「EBITDAに倍率をかければ株価が出る」——その倍率、どこから来たんでしたっけ

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会社の値段を出すのは、やってみると意外と気持ちがいい作業です。なにしろ「掛け算1個で株価が出る」のだから。

EBITDAに、えいやと10倍をかける。そこから借金を引いて、株数で割る。はい、一株いくら。電卓があれば3分で終わります。きれいなものです。

でも、この3分の気持ちよさが、私はずっと怖いのだ。

EBITDAというのは、ご存知のとおり利益の一種です。利息も税金も減価償却も引く前の、いわば「事業そのものが生み出すキャッシュの稼ぐ力」を取り出した数字。設備が重くて減価償却が利益をガリガリ削るハードウェア事業をやっていると、純利益で見るより EBITDA で見たほうが実態が浮かぶ、というのは肚落ちする話です。

で、これに倍率(マルチプル)をかけて会社の値段を出す。このとき出てくるのが EV(Enterprise Value)——会社まるごとの値段、つまり株主の取り分に借金を足したものです。M&Aでも資金調達でも、現場で最初に飛び交うのはたいていこの EV/EBITDA。私も投資は学生時代からの趣味でずっと触ってきましたし、スタートアップを率いる側として「値付けされる側」に座ったこともあります。だからこそ言うのですが——この「倍率」が曲者なんですよね。

多くの人が、倍率を「現在の利益から未来の利益をはじき出す係数」だと思っています。でも、実際の中身は少し違います。

正確に言うと、倍率というのは将来にわたって生み出すキャッシュを全部、リスクで割り引いて足し合わせたものを、たった1個の数字に圧縮したものです。理論的には倍率 ≒ 1 ÷(要求リターン − 成長率)。成長期待が高ければ倍率は膨らみ、リスクが高ければ縮む。つまり「未来」も「危うさ」も、ぜんぶこの1個の数字に折り畳まれている。

——と、教科書どおりに書くと急に難しく聞こえるので、噛み砕きます。

倍率というのは、ざっくり「いま稼いでいる利益の何年分を先払いするか」です。10倍なら、今の年間利益の10年分を払って会社を買う感覚。

ただ、10年分を額面どおり払うかというと、払いません。10年後にその利益がちゃんと出ている保証なんて、どこにもないからです。明日すら怪しいのに、10年後なんて誰にもわからない。

だから「遠い未来の利益ほど、割り引いて軽く数える」。来年の利益はほぼ額面、10年後は半分、20年後は気休め程度に……と、遠ざかるほど目減りさせていく。これが「リスクで割り引く」の中身です。

そこで効いてくるのが、その会社の確からしさ。筋がよくてぐんぐん伸びている会社なら「未来もちゃんと出るだろう」と割引が緩むので、何年分でも払う気になる=倍率が膨らむ。危なっかしい会社は未来を強く割り引くので、2〜3年分しか出せない=倍率が縮む。

要するに倍率1個の中に、「何年分払うか」と「その未来をどれだけ信じるか」が同時に詰まっているわけです。

掛け算法は、いわばDCF(Discounted Cash Flow=割引キャッシュフロー法)の圧縮版。ここまでは美しい。

問題はその先です。

では実務で、その倍率をどうやって決めているか。ほとんどの場合、同業他社から借りてきているんですね。「似た会社が8倍で取引されてるから、うちも8倍でしょ」と。

あれ?って思うでしょ?

そもそも「全くの同業」なんて、この世にほぼ存在しません。事業が似ているかどうかではなく、本当は「将来の成長率とリスクが似ているか」で判定しなければいけない。同じSaaSでも、年20%伸びている会社と横ばいの会社では、妥当な倍率は天と地ほど違う。なのに「同じ業界だから」で同じ倍率をあてた瞬間、片方を確実に誤評価しているわけです。

しかも、もっと厄介なことがあります。

仮に完璧な同業を見つけられたとしても、その会社の株価には市場の思い込みごと織り込まれている。セクター全体がバブっていれば、借りてきた倍率もバブったまま。あなたの算定値は、相手の歪みをまるごと相続するのです。

マルチプル法は、構造的に「相対評価」でしかない。「似たやつがこの値段だから、これもこのくらい」としか言っていない。絶対的に「いくらが正しいのか」には、原理的に答えられないのだ。

チャーリー・マンガーがEBITDAを皮肉って「bullshit earnings」と呼んだのは有名な話ですが、私が本当に怖いのはEBITDAそのものより、その上に乗っかる倍率のほうだと思っています。

だからプロは必ずDCF——さっき「倍率の正体」として説明した、将来のキャッシュを割り引いて全部足す、あれを倍率に隠さず正面からやる計算法です——と併走させます。DCFは割引率も成長率も設備投資も、前提を全部自分の手で明示する。市場の集団心理から独立した「絶対値」の物差しになるからです。逆にDCFは前提しだいでどうとでも動くので、相対のマルチプルとぶつけて、大きく乖離したら「どっちの前提が嘘くさいか」を問い直す。この三角測量で、ようやく値付けが成立する。

ここまで書いて気づくのは、結局いちばんおいしそうに見えた「掛け算1個」が、いちばん多くの判断を隠していた、ということです。

倍率法が楽なのは、本来DCFで一つひとつ明示すべき前提を——成長率も、リスクも、同業の選定も——ぜんぶ「倍率」という1個の数字に押し込んで、見えなくしているから。

楽な理由が、そのまま弱点。

「掛け算1個で株価が出た」と喜んでいるとき、私たちは計算しているのではなく、誰かの思い込みを借りているだけなのかもしれません。

ちなみに少し前に、SpaceXのIPOで「245倍は、さすがに頭おかしいだろ」という記事を書きました。あのときの違和感の正体も、たどっていけば結局この「倍率はどこから来たのか」という同じ問いに行き着くのだと思います。

この文章は原案・ディレクション:九頭龍、作文:AIで書いています。

九頭龍 'kuz' 雄一郎 エンジニア/経営者, 日本の大企業からシリコンバレーのスタートタップまで多種多様な千尋の谷に落ちた経験を持つ。 株式会社ClayTech Founder/CEO, 監査役DX株式会社 Co-founder/CTO, 株式会社スイッチサイエンス取締役, 株式会社2nd-Community取締役, 東北大学客員教授, 東京工業大学非常勤講師, 武蔵野美術大学非常勤講師, 他複数社の顧問など。

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