サッカー日本代表の戦術は世界のトレンドに取り残されていた

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前回、アンチェロッティからの宿題という記事を書いた。ワールドカップの日本ーブラジル戦で、後半のアンチェロッティの戦術変更に対して日本は何ができたのか。1日考えて私がたどり着いたのは4バック、4-5-1だった。

あれは私個人の思いつきとして書いた。突飛な発想だと自分でも書いている。

ところがその後、決勝トーナメントを見続けているうちに、どうも思いつきの話ではないような気がしてきた。4バックというのは、そもそもこの大会のトレンドだったのではないか。

なので数えてみた。

FIFAは104試合分の分析データを無料で置いている

先に書いておきたいのだが、FIFAのTechnical Study Groupは2026年大会の104試合すべてについて、Post Match Summary Reportという分析レポートをPDFで公開している。ログインも課金も要らない。これは意外に知られていないのではないかと思う。

中身がなかなかすごい。1ページ目に両チームのフォーメーションラベルとスタメンが載っていて、以降にこれだけ入っている。

  • フェーズ別の時間比率。ビルドアップ、プログレッション、ハイプレス、ミドルブロック、ローブロックなどの構成比
  • フェーズ別の最終ライン高さと、チームの縦幅・横幅の実測値
  • 選手×選手のパス本数行列。要するにパスネットワークの隣接行列そのもの
  • ラインブレイクの試行数と成功数、内外の方向別内訳
  • 個人ごとの走行距離、速度ゾーン別距離、スプリント回数

URLは PMSR-M76-BRA-V-JPN.pdf のような規則形だ。104試合×2チームで208レコードのデータセットが、その日のうちに作れる。

抽出でひとつだけ引っかかる点がある。PDF内の “FORMATION” という文字が縦書きで組まれているので、テキスト抽出すると F O R M A TIO N のようにバラける。素直に検索しても引っかからない。FORMA の近傍で数字とハイフンの並びを拾う、くらいの雑な正規表現で十分通る。

48チーム全数についてはAP通信が第1ラウンドぶんをFIFAのマッチレポートに基づいて集計していたので、それを使った。集計の設計は、各チームの初戦の隊形を固定ラベルとして、ステージが上がるごとに「誰が残ったか」だけを変数にする形にした。こうすると隊形の変更と生き残りが混ざらず、淘汰圧だけが見える。

3バックか5バックかは、数え方でたまに割れる

数字を出す前に、ひとつだけ断っておきたいことがある。

3バックか5バックかは、たいてい見ればわかる。ただ、数え方でたまに割れる。サッカーを見慣れた人には当たり前の話だが、集計するとなると一応どちらで数えるか決めておく必要がある。

ボスニア・ヘルツェゴビナのベスト32、アメリカ戦がわかりやすい。私が最初に市販のアプリで確認したときは5バックと表示された。実際、スタメンの守備者登録は5枚だ。ところがFIFAの公式ラベルは3-5-2だった。

ボスニアの最終ラインを2つの軸で数える同じ11人でも、守備者の登録人数で数えると5バック、ウイングバックの押し上げを見て数えると3-5-2になる。 人数で数える 振る舞いで数える 守備者の登録は5枚 5バック 両サイドは押し上げていた 3-5-2 デディッチの押し上げは33回。低い位置に張り付いた選手ではない
同じ11人でも、数え方で答えが変わる

同じ試合、同じ11人である。どちらが間違っているという話ではない。アプリは人数を数え、FIFAは振る舞いを数えている。それだけの違いだ。

FIFAが3枚と数えた根拠は、データを見ると肚落ちする。右のデディッチは、低い位置に張り付いていた選手ではない。押し上げの回数がそれをはっきり示している。だからFIFAは、あれは5バックではなく3センターバック+2ウイングバックだと判定した。

理屈上は逆方向もありうる。スタメンの守備者が4枚でも、片方のサイドバックが常時高い位置に張っていれば3枚として数えられる可能性がある。

なのでこの記事では、FIFAラベルの先頭の数字で数えることにする。一貫しているし、読者が同じPDFを開いて確かめられるからだ。念のため書いておくと、今回の分類でこの2つが割れたのはボスニアの1件だけで、しかもその1件も「4バックではない」という判定では一致している。結論は壊れない。

キックオフ時点の最終ラインを、全部数えた

ステージ 母数 4バック 3バック 5バック 4バック比率
全体 48 35 8 5 72.9%
ベスト32 32 26 3 3 81.3%
ベスト16 16 16 0 0 100%
ベスト8 8 8 0 0 100%
ステージ別の4バック比率全48チームで4バックは72.9%、ベスト32で81.3%、ベスト16とベスト8では100%になる。 4バック 3センターバック系 全48チーム 72.9%(35/48) 27.1% ベスト32 81.3%(26/32) 18.8% ベスト16 100%(16/16) ベスト8 100%(8/8)
ステージが上がるにつれて、3センターバック系が消えていく

3センターバック系、つまり3バックと5バックの合計は、27.1%から18.8%、そして0%になる。

ベスト8の8チームはフランス、スペイン、イングランド、アルゼンチン、モロッコ、ノルウェー、ベルギー、スイス。全部4バックだ。しかもこの8チームについては、初戦の隊形で数えても、その試合のスタメンで数えても、どちらでも8/8だった。

ベスト16に、3センターバックのチームは1つも到達していない

一番効いているのはここだと思う。

3センターバックを基本形にしていたのは13チームある。グループステージで消えたのが7チームで、韓国、チェコ、チュニジア、それに3-4-3を採用した未特定の4チーム。ベスト32で消えたのが6チームで、ドイツ、日本、スウェーデン、南アフリカ、コンゴ民主共和国、オーストラリア。合計13。つまり全部だ。

ドイツとオーストラリアはPK戦まで持ち込んでいる。内容として一方的にやられたわけではない。それでも1つも抜けられなかった。

とくに3-4-3は7チームが採用して、5チームがグループステージで、残る2チームがベスト32で消えた。ベスト16に3-4-3は1つも残っていない。

構造は二段になっている。母集団の時点ですでに7割強が4バックという偏りがあり、そこに決勝トーナメント1回戦で決定的な選別圧がかかった。

3バックで来るはずだったチームが、来なかった

もうひとつ面白いのは、大会前に3バックで来るだろうと目されていた面々が、ほぼ全員4バックで始めていたことだ。オランダは4-1-2-3、モロッコは4-2-3-1、アルゼンチンは4-3-3、スコットランドは4-4-2。

私にとって象徴的だったのはモロッコである。2022年のカタール大会で、3バックの堅いブロックで準決勝まで行った、あのモロッコだ。世界中の分析対象になり、教科書になったチームである。そのモロッコが、大会3か月前のレグラギ監督退任を経て、4バックで来た。ブヌーの前にマズラウィ、シャディ・リアド、イサ・ディオプ、ハキミ。そしてそのままベスト8まで進んだ。

教科書を書いた側が、新監督の下で教科書を置いていった。

ただしこれは「4バックが強かった」という話ではない

ここが本題だ。

FIFAのTechnical Study Groupが第1ラウンド終了時のレビューで掲げたテーマが、まさに「バックスリーでのビルドアップ」だった。具体例として挙げられているのがフランスで、セネガル戦の前半、4バックのビルドアップから3バックに切り替えている。アンカーのラビオを2センターバックの間に落とす形だ。TSGはこれによってフランスが保持の制御力を上げ、セネガルのハイプレスへの耐性を得たと説明している。しかもTSGは、この3枚でのビルドアップを3類型に整理している。2センターバック+守備的MF、2センターバック+低い位置のサイドバック、そして3センターバック。

守備は4バック、保持は3バックというフェーズ依存の可変守備時は4枚が横並び。保持時はアンカーが2センターバックの間に落ちて3枚になり、両サイドバックが押し上がる。 守備時は4バック 保持時は3バック アンカー 横並びの4枚 サイドバックが押し上がる アンカーが間に落ちて3枚
守備は4バック、保持は3バック

つまりこういうことだ。2026年の「可変」は、3バックと4バックの間の可変ではない。守備は4バック、保持は3バックという、フェーズ依存の可変だ。

だから名目上の4バック優位の中身は、4バックが強いということではない。4バックを基準線に置いたうえで、フェーズごとに最終ラインの枚数を変える運用が標準装備になった、ということである。

試合中の3→4は、見つからなかった

ここまで見て、私はもうひとつ探した。試合中の状況判断で、3バックから4バックに変えたケースはあったのか。

見つけられなかった。

見つかったのは全部、逆方向か、4バック内部の組み替えだった。決勝のアルゼンチンは4-4-2で始めて、エンソ・フェルナンデスの退場後に4-4-1、延長後半にセネシを投入して5-3-1。準決勝のイングランドは、リードしてからの守備的交代で守備者を6枚並べ、支配権を明け渡して逆転された。ブラジルはハイチ戦でフラットな4-4-2から4-3-3のミドルブロックに変えているが、これは最終ラインの枚数を動かしていない。

これは偶然ではなく、構造的な非対称だと思う。

3バックのチームが攻めに出たいとき、最終ラインを4枚に組み替える必要はない。ウイングバックを押し上げれば3-2-4-1になる。名目上の最終ラインは3枚のまま、前の人数が増える。逆に4バックのチームが試合を締めたいときは、サイドバックを下げるだけで5枚になる。

つまり「増やす」方向のコストは安く、「減らす」方向のコストは高い。

最終ラインを変更するコストの非対称枚数を増やす方向の変更は安く大会で多数見られたが、3バックから4バックへ減らす方向の変更はコストが高く、大会で該当が0件だった。 変更コストが安い(大会で多数) 4バック → 5バック サイドバックを下げる 3バック → 3-2-4-1 ウイングバックを上げる 変更コストが高い(大会で該当0件) 3バック → 4バック 全員の基準点が入れ替わる
増やす方向は安く、減らす方向は高い

減らす方向のコストが高い理由は、前回の記事に自分で書いていた。センターバックとサイドバックの基準点が全部入れ替わるので、事前に想定して仕込んでいないとその場ではできない。渡辺剛は右センターバックでのプレーがほとんどで左に慣れていない、という話とまったく同じ構造だ。

そしてこの大会は、条件だけは史上いちばん恵まれていた。2026年大会は気象条件にかかわらず、全試合で前後半それぞれの中間に3分間のハイドレーションブレイクが入った。実質的に試合が4クォーターに分割されたわけだ。つまり監督にはハーフタイムを含めて、1試合3回、あらかじめ用意された指示のタイミングがあった。

歴史的な代表例がまさにこれである。2014年ブラジル大会、ファン・ハールのオランダはメキシコ戦の給水タイムを使って3-5-2から4-3-3に変え、終盤に2点取って勝った。本人が「クーリングブレイクでプランBに移った、あれは休憩を利用する賢い方法だ」とはっきり言っている。

指示のタイミングは3回あった。それでも、減らす方向に行った監督はいなかった。

増やす方向に行った1チームが、さきほどのボスニアだ。グループステージは4バック、ベスト32のアメリカ戦で3-5-2。しかも押し上げるウイングバックを前提とした、攻撃的な設計の3枚だった。結果はポゼッション47.7%でアメリカの44%を上回りながら、xG 0.21、シュート10本で無得点の0-2。しかもアメリカは64分にバログンが退場して、残り30分以上を10人で戦っていた。

ボールを持てたのに、何も作れなかった。相手が1人少なくなってからも崩せなかった。

増やす方向なら組める。ただし組んだところで、解決になるとは限らない。

答え合わせは、パラグアイだった

前回の記事で私はこう書いた。

あの場で取り得る手は、それこそパラグアイのような、ねちっこく逞しく、粘り強い守備をどうやって構築するかということだったんじゃないかと思う。そしてロングカウンターのワンチャンを狙う。

そのパラグアイのアメリカ戦のデータがこれだ。

  • ポゼッション 28.7%
  • ローブロック 28%、ミドルブロック 25%
  • 攻撃トランジション 26%
  • タックル 57本(アメリカは20本)
  • 被クロス 23本

書いた通りのプロファイルだった。持たない、我慢する、奪って速く出す。

そしてパラグアイはこれを、4バックの4-4-2でやっていた。

そのパラグアイがベスト32でドイツの3-4-3をPKで沈め、ベスト16でフランスに0-1。フランスに勝てなかったこと以外は、全部やり切っている。

つまり前回、私が「パラグアイのような守備」と書き、別の段落で「4バックだったのでは」と書いたのは、幸運にも、同じひとつのものを2回言っていただけだった。実在するチームの実在するプロファイルを、外側から独立に2回指していたことになる。

ここまで並べて、ひとつ気がついたことがある。

4バックが正解だったのではない。4バックを基準線に置いておけたチームが、可変という選択肢を持てた、というだけの話だ。3バックを基準線にしたチームは、増やすことはできても、減らすことができなかった。

だからあの日、日本に足りなかったのは4バックではない。4バックという選択肢だった。

そしてそれは、ハーフタイムの15分で用意できるものではない。

森保監督の采配を責める気になれない、という前回の結論は、どうやら崩れるどころか補強されてしまったようだ。宿題の答えは、大会そのものが書いていた。


参考

  • FIFA Training Centre, Match Report Hub(グループステージ): https://www.fifatrainingcentre.com/en/fifa-world-cup-2026/match-report-hub.php
  • FIFA Training Centre, Match Report Hub(決勝トーナメント): https://www.fifatrainingcentre.com/en/fifa-world-cup-2026/match-report-hub-knockout-stage.php
  • FIFA Training Centre, Round review: Building up in a back three and exploiting inside channels(2026年6月20日): https://www.fifatrainingcentre.com/en/fifa-world-cup-2026/building-up-in-a-back-three-and-exploiting-inside-channels.php
  • Associated Press, “World Cup formations, explained”(2026年6月18日)
  • 前回記事: アンチェロッティからの宿題

著者の既刊


この文章は原案・ディレクション:九頭龍、作文:AIで書いています。

九頭龍 'kuz' 雄一郎 エンジニア/経営者, 日本の大企業からシリコンバレーのスタートタップまで多種多様な千尋の谷に落ちた経験を持つ。 株式会社ClayTech Founder/CEO, 監査役DX株式会社 Co-founder/CTO, 株式会社スイッチサイエンス取締役, 株式会社2nd-Community取締役, 東北大学客員教授, 東京工業大学非常勤講師, 武蔵野美術大学非常勤講師, 他複数社の顧問など。

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