Q. 人の意見を変えさせることは可能か?

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woman showing paper with prohibition sign

これは、形は様々ですがよく受ける類の相談だと言えます。

しかし例えば「技術的にAがいいか、Bがいいか」というような話であれば妥当性についてトコトンまで議論すれば良いので、実際に悩んでいる人はいません。もし悩んでいたとしてもそれはちょっとした愚痴みたいなものです。 したがってここで扱うのはそのようなケースではありません。

「個人の主義主張のような部分を変えることは可能か?」という話です。

例えば、部下に技術的にものすごく信頼できるエンジニアがいたとします。 技術力は確かなのですが、彼は非常に根を詰めるタイプで進捗の遅さが他のチームメンバーのタスクに影響が出ています。それを指摘するとこんなやり取りになるとします。

「もうちょっと手を抜くところは手を抜いてアウトプットのスピードを上げて欲しいんだけど」
「僕はきちんとした仕事がしたいだけです。そうやって手を抜いたところでもしミスが起きたらどうなりますか。もし僕のスピードが想定より遅いとしても、それはタスクをアサインする前に過去の開発からわかってたことですよね。それってマネージメントの問題じゃありませんか」

これはなかなか手強いです。

私は端的に「説得によって意見を変えさせることは不可能」と思っています。
特に上記のように「未来の懸念」「誰も正解を知らない事柄」などに対してどう考えるかは人それぞれです。彼なりの過去の経緯があってある種の哲学を持っているとしたらそれはどうやってもひっくり返るものではありません。

したがってもしトラブルが起きているとしたらそれは彼の言う通り「マネージメントの問題」なのです。

なのでサバサバと諦めましょう。
というのが最初に言うことなのですが、ここでは追加しておくべきことがあります。 それは「中長期的な視点で導くことは可能」という点です。

人間誰しも経験によってポリシーを構築していくことが多いです。 ちなみに私は「一日6時間以上は創造性が必要な行為はしない」ことしています。創造性が必要な行為というのはある程度定義の幅は広く、設計、デバッグ、新規事業企画など様々な「事務処理以外の行為」がほとんど含まれます。 私は20代の体力に任せて残業ばかりしていた時期に、大きなミスをして結果的に「良かれ」と思っていたことが全て裏目に出るということを経験しました。

当時の私に「バリバリ残業して死にそうになりながら働いてるおれカッケー」という気持ちがあったことは恥ずかしながら否定できません。しかしその結果があまりに酷いものだったのでその後考えを改めるようになりました。 ちょっとでも生産性が下がったら休憩します。アイディアが出なくなったら子供たちと遊びます。休日は仕事をしません。その方がトータルで創造性が上がることを学び、目安として「概ね6時間」と私なりに理解しています。

私の事例のように、人が意見を大きく変えるきっかけは大抵が「失敗」です。

そもそも「意見」や「主張」は内省によって生まれます。振り返りです。 何も失敗していないのに振り返ったり反省したり、それによって考えを改める人は非常に少ないと思います。 時には明確な失敗でなくても、ちょっとしたつまづき、不安、不整合、失望なども内省のきっかけになり得ます。 いずれにせよ明白なことは「そのきっかけをすっ飛ばすことはできない」ということです。

例えばあなたがマネージメントの立場だとしたら、期待している行動やメンタリティについて常に言うことは大事です。しつこいくらい言うことは大事です。しかしそれで他人の行動は変容しません。 彼らには彼らなりのきっかけがあって変わります。それは大抵の場合で待つことしかできないのです。

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幸せなIoTスタートアップの輪郭

九頭龍 'kuz' 雄一郎 エンジニア/経営者, 日本の大企業からシリコンバレーのスタートタップまで多種多様な千尋の谷に落ちた経験を持つ。 株式会社ClayTech Founder/CEO, 監査役DX株式会社 Co-founder/CTO, 株式会社スイッチサイエンス取締役, 株式会社2nd-Community取締役, 東北大学客員教授, 東京工業大学非常勤講師, 武蔵野美術大学非常勤講師, 他複数社の顧問など。

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