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なぜ投資家はアホみたいな会社に投資するか

最近自分が思ったことばかり書いていた気がするので、久しぶりに人から聞かれたことについて書く。
なぜとってもとっても頭が良いはずの投資家たちが、素人がパッと見で「これ100%地雷じゃんw」とわかるようなアホな会社に巨額の資金を投資するか。

投資家やVC(ベンチャーキャピタル)が意味不明な会社に何百億円も出資するニュースというのはよく見る。
先日、大企業→スタートアップという比較的私と共通性のあるキャリアを辿っている友人からタイトルの質問を受けて私なりの見解を回答した。彼自身は事例として挙げなかったが最近で言えばアダムニューマンの件が代表格だろう。

アダム・ニューマン

”WeWork創設者アダム・ニューマンの物議を醸す新会社、「Flow」とはいったい何か?”
https://www.esquire.com/jp/news/a40928695/what-is-flow-wework-ceo-adam-neumanns-new-company/

”漂う不透明感…WeWork元CEOの「賃貸住宅コミュニティ」新事業にa16zが500億円出資。説明に矛盾あり”
https://www.businessinsider.jp/post-257929

彼はWe Workの創業者で上場前に次々とスキャンダラスなことが発覚して大きくやらかした人間として有名だ。 個人所有のドメインを会社に高額で売却したことも発覚したりして(のちに返金)どうやら倫理観に大きく欠けている人間であることは確かそうだ(直接的にも間接的にも知り合いではないけど)
そういうやらかし方(純粋に事業が上手くいかなかったわけではない)をした人に対して シリコンバレーの超有名VCが大型出資で再挑戦を後押しする、というのは 「失敗を歓迎するのがシリコンバレーの文化とはいえ、さすがにいかがなものか?」と感じる人は多いのでは。

正直私もその一人だ。

アダム・ニューマンだけじゃないしシリコンバレーだけじゃない

例えばLOVOTを開発しているGrooveXなども、

「成長性がよくわからないがとりあえず巨額の出資を受けている会社」

のひとつとして挙げることができる。

確かに製品はよくできているし至る所が非常に凝っていた。設計者はさぞ楽しいだろうなと思う。 しかし投資の回収という「当たり前の観点」については、 従前の販売とサブスクで本当に投資に見合った成長曲線が描けるのか?と多くの人が疑問に思っているだろう。 むしろあの会社が立ち上がった頃からほとんどの人がそう思っていたのでは。 でも多くの金が入っている。

セブンドリーマーズは日本を代表するやらかし企業のひとつと言って差し支えない(もう結論は出たわけだし) 70数億円を調達し、全自動洗濯折り畳み機を作って、全く売れなかった、という清々しいやらかしだ。

別のポスト(Q. ほとんどの仕事がAIに取って代わられるというのは本当か?)にも書いたが、「技術的には面白い」が冷静に一歩引いて考えてみると「それ誰が買うの?」とすぐに気付く、 つまりPMF(Product Market Fit)が全く見えないプロジェクトというのは割とよくある話だ。 尖ったアイディアを立てるのは一度慣れれば思ったより簡単だ。しかしそれが売れるかどうかは全く別次元の話だ。
でもそんなものを作るために多くのキャッシュが集まってしまう。

それが目に余る頻度で起こってしまうのがスタートアップ投資の世界なのだ。

<ポートフォリオ>

タイトルの「なぜ?」に答える上でひとまず教科書的な話をしておく。

VCだけに限らず投資という行為は必ずポートフォリオをもって行われる。 どこか一社に全張りするのは投資ではない。道楽的なギャンブルだ。(ギャンブルだって真面目にやる人は分散させるはず)
ポートフォリオの設定の仕方はそれぞれだが、例えばよくあるのは「カテゴリーで予算が決まっている」というパターン。 当然予算は予算なので必ず使わなければいかないわけでもないが、 「サラリーマンキャピタリスト」としてはほとんどの場合でそれに思考を左右されてもおかしくない。
つまりカテゴリーとして巨額の投資予算が決まっていれば、それを探すのは大変なわけで 確実に成果が出るスタートアップを入念に入念に探してそれぞれ小口に数億数億、、、と出資するよりも、 ある程度のところまでは派手に徹底的にやると信用できる起業家に対して どさっと大量に預けてしまいたくなるのは当然の心理だろう。

個々の投資行動の多くは外から見ることができるが、ポートフォリオの全貌は外部から見えるものではないので、 よその人間(一般人)からすると「なんでこの会社にこの金額?」が発生するひとつの引き金にはなり得る。

<20社に1社当たれば上出来>

よく言われる話だが、スタートアップの5年生存率は0.5%程度らしい。 まぁこれは学生がノリで立ち上げたような会社も含まれるわけで、実数としては多少のブレはあると思う。 一方VCが出資するというある程度のレベルまで来たあときちんと何かしらのEXITまでこぎつける確率としては 5%あればとても優秀だと言われる。20社に1社である。
当然投資金額やその回収のスキームによるので実際は色々な事情が入り組むのだが ざっくりで言うとこういうラフな数字で説明できる。

20社中19社は失敗しても構わない。

むしろ仮に20社チャレンジしていないとしたらその方がどちらかと言えば問題だ。

失敗は重要である。

例えば、ShowroomとPocochaの対比は最近よく言われるが、ライバルと呼べるサービスが同じグループから出てきたためある種の衝撃を受ける人はいるだろう。

しかしスタートアップだけに限らず新規事業立ち上げの領域ではこんなことは当たり前で、何かを試して失敗して、その失敗を元にもっと良い事業を作るのだ。とてもシンプルである。

だから先に立ち上げたShowroomは切り離されて見捨てられたように見えるだろうが、そんなことは当たり前で、与えられたチャンスを活かせなかったのだから、せめて人知れず死んだわけではなくある程度の足跡を残すことで後進に参考になれただけむしろだいぶマシだったと言えるだろう。

多くの失敗があればあるほど、未来はマシになる。そのためには19社ハズさなければならない。

エクイティファンディングのスキームはそれを可能にする発明だったのだ。

<デューデリできる話とできない話がある>

投資の神様と言われるウォーレンバフェットの矜持に「わからないビジネスには投資しない」というのがあるそうで、 その矜持に従って初期のAmazonに投資しなかったことを今では後悔しているとも言われている。
しかし私の個人的な感覚ではデューデリできない会社に対して投資するなんて狂気の沙汰だ。 (バフェットくんは合っとる)
とはいえほとんどのキャピタリストは金融屋さんなわけで、ごく少数がエンジニアや研究者出身。 で、せいぜい良くて残りがコンサル出身だ。 つまり特に技術領域について妥当なデューデリができる可能性は極めて低い。 (欧米のトップVCはここら辺の事情がかなり違うのだが一旦ごく一般的な話をしている)

スタートアップで出資のラウンドを行う時に「リード」と「フォロワー」という言葉が使われる。 リードはそのラウンドを仕切る人のことで、フォロワーはそのリードの仕切りに合わせて出資する人たちのことだ。
だいたいはリードが先に決まってフォロワーがその名の通りあとから着いてくる。 つまり、リードがデューデリした結果を丸々信用して着いてくるフォロワーがたまにいる。いや、沢山いる。いや、ほとんどそうだ。

多くのVCの方は「うちはそんな適当なことはしていない」と反論するだろうと思うし、 少数の真面目で優秀な方々は確かにそのとおりですねすみませんと思うのだけど、 数々の悲劇と喜劇が「世の中そんなまともな話ばかりではない」ということを証明してしまっている。
例えばセラノスの事例が有名だろう。 (セラノスにはスタートアップあるあるが詰まっていた

しかし自力でデューデリできない会社には投資しないのでは、 扱えるカテゴリもステージも限定的になり、発展性に大きく欠けてしまう。 VCは多くの場合はLP(金出してくれる人たち)の要望もある程度聞かなければならないし、 時代の流れやトレンドも押さえなければならない。

VCは実質的に人件費がほぼ全ての経費のため、案外少ない人数で回していることが多い(そうやって利益を上げる) 多種多様な人材を集めるにも限度があるし、あまりそこにこだわり過ぎても利益が減ってしまう。 それであれば優秀なリードの判断に従って2, 3投資するのもアリと言えばアリなのだろう。

<これからもアホみたいな投資は行われる>

ここまで一般によく言われる3つのファクターを挙げてみた。
俯瞰してみるとある程度の合理性に基づいて行動しているということはまぁわかってくる。 (当然それがベストかどうかには議論の余地がふんだんにあるわけだけど)
これからも「は?なんでこの会社にこんな金?」という事案は尽きることがないと思う。 そこには多分に人間の心理も関わってきている。 経済学者によっては「適当な頻度でバブルが起きて消えるのが経済としては健全」と言う人もいるようだし、 歴史的には確かにそう思える部分もある。
ジョン・ローのように時代の寵児と祭り上げられた末に追われる身となるようなリスクを取る人生を またヨシとする人はいるだろうし、そうやって主役の座を入れ替えながら時代は回っていくのだろう。
(参考:逃げるは恥ですらない、上策である 〜 狂気に頼らない生き方を 〜

『時代の脇役』である投資家たちは彼らが用意したステージで踊ってくれる人を常に待っているのだから。

qzuryu

九頭龍 'kuz' 雄一郎 エンジニア/経営者, 日本の大企業からシリコンバレーのスタートタップまで多種多様な千尋の谷に落ちた経験を持つ。 株式会社ClayTech Founder/CEO, 監査役DX株式会社 Co-founder/CTO, 株式会社スイッチサイエンス取締役, 株式会社2nd-Community取締役, 東北大学客員教授, 東京工業大学非常勤講師, 武蔵野美術大学非常勤講師, 他複数社の顧問など。

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