Q. ポートフォリオワーカーは本当に居心地が良いのか?
ちょっと毛色の違う話題ですが、最近聞かれることが多いので書いてみます。
なおポートフォリオワーカーとは複数の仕事やアクティビティを抱えて暮らす人のことです。 ポートフォリオという言葉はよく資産管理で出てきますが、ポートフォリオワーカーはその名の通り働くことを資産管理のようにコントロールしている人のことだと言えます。
私には「1週間ずっとこれをしている」ということがありません。
1日のうちに複数の会社のミーティングに出席することもあれば、実験や検証で丸一日どこかに篭りっきりになることもあります。偶然午前と午後でそれぞれ別の会社の取締役会に出席する、というようなこともあります。
ミーティングや拘束される作業のない時間をどう使うかは私次第です。 それぞれの会社や組織に対してのそれぞれのコミットメントがありますので、それに齟齬のないようバランスに気を配って活動しています。 当然平日にも「どこにも属していない時間」が存在します。そのような時間を使って、営業したり執筆したり新たな知識を得るための活動をしたりしています。
このような実態を聞いて「危うさ」を感じた方もいるのではないでしょうか。 それは恐らく極めて一般的な感覚なのではないかと思います。 ポートフォリオワーカーはどこにも帰属しているようで帰属していません。 その曖昧さも含めてポートフォリオを管理するということですので。 したがって誰も何も保証してくれませんし、一瞬にして全ての収入源を失うようなことも当然あり得ます。
しかし、私はスタートアップの取締役を務めた時点でその感覚は完全にシフトしてしまっています。 「そんなこと、当たり前でしょ」と。
取締役というものは被雇用者ではありません。株主に任命されてその職務を行う特殊な立場です。したがって株主にNOを突きつけられたらいつでもクビになりますし、その際になんの保証もありません。失業保険はもらえませんし退職金もありません。 その代わりに取締役は管理者が存在しません。取締役を(が)管理するものは数字です。売上目標であったり、利益率の改善目標であったり、様々な会社にとってクリティカルなターゲットを達成するために取り組み、その取り組み方については一任されるのが一般的です。
スタートアップの取締役と来たらスタートアップの社員よりもずっと不安定なものです。 何故ならスタートアップの取り組む目標などそのほとんどは「達成が極めて困難だが不可能というわけではない」と表現するべきものばかりです。それがわかっていながらそんなものに対して取り組むということは「明日クビになっても然るべし」と毎日思っているということに違いありません。
そう考えるとポートフォリオを組むことはまさしく資金管理でポートフォリオを設計する時と同様に、適切な「リスク管理」となります。 この考え方はシリコンバレーで多くのエンジニアが副業をやっているのを見た際に気づいたことでした。 彼らはメインでスタートアップに所属していながら、週末は別のスタートアップに所属しているのです。場合によっては2個も3個も。 アメリカでは副業禁止は人権侵害のレベルで嫌がられます。 雇用に対する規制が弱くかつ雇用流動性が高いアメリカでは、個人にリスク管理を求めることが必然になります。そして彼らは彼らなりのリスク管理方法として複数のスタートアップに所属しているわけです。
日本でもこれから雇用の流動性は良くも悪くも高まると私は個人的に予測しています。 その際に個人はより一層強くあることが求められます。その一環として個人でポートフォリオを構築することが当たり前であるかのように社会が変貌したとしても私は全く驚きません。