メディアに出るということ

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先日「日経ビジネス」「日経コンピュータ」で紙面デビューを果たしました。わーい。
昨年登壇させていただいたカンファレンスのレポート記事ですが、今年も継続的にホットな話題であろう「AI」の文脈の中で登場させていただいていることにも関係者の方々に深く感謝いたします。

さて、枕詞はこのくらいにしておいてきちんとネタバラシをしよう。
カンファレンス登壇のご招待はそもそも私が取締役を務める会社の子会社であるスイッチサイエンス宛に受けたものだった。それが広報レベルでどのようなやりとりがあったかは私は関知していないが、私にミッションとしてお前が登壇せえと回ってきた形だ。したがって私は「スイッチサイエンス」をしっかりと出して登壇する必要があったというわけですな。

ということで私は私。小躍りするでもなく、かといって金を払って広告を載せたのとは訳が違うので、日経ビジネスと日経コンピュータという波及力のある紙面に登場させていただいたその価値はその価値として、フェアに軽く「わーい」と言うわけだ。

さて、メディアというと、これまで何度か大学で講演をさせていただいたことがあるのだが、そうすると割とリクエストされるのが(大抵質問時間の最後に)
「九頭龍さん、最後に何か若者にひとことお願いします」

当然私も大人なので、その場のテーマや招待してくださった方の意図に沿ったことを言う。(ホントだよ、ウソじゃないよw)
ただ、自由が与えられることもあるのでその時にぶちこむのが

「メディアには極力出るな」

このセリフはメディアに出た時に言うとより一層威力があるものだと思うのでここで出しておこう。

みんなわかっていることをあえて言うが、個人に許された時間は有限である。したがってメディアに出るにせよ何にせよ、メール一本書くにも、ミーティング一個出席するにも、明確な目的が必要だ。
しかしメディアに出る(出す)その際の至極真っ当な目的というものは実はほとんど限られていて、
– 新製品・新サービスのローンチをアピールする
– 個人もしくは会社をブランディングする

私が思うにこの2種類だけだ。

よく間違えるのが
– 自分の主張を言う
ということで、これは残念ながらメディアとの付き合い方があまり上手だとは言えない。
それは「彼らは彼らの言いたいことを言いたいのだ」という至極当たり前の事実を見落としているからだ。

私は以前NHKの番組に出たことがある。取材で30分ほど話したが使われた尺は30秒程度だった。しかも、これも経験者あるあるだと思うが、使われたのは
「あれ、おれこんなこと言ったっけ?」と思うような箇所。
しかし、いざ番組を通して見ると、そこにはきっちりとした一本のストーリーがあって、別のひとのコメントや現場取材を組み合わせることでより説得力を増している。(まるで台本があってそれにしたがって喋ったかのように)

これは全くもってメディアを軽視したり、製作の方々に対して「イデオロギーの誘導だ!」とかそういう話では全くなくて、
お互いのベネフィットをお互い重視してがんばりましょうね
という話でしかない。

例えばビジネス。
あるものを売りたい人とあるものを買いたい人がいる。
買い手にとってある条件は絶対で、売り手は今のままで売れたら都合が良いのだけど買い手の要望を満たすにはちょっと手を加える必要があったとする。

このような場合、ビジネスシーンでどうするか?

売り手は買い手の意図を汲んで、改変を入れる代わりに少し高めの金額で買い取ってもらうことを交渉する。それで成立すればOK。もし成立しないのであれば買い手は別の売り手を探せば良いし、売り手も別の買い手を探せば良い。

さて、今回の話に一旦戻すと「事前チェックあり」だった。大変ありがたい。詳細はここでは述べないが、私はチェックの際に誤記や認識違いを修正するとともに、ある「会社のブランディング目的」での一言を付け加えさせていただいた。本当に感謝である。全体の内容=ストーリーについては一切口出しをしていない。そこは介入するべきではない。

イイ感じにお互い利用する。これにて大人の関係成立だ。わーい。

なぜ私が若者に対して「メディアに出るな」と言うかというと、それは端的に言って

自分を見誤るからだ。

特にスタートアップを立ち上げたばかりのような人は要注意だ。

世間はラベリングが得意である。レッテル、とも言う。
なぜならラベリングをすることで非常に会話がしやすくなるからである。
個人を個人としてきちんと理解したり、ビジネスや会社経営の細かい所作を汲み取るのは非常に難しい。それだったら「AIで農業を変える!」とか「日本のスタートアップがGoogleを倒す!」とか「新進気鋭の天才学生起業家!」とか言っていた方がすこぶる理解がしやすい(本当は何も本質を理解していないのだけど)
ということでラベリングを乱用する。それにメディアは一役買うことが多い。良くも悪くも。

ラベリングは
「そんなの関係ないさ、おれはおれ」
と通り過ぎることができているうちは良いが、それが毎日付きまとえば、段々とラベルに書いてあること自体がまるで自分自身の自己紹介のように思えてくるものだ。

ライトニングトークなどでのノウハウにもそれに近いものがあるかもしれない。わかりやすい言い方にしないと誰も食い付いてくれないので、極力一文でわかるような言い方にする。それ自体は悪いことではないが、あまりにそれを毎日言ってると、ビジネスになんとも深みがなくなっていってしまう。

中学の時のおじいちゃん先生(誰もまともに授業を聞いていないような国語の先生。私は結構好きだった)から学んだこと、今も覚えていることがいくつかあるが、そのなかに「内言」と「反芻」があった。
本来人間は内省的な生き物だ(と私は思う)自らの中でぐるぐるぐるぐると思考を回すことで、練って練ってようやく形ができてくる。それまで、外からの余計な刺激はノイズでしかない。

ノイズを取り除いてよりピュアになるために、
「あなたに関する何かしらの表現を付け加えるもの」
に対しては極力NOを突きつけるべきなのだ。いずれそれがもたらすギャップにきっと苦しむことになる。
まぁ酸いも甘いも嚙み分けてるおっさんは除くんだけどねぇw

九頭龍 'kuz' 雄一郎 エンジニア/経営者, 日本の大企業からシリコンバレーのスタートタップまで多種多様な千尋の谷に落ちた経験を持つ。 株式会社ClayTech Founder/CEO, 監査役DX株式会社 Co-founder/CTO, 株式会社スイッチサイエンス取締役, 株式会社2nd-Community取締役, 東北大学客員教授, 東京工業大学非常勤講師, 武蔵野美術大学非常勤講師, 他複数社の顧問など。

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