レア度比較 〜起業vsサッカー〜
先日、ある上場企業の経営者の発言を目にした。「上場企業X千社の中で、自分のような経歴で上場した人は珍しい」という話。
これ自体は本当に大した達成だ。経営者として尊敬している。
でもね、ちょっと待ってくれと。
希少性で言うなら、Jリーガーとか、ましてやサッカー日本代表のほうが、倍率としては桁違いにヤバいんじゃないのか。「上場企業X千社」とか言うけど、Jリーガーって日本に1,500人しかいないんですよ?
確かにビジネスは世界中の人が戦う領域だし、サッカーで本気でやってた人は分母が小さい。でも逆に、ビジネスでも上場や経営なんて目指してる人はほぼいないわけで、分母の少なさで言えば大差ないんじゃないか。
気になりすぎたので数字を当たってみた。Tokenをだいぶ使ったが、面白い結果になったので報告したい。
まず単純に達成者を数える
ざっと並べる。
| 項目 | 数 |
|---|---|
| 日本の上場企業全体 | 約4,000社 |
| 現役Jリーガー(J1〜J3) | 約1,500人 |
| 歴代A代表(1923年〜現在) | 数百人規模 |
ほら見ろ。Jリーガーのほうが少ない。
歴代A代表に至っては、日本サッカー史100年以上を全部足してもこの規模だ。現在の上場企業数の数分の一しかいない。
…と、ここで勝ち誇りたいところなんだが、よく考えるとこの比較はだいぶ粗い。両者の「分母」が全然そろっていないからだ。フェアに測り直す必要がある。
分母を「本気で目指した人」に揃える
ビジネスもサッカーも、入り口自体は意外と緩い。
ビジネスの入り口を「創業」とすると、日本の年間新設法人数は約15万社、個人事業主を含めた起業者数は年間約20万人。
サッカーの入り口を「高校でサッカー部に入る」と置くと、日本サッカー協会の第2種登録選手は約15万人/学年。
オーダーがほぼ同じ。世紀の大発見である(笑)。
…まあ偶然なんだけど、これだけ揃うとちょっと嬉しい。
ここから一段、選別を経たプールを揃える。
ビジネス側の「資金調達まで到達した起業家」は年間約2,700社。新設法人数の1.5%程度。サッカー側の「強豪校・Jクラブユース所属」は、プレミアリーグ24チームとプリンスリーグ9地域の上位チームを合計して、1学年あたり概ね1,500人と推定される。第2種登録選手の約1%。
通過率がかなり近い。ビジネス1.5%、サッカー1%。
つまり「資金調達した起業家」と「強豪校・Jユース所属の高校生」が構造的にイコールということだ。VCから1億円引っ張ってきたあの人と、青森山田の3年生がほぼ同格。並べると失礼な気もするが、数字がそう言っている。
プロ契約と上場、プライムとJ1
ここを起点にすると、上のステージも対称的に揃ってくる。
プロ契約と上場が対応するわけだが、もう一段上がさらに面白い。東証プライム上場企業は約1,500社、上場企業全体の約39%。J1選手は20クラブ×25名で約500人、現役Jリーガー全体の約33%。
プライム比率とJ1比率がほぼ同じである。
私の中で何かが疼く。これは偶然じゃなく、選別というものの普遍構造を捉えてしまったのではないか…?(多分偶然)
A代表に対応するのは何か
A代表のアクティブ選手は年間で約30人。Jリーガー全体(1,500人)の約2%。同じ選別率を上場企業に当てると、4,000社の2%=約80社。これは時価総額1兆円超の企業や売上1兆円超の企業がおおよそハマるレベル感だ。もちろんここで近年増加している。海外リーグでプレイしている選手の数と言うのは本来加えるべきだが、ここでは便宜上省くことにする。
つまりA代表=時価総額1兆円超の企業の創業者。
三笘・久保=豊田章男・滝崎武光(キーエンス創業者)。
並べると改めてエグい。ビジネス側の上場社長が「上場4,000社中で珍しい」と希少性を語るのは、サッカーで言えば「Jリーガー1,500人中で珍しい経歴」と語るレベル。それはすごい。確かにすごい。でも三笘や久保が見ているのは、もっと別の景色だ。
マップにまとめる
ここまでの整理を一枚に落とすとこうなる。
| 達成 | サッカー | ビジネス |
|---|---|---|
| 入口 | 高校でサッカー部 | 創業 |
| 選別済みプール | 強豪校・Jユース所属 | 資金調達済み |
| プロ/上場 | Jリーガー | 上場(市場問わず) |
| 上位プロ | J1選手 | 東証プライム上場 |
| 国を代表する達成 | A代表 | 時価総額1兆円超の創業 |
| レジェンド級 | W杯本大会先発 | 日経225採用銘柄レベル |
希少性って、すごい・すごくないの一次元の話じゃない。どの階層の希少性なのかが問題だ。サッカーで言えば「J1で活躍してる」と「A代表に呼ばれた」は、何階層も違う。同じく、「上場した」と「時価総額1兆円超を作った」は、A代表とJ1選手くらい違う。
並べてみるとビジネス側の話って雑に語られがちだなと気付く。サッカーは階層が明示的だから誰も間違えない。「J3でやってます」って言う人を「あなたメッシみたいなもんですね」とは言わない。一方ビジネスは「上場した」も「ユニコーン創った」も「シードで終わった」も全部「起業家」で括られる。情報量がスカスカだ。
メンターとして関わる時の難しさ
ここからは少し真面目な話。
私自身、いくつかの会社で取締役、顧問、アドバイザーをやっていますし、最近はNEDOの伴走支援者としても若い起業家に接する機会が増えました。
ここで時々、難しさを感じます。
達成のレベル感を巡る微妙な認識のズレが起きるからです。本人が思っている自分の現在地と、第三者から見える現在地。あるいはメンター側が思っている自分の経歴の重みと、相手から見える経歴の重み。両方向にズレが出ます。
これは正面から「いやお前まだ序盤戦だよ」「いやあなたまだまだ大したことないよ」と言ってもうまく伝わりません。説教っぽくなるし、互いに気分も悪い。多くの場合は反発される。
そこで効くのが、サッカーの階層構造に置き換える視点です。共通の地図に翻訳すると、相手も自分も冷静になれる。
たとえば「経産省のアクセラレータプログラムに採択された」「学生のビジネスコンテストで賞を取った」というのは、このマップで言うとどこか。
毎年100名前後採択されるようなプログラムや各種コンテストの入賞者は、応募者の中で選ばれているのは事実です。でもその応募母集団は、サッカーで言えば「中学のサッカー部に所属して、地区大会以上に出ている子」くらいに限定される。さらに、選別基準は「現時点での実績」ではなく「ピッチや事業計画から見える将来性」。
これはサッカーで言う中学県大会MVPにかなり近い位置です。確かに選ばれた中の一人で、誇ってよい達成。でもまだ強豪校に進学できるかすら未知の段階で、プロ契約までは何階層もある。
ここで「もう自分は届いた人間だ」と勘違いする若者がたまにいます。中学MVPで天狗になっている、と置き換えてみると、その滑稽さが分かりやすい。
ぶっちゃけ私自身、若い頃にこれをやっていました。大手企業で新規事業を企画し、商品開発のリーダーシップを取って、市場に複数の製品を出した、というキャリアでした。それで「自分は何かを成し遂げた人間だ」と分かったふうな口振りをしていた時期があります。今思うとなかなか滑稽です。
逆方向の構造もあって、たとえば「資金調達まで到達して、その後伸び悩んだ起業家」は、サッカーで言えば「J2で何年か出場機会を得たが、J1には届かなかった元プロ」レベルです。中学県大会MVP程度の若者がそれを「学ぶことはない」と軽視するのは、構造的に明らかにおかしい。本人にそのつもりは無くても、態度に滲んでしまうことはあります。
地図がない人同士だと、こういうズレは見えにくい。
地図はあくまで地図
最後にひとつ。
ここで作ったマップは、希少性のオーダーを測るための地図に過ぎない。個別の人物に当てはめようとすると必ずどこかでズレる。人の経歴は多次元で、技術領域、業種、地域、時期、運の要素を含むからだ。「あなたは○○選手タイプですね」みたいな当てはめは、本人にとっても他人にとっても、たいてい違和感が残るものだ。
ただ、地図がないと、「すごい・すごくない」の雑な一次元評価か、「自分は特別だから一般のスケールは当てはまらない」という思考停止に陥りやすい。
希少性を語るとき、それがどの階層の希少性なのかを一拍置いて意識する。それだけで、自他の達成に対する解像度はずいぶん上がる。
ふざけて始めた話だが、思いのほかタメになる地図ができた気がしている。
この文章は原案・ディレクション:九頭龍、作文:AIで書いています。
