ベストセラー「人新世の資本論」を読む②

silhouette of people during sunset

ベストセラーであると同時に斉藤氏を一躍時の人へと押し上げた「人新世の資本論」をだいぶ前に読んだのだが今更ながらまとめを行う(少々長いので2回に分ける)
あくまでメモとしての扱いであって、これによって何かを主張するものでない。が色々非常にためになった。 ちょっとでも興味のある人はできれば直接読んでおくべきだと思う。このまとめがその助けになれば好ましい。

個人的にはこの方の「現状分析」は非常に秀逸で参考になるところが多くあり、しかし一方で「対策」や「ビジョン」の部分は弱いと感じている。

<共同体>

【共有財という考え方】

市場には乗せず、値付けせずに管理するべきと考えられるもの。 コミュニズムは資本主義に取り込まれてしまった本来共有財産であるべきものを共同体管理=コモンに戻そうという考え方。

【市民営化】

例えば電力。 希少性を伴わない方法で、例えば自然エネルギーで、潤沢な電力を確保し、それを市民で運営し、分配する。 労働の仕方も市民で決める。

【協同体的富】

無限に湧き出る潤沢さではなく、永続的で時間的に豊かな潤沢さということ。

<土地の話>

【ゲルマン民族のマルク共同体】

土地を共同保有し、使用方法は厳しく規定された。地力をすり減らすことなく、むしろ長期的には上昇させた。 土地を共同体外に売ることはもってのほか。収穫物も共同体外に売ることは少なかった(地産地消) 土地の割当をくじ引きで決めていた。 逆に資本主義による農業は地力の搾取を繰り返す。 搾取的、浪費的であるものは合理的であるとは言えない。

【ゲオルク・ルートヴィヒ・フォン・マウラー】

マルク共同体について研究 フラースも参照している
マルク共同体は、成長しない循環型社会。 もっと生産できる時にもあえてそうしなかった。 富の偏りが権力を発生させ、支配し支配される関係性が発生するのを防いだ。
その後、土地の共有性が失われることによって資本主義が加速した。 16-18世紀にイングランドで土地の囲い込みによって多くの農夫が土地を奪われ、一部の資本が独占するようになった。 彼らは都市部に流れ賃労働者になるが収入は低く、家族を養うために死ぬほど働いて、それでも粗末な食べ物しか買えなかった。 しかし労働して貨幣を得るという仕組みが広がることで彼らの犠牲によって資本主義は力を増していった。
マンハッタンの土地は大資本が投機目的で保有するばかりで一般市民は住めないものになっている。
典型的な資本主義が作り出した人工的希少性。これって豊かになっているのか?

【デトロイト】

資本主義が作った荒地。 今は下がった地価を利用して有機農業を始めている。

<自由と資本主義>

【必然の国と自由の国】

自由の国は圧迫されてやる何かが何もない状態。必然の国は最低限やらなければならないこと。 両者のバランス。 必然の国の上に自由の国は開花するとマルクスは考えた。
自由とは際限ない即物的な欲求のことを指さない。 食べ放題で大量に残すことも、シーズンごとに服を買い替えることも、無意味にブランド物に走ることも『悪い自由』である。
コロナ禍で人類は「人命か経済か」という予行練習をさせられた。 いずれ気候変動を軸に同じ質問が投げかけられるはず。
過去にSARSやMARSがあったにも関わらず、研究機関は抗生物質などの研究から手を引いていた。 儲からないからだ。抗ED薬の方が儲かる。 資本主義はこの天秤で正しい判断をしてはくれない。
流行りで終わったロハス。消費の意識だけで何かを変えるのは無理だとわかった。

【カールポランニーの「偽りの3商品」】

「労働・土地・貨幣」 これらが完全に商品化されると不平等が加速すると訴えた。 3つ全てについて現在は完全とは言えないが(国が干渉・管理する部分もあるが)かなりの部分が商品化されてしまったと言える。

<不自由>

例えば、マーケティング、広告、パッケージングの廃止。年中無休もやめる。 これだけでどれほどの人が労苦から解放されるか。 これだけ生産力が上がった世界で何故過剰労働をしなければならないのか。 オートメーションは労働時間の短縮ではなく失業の不安を生んだだけ。
社会的所有によって民主的に生産を管理すると、当然意思決定は遅くなり経済的には減速する。 マルクスの思想にあるのだが、ソ連はこれを受け入れなかった(自らの失敗で思い知った)
プラットフォーム独占の禁止も同様にイノベーションの速度を遅くする。

【Bullshit job】

マーケティング、広告、コンサル、金融、保険など、 多くの人から「無くなっても困らない」と思われながらも彼らは高給取り、という仕事。
2019年 世田谷の保育園が経営破綻に陥ったが、経営者不在のまま自主運営することが決まった。 何も問題なく運営され、経営者や雇われ園長たちはBullshit Jobだったと証明されてしまった。

【規制】

アムステルダム、パリ:Airbnbの営業日数を規制

グルノーブル:学校給食にグローバル企業は入れないよう規制

バルセロナ:フィアレスシティ
資本が作り出した都市という空間への批判。近距離飛行機の廃止、市街地の速度制限を30kmhに。 市民たちで考えたマニフェスト。
バルセロナはリーマン・ショック後の立ち直りに失敗。オーバーツーリズムで民泊が増加したせいで家賃が高騰し、儲かってるのはグローバル企業で地域は貧しいという典型的矛盾を抱えた。 2011からの市民運動から政党が生まれ、ついには市政を握った。

【横の連帯でグローバル企業と戦う】

むしろグローバルサウスが先進。 メキシコ:サパティスタ運動 2億人が参加する農民共同体ヴィアカンペシーナ グローバル自由経済への反対で始まった。

【黄色いベスト運動】

マクロンに国民大論争を開催するまで圧力をかけた。 しかし15000もの提案を受けながらのらりくらりとしているところをまたマクロンは批判を受け、気候市民会議ができた。 くじ引きで選ばれたメンバーたちが150の具体的な政策提言を行った(憲法の改正案も含む)

<労働>

【労働者はエコ】

機械化で化石燃料を使うより、労働者が働いた方がエコ。
それで生産が落ちるのであれば使用価値の低い仕事をやるのはやめて必要なものを生産するための活動に注力すれば良い。

【分業はやめる】

労働を魅力的なものにするために(労働自体が第一の目的であるように)画一的な分業は止める。継続的な職業訓練が必要になる ワーカーズコープにはそういう機能が含まれる。

労働のあり方を変えなければ資本主義とは戦えない。しかし税制や大きな気候変動戦略などは個人には扱うことができない。一方でそもそも政治主導のトップダウンだけでは気候問題とは戦えない。
生産の現場のあり方から変えるのがいち人民にできることとして好ましい。

【ケア労働】

ケア労働は使用価値が高く、ロボットやAIでの置き換えが困難 またサービスの受給者がスピード化も効率化も望んでいない。これこそが重視されるべき仕事。しかし現実は「やりがい搾取」の温床。

<コミュニズムによる解決>

【脱成長コミュニズムの柱】

・使用価値経済への転換
・労働時間の短縮
・画一的な分業の廃止
・生産過程の民主化
・エッセンシャルワークの重視
GDPの増大ではなく、必要なものが必要なだけ生産されているかを指標化して目指す。

【南アフリカ食糧主権運動】

NGO主導だが、国民がそれぞれ協同体をつくる仕組み。
南アフリカは農産品輸出国でありながら26%が飢餓と言われる。
遺伝子組み換えや化学肥料に依存しない方法をお互い教え合う。

【ハーバード大の歴史研究】

当事者の3.5%が非暴力な手段で立ち上がると時代が変わる。 資本主義なんて1% vs 99%の戦いなんだから本来負けるわけがない。

【ピケティ】

資本主義を飼い慣らすことを提唱していたピケティも2019年の著書で参加型社会主義に傾倒している。 ただ元々累進課税などを推していたピケティはその態度は崩していない。国家が強くなりすぎると市民統治はできない。

九頭龍 'kuz' 雄一郎 エンジニア/経営者, 日本の大企業からシリコンバレーのスタートタップまで多種多様な千尋の谷に落ちた経験を持つ。 株式会社ClayTech Founder/CEO, 監査役DX株式会社 Co-founder/CTO, 株式会社スイッチサイエンス取締役, 株式会社2nd-Community取締役, 東北大学客員教授, 東京工業大学非常勤講師, 武蔵野美術大学非常勤講師, 他複数社の顧問など。

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