこの友人との議論のベースにあった『人材流出』について説明を加えておく。

現在の日本の状況を鑑みると、
日本におけるスタートアップを支えるエコシステムというのは非常に貧弱である。

エコシステムとは具体的に
・起業家
・投資家
・人材(スタッフ)
・顧客
が揃っているかどうか、という意味だと理解すれば良いだろう。

起業家と投資家は言うまでもないが、案外困りものなのがスタッフと顧客だ。
日本において優秀な人材がスタートアップに勤めるか?
スタートアップが作った製品やサービスを日本の顧客が好んで買うか?
という2点だ。
これは日本国民の総体として出来上がる『雰囲気や傾向』だから
少数のがんばりや何かで容易に変えられるものではないが
『顧客』の方の問題はグローバルにサービスを展開することで回避可能だろう。

したがって、最も深刻なのは人材の話なのだ。

結論から言うと、日本人の人材が海外に流出する傾向が止められない。

理由は色々なものがあるのだろうし色々なひとが色々なことを言う。

日本では未だに「アーリーステージのスタートアップに勤める」と言ったら
皆が怪訝な顔で見るだろう。
「そんなことしたら人生を棒に振るぞ」とまで言うひともいるかもしれない。
しかしアメリカ、ことシリコンバレーではそうではない。
スタートアップに勤めることもひとつのキャリアアップだし
むしろそれでハクがつくと思っている若者も多いことだろう。
実際アメリカには多くの元気なスタートアップが存在するし
それらの多くは別に「明日潰れるか!」というようなギャンブルはやっていない。
いざ勤めてみたら案外フツーのサラリーマンノリだったりするのだ。

安全・快適。

またアメリカの会社と比較すると多くの日本人の働き方はクレイジーだ。
気楽に休みを取れないし、サービス残業し休日も呼び出されたら仕事をする。
夜は接待先と飲み歩いて土日は家でグッタリ。
給料に交渉の余地はなく、安易に離職したら再就職は困難。
もはやこの世の地獄。

# ま、これは私自身の勝手な誇張を入れた所感だが
# 一般的にもだいたいこんなことが言われているだろう。

さて、そんな未来が見えている中で若く優秀な人材はどうするか?
「チャンスさえあれば、、、」と考えるのが普通ではないだろうか?

じゃあ日本はどうすれば良いのか。

というのが今回のスタートラインだったのだ。

どこで勝負するか?いつ勝負するか?

「どれだけ自分の未来に投資してますか?」

なんてドッキリクエッションなわけだが、どうだろう?

私は目に見えた安定なんてものは幻想でしかないと思っていて
世の中は流動的だし変化がないように見えてもそれはスピードが遅いだけで
いずれ『来るべき時は来る』ものだと考えている。

つまり転じて、
達成したい何かや守りたい何かがあるなら自分を磨くことを怠ってはいけない
と思う。

何かで(確かドラゴン桜の作者の書いた何か)
「30代以降は20代で積み上げた貯金の利子で食っていく」
と書いてあったがそれは間違いだ。
銀行に預けてるわけじゃないんだから誰も利子なんてくれない。
この考え方は古きゆかしき「安定安心の終身雇用制度」の中での考え方だ。
若いうちにある程度のポジションを掴めばあとはヘマさえしなければ自動的に出世して
偉くなったら世のトレンドも最新技術もよくわかんなくていいから
ただ適当に部下にガミガミ言ってあくせく働かせれば良い、とね。アホ過ぎる。

やはり、常に積み上げる、それを楽しくやる。
これができてないとハッピーな人生を送るのはとてーも困難だと思う。

ハッピーな人生は何も経済的な話だけではない。
立場が偉くて給料が良いだけで実際は蚊帳の外のオッサン、とかハッピーじゃないでしょ?

なのでいつも勝負して、いつも自己投資しているのが好ましい姿なのだ。

さて、投資という言い方をする以上は何かを『投じる』のだが
それって最も好ましいのは『環境』だ。
金を使うってのも当然あるんだが、多くの場合で一過性のものになってしまう。
リスクを冒して自らを厳しい環境に置くことが実は最も大きな自己投資だ。

『環境の重要性』については以前別の投稿にツラツラ書いたのでそこを参照して欲しい。

マルディーニの言葉とセコイアキャピタル

マルディーニの言葉とセコイアキャピタル

勝負、そして出戻り

上記のリンクとかぶるがやはりサッカーでの例えが好きなので以下のように考えてみる。

日本のJリーグは世界的にお世辞にもレベルが高いとは言えないので
多くの優秀な選手は海外へと移籍していくのが近年のスタンダードだ。
自分のレベルを高めるためによりレベルの高いリーグへと身を置く。

そしてほとんどの選手は大抵キャリアの終盤で自国のリーグへと帰ることになる。
しかし彼らは「そろそろ母国に貢献するか」という高尚なマインドなどではなく、
単に海外で良いオファーがもらえなくなって帰るのだ。
(まぁクチでは色々言うだろうけど要するにそういうことだ)

彼らは日本サッカー人口数百万人のトップほんの一握りだが、
そういう人たちの基本マインドは
「どんなに見苦しかろうとトップレベルにしがみついてがんばり続ける」なのだと思う。
自国リーグへの貢献というのは当然頭のどこかにはあるのだが、
それは「来るべき時が来たらやれば良いだけ。その時が来るまでは行けるところまで行く」
という程度なのだろう。

見ようによってはエゴイストで自分勝手だと言えなくもない。

今年、日本代表でも活躍した松井大輔がジュビロ磐田に移籍したが、
全盛期の彼はフランスで活躍し、その後ロシア、ブルガリア、ポーランドと転々とし、
最終的に所属したクラブでは選手としてだけではなくスタッフ(監督を補佐する立場)
としての役割も期待されていたと言う。
きっと「あぁ、そろそろ限界かな」と思ったんじゃないだろうか。

松井の例については結果はこれからなのでどう出るかわからないが
中村俊輔の事例におけるフィードバックは明白だ。
彼が日本に帰ってきたことでマリノスが復権する(昨年2位)ところへも繋がり、
経済的効果も出ているようだ。
(俊輔の10番ユニフォーム1.5万円は発売当日の一日で2000枚売れたとか)
そうやってマリノスに金が入ればゆくゆくはマリノスが世界的に戦えるようなチームへと
成長する下支えになるだろうし、ひいてはJリーグの発展に貢献する。
これで本人がハッピーかどうかは他人に量れるものではないが
当時所属していたエスパニョールで結果が出ず「そろそろ潮時か、、」となっていた彼に
マリノスが良い受け皿を提供したことで得られた非常に美しい事例だったように思う。
ちなみに中村俊輔は全盛期に所属していたセルティックでは
レジェンドのひとりに数えられるほどの活躍をし
「引退試合はぜひうちでやって欲しい」とクラブ幹部から熱望されている。

海外で活躍した人間が自国でもう一旗。
非常に美しい話だなぁと。率直に憧れを抱く。

こういう話をするとよく反例で出るのは中田英寿だが、
彼は海外でプレーしてそのまま引退した。
しかも29歳というサッカー選手としてはかなり若い年齢だった。
彼なりにどうサッカー界に貢献するか考え、そしてそれをアクションへと移しているひとなので
(Take Action FCというチャリティーチームを率いている)
それってアレコレ他人が口出しをすることではない。

自分が30歳越えるとよくわかるが、サッカーやること自体が正直しんどくなる。
やっぱハードなスポーツだからなぁ。。。

が、好みだけの話をすると中村俊輔の方が「よくやってくれたなぁ」と思う。

しかし、
こういう『美しいストーリー』を描くには条件があることに気がつくだろう。

そもそも

「チャレンジしたひとにしかその権利は与えられない」

というシビアな事実だ。

オール・ニッポン出戻り計画

既述のとおり、スタートアップについて考えた時にそのエコシステムおよび競争力において
日本が世界トップレベルだなんてお世辞にも言えない。
だからスタートアップに適した人材が日本から出ていくのは当たり前だし
それを短期間で劇的に変えるのは無理がある話だと思う。

例えばJリーグで言えば、スポンサーから大量資金を投入して今が旬の選手をバンバン取って
プロモーションを派手に打って、、、それがそもそも簡単な話ではないし、
そしてそれで結果的に継続的な成長が得られるかどうかは大きなハテナマークが付く。

だから『いま何が必要か』というと、

「出ていかない仕組み」

ではなくて

「帰って来る仕組み」

なのではないかと思う。

日本が置かれているステージを真摯に捉えて適切な成長曲線を描く意味では
まず必要なステップはココではないだろうか。

例えばこっちで知り合った人間の数名は『起業ジャンキー(笑)』だが
彼らの起業欲求を満たしてくれる環境は今の日本にはない。

しかし面白い傾向がある。

ソフトウェアサービスから入ってハードウェアをやりたがるのだ。

これを『単なる世の中のトレンド』と言う人も多いだろう。
いわんや3Dプリンターで試作コストが下がっただのITソリューションが飽和してきただの。
MAKERSの時代が来ただの人々がインターネットに飽き始めただの。

私はこの『想い』についてはそういう話ではなくて
『起業家のキャリアのフェーズ』
だという仮説を立てたい。

イーロンムスクもPayPalのあとにTeslaとロケット作ったりしている。
Amazonのベゾスも最近ハードウェアへの情熱を隠しきれない。
ジャックドーシーもスクエアの造作については
アレコレとバックグラウンドに『ものづくりストーリー』を抱えてるようだ。

ハードウェアスタートアップに関してはシリコンバレーの状況も決して良好とは言えない。
明らかにVCの出資額が小口化細分化していて、初期投資を食うハードウェアは投資を受け辛い。
そこで例えばハードウェアスタートアップに特化した受け入れ易い仕組みなんてものは
「日本をソフトウェアサービス立国にシフトさせる」
とかいう寝言を吐くよりもよっぽど現実的で効果があるんじゃないかと思う。

日本を飛び出し、海外で活躍した経営者やエンジニアたちが
「やっぱりハードウェアスタートアップをやるなら日本がいいな」
と考えて帰ってくるのだ。

ウキウキするストーリじゃないか?

ちなみに具体的な施策(税金?補助?特区?)なんかは当然専門家に任せたい。
素人がクチを挟める領域ではないからなぁ。

なおこのディレクションは日本が将来的に抱えることになる
『余剰人材』から考えても正しいのだ。

# 何を指してるかわからないひとは、何を言ってもわからないだろうから言わない

もう10年近く前だがアマダナ(リアルフリート)の熊本さんの話を聞いた時に彼が
「東芝時代にすげぇ技術を持ったエンジニアが、すげぇつまんないもの作ってて、
こりゃどうにかしなきゃいけないと思った」と言っていたのを思い出す。
日本にはスゴい腕を持ったハードウェアエンジニアはきっと腐る程いる。

「2, 3年で数百倍!」というようなクレイジーで博打的な爆発力は期待できない。
ハードウェア事業はそもそもそういうものではない。
コツコツ積み上げた技術と経験が数年をかけて醸成し、そして世界をあっと驚かせるのだ。
日本を殺さず『ニッポン』を未来に残すためには
これが非常に妥当な、むしろ唯一のソリューションなのではないだろうか。

以上、単なるシリコンバレー在住起業家予備軍モノ好きエンジニアの戯言だ。

九頭龍 'kuz' 雄一郎 エンジニア/経営者, 日本の大企業からシリコンバレーのスタートタップまで多種多様な千尋の谷に落ちた経験を持つ。 株式会社ClayTech Founder/CEO, 監査役DX株式会社 Co-founder/CTO, 株式会社スイッチサイエンス取締役, 株式会社2nd-Community取締役, 東北大学客員教授, 東京工業大学非常勤講師, 武蔵野美術大学非常勤講師, 他複数社の顧問など。

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