【連載 6/7】軽いノリで始めた物語に、重いテーマを忍ばせた ~込めた意味の話~
前回まで、作り方や表紙の話が続きました。 今回は、物語そのものの話を。「なろう系をフットボールに持ち込んだら面白そう」という軽いノリで始めた作品ですが——チームや会社を運営する当事者として、どうしても入れておきたかったテーマが、いくつかあります。似ているようで別物の、ふたつの「組織の話」。どちらも、私自身の苦い経験が背景にあります。(以降、本筋に関わるネタバレを含みます)
ひとつ目:メディアに踊らされて、内側が割れる(Stephen の話)
ひとつは、外からの声で、組織が内側から割れていく話です。
イングランド代表を率いる終盤、FAのアナリスト Stephen Wallace がスタッフに加わります。彼は優秀で、悪意もない。ただ、ある古参の人物(Tom Burns)を深く信奉していて、その語りが少しずつ外に漏れていく。やがて新聞が「Brennan・Burns 連携」「Burnsの指示から得点が生まれる」といったような見出しで“内幕”を書き始め、ロッカールームに小さな疑念が芽生えます。
最終的な戦術判断は、誰が下しているのか——。大事な大会の最中、キャプテンの Adams がジェームズに直言します。
「選手の中に、混乱している者がいます。『誰の指示に従えばいいか、わからない』と」
ここでジェームズは、決定的な過ちを犯しかけます。リークの犯人は Stephen ではないか、いや、長年の親友である Tom までもが自分を相対化しようとしているのではないか——と、最も信じるべき相手を疑い始めるのです。彼は事故以来はじめて Tom に怒鳴ります。「お前は本当に俺の味方なのか」と。
真相は——Stephen は無実(信奉が無自覚に漏れていただけ)で、リーク元はまったく別の人物でした。Tom は、ジェームズが自分を疑って怒鳴ったその夜のことを、こう言います。「お前が久しぶりに怒鳴った日、俺を本当の親友と認めた証拠だぜ」と。
ジェームズがノートに残す学びは、シンプルです。「絆を信じきれなかった、俺の弱さ」「政治の戦いでも、最後は人と人の信頼だ」。
外からの評判や報道は、追い風にもなるけれど、簡単に組織を内側から壊す。そして一番怖いのは、外の声に煽られて、自分のほうから仲間を疑い始めてしまうことです。これは、私がチームや会社を預かる中で、何度もヒヤリとさせられてきたことでした。
ふたつ目:戦術より、人を見ろ(Stuart の話)
もうひとつは、似ているようで、まったく別のテーマ。「正しい戦術さえあれば人は動く」と思い込む怖さの話です。
物語の中盤、ジェームズは自分の複雑な現代戦術をチームに浸透させるため、32歳のベテラン Stuart Reilly をキャプテンに任命します。自分の戦術を「刷り込む」ための要として。けれど Stuart は、それを静かに、しかし頑として受け入れません。
「お前は選手を、自分の戦術の駒として使いたがる」 「俺は選手を、人としてピッチで戦わせたい」 「お前は最近、選手の目を見ているか?」
ジェームズは戦術ボードばかりを見ていて、選手の“心”を見ていなかった。ロッカールームは「Stuart 派」と「James 派」に割れ、チームはその年、1部リーグ14位の降格ぎりぎり。戦術に固執した「独裁」は、はっきりと失敗します。
Stuart は退団していきます。その去り際の言葉が、ジェームズの胸に深く刺さり、長く残る苦い思い出になります。
「キャプテンってのは、監督が決めるもんじゃない。選手の中から自然に、立ち上がってくるもんだ」 「お前は戦術の天才だ。だが、人を、もう少し見ろ」
ただ、完全な決別では終わらせませんでした。数か月後、移籍先から Stuart の手紙が届きます。「あの時、お前が解任を決断してくれて、よかった」——苦さと、赦しと、それぞれの再起と。だから私の中では、これは“決定的な”別れではなく、あくまで 「一旦の」決別です。(その後ふたりは、長く連絡を絶ってしまうのですが……)
なぜ、この二つを入れたかったのか
どちらも、私がチームや会社の運営に関わる立場として、自分の苦い経験を背景に持っているテーマだからです。
- 外の声(メディア・噂・評判)に煽られて、内側の信頼を自分から手放してしまう——Stephen の話。
- 優秀な人材を“駒”として最適配置すれば勝てる、と思い込み、人の心を置き去りにする——Stuart の話。
スタートアップの支援やメンタリングでも、私が繰り返し伝えているのは、結局この二つの裏返しです。最後にものを言うのは、戦術でも世論でもなく、人と人の信頼だと。痛いほど知っているからこそ、軽い無双モノの中にも、そこだけは嘘なく書きたいと思いました。
軽い物語に、重い芯を
正直、最初はそこまで肩に力を入れて始めた作品ではありません。 でも、軽いノリで作り始めたものに、ちゃんと芯を通せた——これは、書き終えてみて素直に満足しているところです。
戦術で無双する痛快さを楽しんでもらいながら、ふとした瞬間に「これは人と組織の話でもあるな」と引っかかってくれたら。それが、この物語に忍ばせた、ささやかな願いです。
次回はいよいよ最終回。連載をここまで「AIはどこで効いて、どこで効かないか」と書いてきた私が、教える立場として、AIとどう向き合っているかを書いて締めます。
