自転車を減らすという最強の交通安全対策

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4月には、あれだけ騒いでいたのに。

自転車に青切符が導入されたのは4月1日である。テレビは連日、取り締まりの様子を流していた。113種類の違反がどうの、反則金が最高1万2000円だの、歩道を走ったらどうなるだの、みんなが話していた。

今、誰も話していない。

忘れられているのには理由があるに違いない、と思って数字を見に行った。

警察庁が初月の運用状況を発表している。青切符の交付は全国で2147件。前年の月平均検挙数は、今回から青切符の対象になった違反種別に限って4268件だったので、およそ半分に減った計算になる。赤切符を含めた検挙総数で見ても2980件で、前年同月の約6割だ。

一方、指導警告票の交付は13万5855件。前年の月平均の1.5倍である。

つまり、権限を手に入れた月に、切符は半分になった。

その分、警告が1.5倍になった。

警察庁の担当者はこう説明している。制度や交通ルールの周知に向けて、現場での指導警告に重きを置いた結果ではないか、と。そして青切符を切ったのは主に、警察官の注意を無視したケースや、歩行者に危険が生じたケースだという。

青切符は、違反への罰としてではなく、警告を無視したことへの罰として運用されている。

これは失敗ではないと思う。むしろ設計通りではないか。

刀を持った人間は、抜かなくていい。持っていることが相手に分かれば、それで言うことを聞かせられる。抜く回数はむしろ減る。警告の言葉に裏付けができたのだから、当然そうなる。

目的は、全員に守らせることではなかった。言うことを聞かせられる状態を作ることだった。数字はそう読める。

ちなみに青切符の内訳は、一時不停止が846件で4割、ながらスマホが713件で33%、信号無視が298件で14%、しゃ断踏切立入が156件、右側通行が63件と続く。

驚くなかれ、『歩道走行』は入っていない。

あれだけ話題になり、議論が沸騰した『歩道走行』が。

何だこりゃ、と思うわけだ。

しかし、ここからが本題だ。

行動は、変わった。

JAF Mateの編集部が都内の自転車レーン設置道路で行った観察調査がある。平日の朝7時から8時、レーンを走る自転車が465台中384台で83%。歩道を走る自転車は81台で17%だった。

2024年6月の同じ調査では、262台中155台の59%がレーンで、歩道は107台の41%だったという。2年で、歩道走行が4割から2割以下に落ちた。

だからルールは効いた、と言っていい。

ただし、レーンがある場所では。

野村総合研究所が関東1都6県で行った調査を見ると、別の顔が出てくる。自転車利用者の約4割が、何らかの行動変容を起こしている。中身がこれだ。

自転車に乗る回数自体を減らした、21.9%。雨の日は乗らないようにした、14.1%。

乗るのをやめた人が代わりに何を使っているかというと、徒歩が77.1%、公共交通が36.7%、自家用車が22.6%。そして外出や買い物を我慢している、が5.8%。

別の調査では、青切符の導入後に不安を感じるようになった場面の1位が「交通量の多い道路を走るとき」で45.7%だった。

並べると、こういうことになる。

レーンがある場所では、みんなレーンを走るようになった。レーンがない場所では、自転車をやめた。

ルールは、既にあるインフラの利用率を上げることはできる。無いインフラを生むことはできない。だから基盤の無い場所では、ルールは行動を正すのではなく、行動そのものを消す。

自転車を取り締まったら、自転車が減った。

しかもこれは、統計上は失敗として現れない。違反は減る。事故も減るかもしれない。乗るのをやめた人は、どの表にも載らないからだ。

ここでオランダの話をしたい。

何度か行ったことがあるが、あの国はどこへ行っても自転車道が整っている。着いて数分で気付くレベルだ。ドイツもイギリスも日本よりはずっとましだが、オランダはそこから頭ひとつどころか、いくつか抜けている。

なぜそこまでやるのかと、オランダ人の友人に聞いたことがある。

即答だった。

「医療費削減のためだよ」

考えてから出てきた答えではない。当たり前のことを聞かれた時の速さだった。

そのときは、そういうものかと思って流した。後で調べたら、ちゃんと数字があった。

2015年に American Journal of Public Health に載った研究がある。Fishman、Schepers、Kamphuis の三名によるもので、WHOのHEAT(Health Economic Assessment Tool)と生命表計算を使って、オランダ人の自転車利用がもたらす健康便益を人口レベルで推計している。

結果はこうだ。自転車によって年間およそ6500人の死亡が回避されている。オランダ人の平均余命は、自転車のおかげで半年長い。そしてこの健康便益は、GDPの3%を超える。

論文の結論はもっと直接的である。自転車を促進する政策、たとえば自転車インフラや施設の改善への投資は、長期的に高い費用便益比を生む可能性が高い。

つまりオランダは、自転車道を作る理由を医療経済で正当化した。

計算した上で、金のかかる方を選んだわけだ。

そして、その計算結果が、一般人の口から即座に出てくるところまで浸透している。

では日本はどうか。

正直に言うと、日本で医療費が増えるのかどうか、私には分からない。代替手段の1位は徒歩の77%で、徒歩は健康に悪くない。そこだけ見れば、大した話ではないとも言える。

ただ、徒歩で代替できるのは短距離だけだ。22.6%は自家用車に移っている。運動はゼロになり、排出は増え、事故の重さは自転車の比ではない。5.8%は外出そのものを我慢している。そして自転車利用の最頻目的は買い物で44.5%を占める。削られているのは、生活圏の移動である。

差引がプラスなのかマイナスなのか、私は知らない。

問題は、誰も知らないことだ。

計算されていないからである。オランダはHEATに数字を入れて、GDPの3%という答えを出して、それを根拠に金を出した。日本の青切符の立法過程に、この種の評価は見当たらない。

なぜ青切符なのかと日本人に聞いて、あの速さで答えが返ってくるとは思えない。私も答えられない。

しかも国民の方は、答えを知っている。

ある世論調査で、安全な自転車利用を進める上で効果的だと思うものを聞いたところ、1位は「自転車専用レーンなど道路整備」で65.1%だった。取り締まりは53.4%で、3位である。

ルールを作るのは安い。インフラを作るのは高い。だから安い方が実装された。

ここまでは、まあ、残念だがよくある話だ。

さらにもう一段、捻くれたことも言えると思う。

計算しないことが、安く済ませるための条件なのだ。

オランダでは精緻な試算を行なった。政策を決めるのだから至極当たり前のことだ。しかしひとたび計算してしまえば、高い方を選ばざるを得なくなる。オランダは実際にそうなった。GDPの3%という数字を出した国が、自転車道を作らないという選択をできるわけがない。

したがって、計算しないと決めている限り、日本のこの制度は失敗することがない。

自転車に乗らない人は、自転車事故を絶対に起こさない。違反もしない。だから乗るのをやめた21.9%は、統計の上では成果である。事故が減れば安全対策の効果として発表され、違反が減れば周知が行き届いた結果として説明される。買い物を我慢している5.8%は、どの表にも載らない。載せる欄が無い。

数字は、必ず良くなる。

最も安全な自転車利用者とは、自転車に乗らない人のことだ。

そう考えると、初月の集計を最後に続報が出ていないことも、腑に落ちる気がする。3か月分も、半年分も、まだ出ていない。多分きっと出ない。測らなければ、何も出てこない。何も出てこなければ、何も間違っていない。

制度は続いている。指導警告は今日も切られている。誰も話していない。

何年かしたら、自転車事故が減りましたという発表が出るだろう。

それは、嘘ではない。嘘ではないからこそタチが悪い。


参考

この文章は原案・ディレクション:九頭龍、作文:AIで書いています。

九頭龍 'kuz' 雄一郎 エンジニア/経営者, 日本の大企業からシリコンバレーのスタートタップまで多種多様な千尋の谷に落ちた経験を持つ。 株式会社ClayTech Founder/CEO, 監査役DX株式会社 Co-founder/CTO, 株式会社スイッチサイエンス取締役, 株式会社2nd-Community取締役, 東北大学客員教授, 東京工業大学非常勤講師, 武蔵野美術大学非常勤講師, 他複数社の顧問など。

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