「リベラリズムはなぜ失敗したのか」の意訳まとめ③「格差」

投稿者: | 10月 13, 2020

ここ数年のトレンドとして「資本主義の失敗」「民主制の崩壊」など多くの場所で言われるようになったと感じている。きちんと押さえたい。

いくつか書籍を漁ってみたがこの本がもっとも妥当で理性的に書いてあるように思えて気に入った。自分用の覚えメモとしてまとめておく。

リベラリズムはなぜ失敗したのか

著者はパトリック・J・デニーン(Patrick J. Deneen)
米国ノートルダム大学政治科学部教授。過去にプリンストン大学やジョージタウン大学でも教鞭を取る

内容も分厚く長文となるため何回かに分けることにする。

論旨

リベラリズム(あるいはリベラルデモクラシー)は中世の貴族制以降に生まれ、世界を飲み込んだ。19世紀にリベラリズムに否定的な流れがあり、様々な別の支配制度が模索された(共産主義もそのひとつ)しかしそれら全てにリベラリズムは勝利し、世界唯一の政治制度として覇権を握ったかに見えたが、やはりいくつかの歪みが近年続々と表出しており、改めてリベラリズムが揺らぐ時期が来ている。
主なポイントとしては「広がり続ける格差」「弱くなり続ける個人と強くなり続ける国家」「モラルの低下」そして、それらがリベラリズムが失敗したからもたらされた事態ではなく、むしろリベラリズムが成功したからこそそうなっている、つまり過去よりリベラリズムはそうなることが宿命づけられていたにも関わらず世界がそれを捨てるもしくは十分な代替案を立てることができずにここまできた、そして放っておいたらきっとそのまま続くだろうという極めて深刻な懸念がある。

ここでは「広がり続ける格差」というポイントに主眼を置いて整理する。

格差

ジョン・ロック「統治二論」
人間を『勤勉で理性的』と『喧嘩好きで争いを好む』に分ける。
貴族政治は上に立つ人間が前者であれば悪くないが後者になった時に間違いなく戦争が起きてきた
リベラリズムは前者が上に立つ確率を上げてくれると考えた
そして勤勉で理性的な人間が上に立つ社会では社会全体が物質的に豊かになり、格差が無くならなくてもみなボチボチ平和に過ごす、と想定した。つまり不平等を肯定し、それでも幸せになれる、と。
ケネディ大統領が「上げ潮では船は皆浮かぶ」とロックを引用した

タイラー・コーエン「大格差」
大多数がテキサスのようなエリアに追いやられる。安普請の建物でボチボチの雇用はあり、行政サービスは行き届かない
しかし、コーエンの考えるオチは希望?がある。マルクスが思い描いたような理想郷が別の形で実現するかも知れない
例えば、無料のインターネットの提供や無料の娯楽の充実で貧困層はそれに没頭して生かさず殺さずで満足する

ジョン・スチュアート・ミル(19世紀)
まさに今我々が生きる世界をデザインし主張した革新的リベラリズムの産婆
因習にとらわれない予測不能な一部の天才が革新的なことを成し遂げる社会
ジョブズ、ベゾス、ゲイツ、イーロンマスクなど、実際に世界はそうなっている。

マルクス
不満は不平等ではなく排除から発生する
グローバル経済の推進すら、その恩恵に預かるものと預かれないものの分離を生み出す

リベラロクラシー
新たな貴族階級
家庭は崩壊したが、様々な資本主義的解決がもたらされた。庭師、家政婦、家庭教師、乳母など家庭が機能していたら不要な職業が生まれた。
資本主義社会における成功の条件は、家族のゆるい絆、移動の可能性、職が変わっても保証される技能、移転可能な相続財産

リベラル社会の勝者
故郷から離れて根無し草となり、物質主義を追求してリスクを取り、社会変革を頓挫させて不平等を良しとする

リベラリズムは人間の本性に根ざしている

ニコロ・マキャベリ「君主論」
人間に根深い利己性と物欲を認めて、抑えつけるより利用する方法を考えるべき

利己心
伝統的徳性を排除した副産物
公益の足を引っ張る、ゼロサム的考え、物質への関心

自制を養わない限り人間は幸せにはなれない
人間の欲望には限りがなく、世界には限りがあるから


市場の変化

消費至上主義
狭くて限定的な文化ではなく、広くて包括的な市場だけが所属場所だと思い込ませる。ある種の洗脳。
そのため市場をモラルから切り離し、労働や自然資源を商品として扱うように仕向けた。具体的には中世ギルドの解体、農業の工業化、組合労働者の雇い主への支援など。

排除ではなく再定義による空洞化。商業化された工芸品。大衆向けに大量生産された音楽。小売による選択が行われれば行われるだけ文化は衰退する。心当たりのある話ばかりだ。

ダニエル・ブアスティン
技術開発は世の中を徐々に同一のものにまとめていくリスクを抱えている
リベラリズムは同質化を促し、経済的合理性からのサブカルチャーの排除が進む。
多様性の推進が訴えられた結果、自立した個人が国のサポートで出世し、国はそれによって統制を強化するという先進的リベラリズムの世界観

競争市場主義は農業のあり方を無責任で短期的な解決策へ落とす
牛への抗生物質の投与で細菌の変異が起こり、その細菌は人間用の抗生物質が効かない
遺伝子組み換えで農薬に強い作物ができたお陰で広範囲に大量の農薬が撒かれるようになった

資本主義市場拡大のボトルネックは資源の枯渇
しかしそれによって新たな貧困層市場の開拓と機械化による労働力の削減が一層進む。

サブプライム
旧来、住宅ローンはリスクも大きいし、その地域をよく知っている担当者がいないところでは行われないものだった(支店がない場所では売らない)それは法律ではなく慣習。銀行の利益はその地域に利益が出ることで得られる
要するにサブプライム問題は、大学の構内でナンパOKフリーセッ⚫️スにしたらエライことになった、みたいな話だと言える
こういうことが起こると、国民は規制強化を求め国家の力が強くなる。やはりこのケースでも個人主義は国家主義を進める
バブルもむしろリベラリズムの進行に貢献している


リベラリズムがもたらす未来

フリードリヒ・ハイエク
自由主義は格差を助長する。成立のためには加速的な経済成長が必須。格差は広がり続けいずれ貴族政治時代の王と農民より広がっても経済成長が確約されているから自由主義は支持され続ける

トクヴィル
貧富の格差は新たな貴族政治を作る。しかし中世の貴族階級は従者を養うことが義務付けられていた。新しい支配階級はひたすら労働者から搾取するだけだ

ソクラテス
「いかなる人も洞窟の中に住んでいるようだ」
政治イデオロギーに永遠に持続するものはない
古代の優秀な為政者は継続的な徳性の修練システムの作り方と人間が作った体制が永遠には継続しないことを知っていた


まとめ:リベラリズムの嘘はあばかれてきている

支配階級は熱心にフォローするが、リベラリズムによって新たに生まれた階級が嘘を見破り始めている
次の過程は、より強固で強制的な闇の国家が生まれる可能性。リベラリズム的な秩序を否応なく強制する

しかし仮に体制が崩壊したとしてもその後が難しい。
歴史的にはワイマール共和国崩壊からファシズムに進んだドイツ、短期間のリベラリズムの後に強制的に共産主義へと進んだロシア
どうすべきか?
第一にリベラリズムの功績を肯定する(牧歌的な時代に戻れば良いという話ではない)
第二にイデオロギーの時代に戻らずにポリス的な生活をいかに育むかを考える(リベラリズムが勝利したように見えるのは多大な犠牲を払ったからである)
第三にそれらの大釜から新たな思想が生まれることに期待する

リベラリズムの掲げた理想は裏切られたが、その裏切りがわからないようにリベラリズムは進化した
自由はかなり制限されている。政府に関与できていると思って投票している人は少ない。不満の表現として反対票を投じることがモチベーション
購入する自動車は選択できるが、人生が死ぬほど退屈だという現状から抜け出すかどうかはほとんど選択できない

リベラリズムへの対抗としての包括的な議論はしない方が良い。そもそも包括的な議論の末にリベラリズムやその他のイデオロギーは生まれたわけで、一度結論が得られている。と皆思っている
当然そんな議論を仕掛けたら疑念を持たれ潰される

チェコスロバキアの反体制活動家ヴーツラフ・ハヴェル
体制の改善で生活の保障は改善しない。生活の改善がし始めてようやく改善された体制が発展できる。非人格的秩序からの避難場所=新しい形の共同体を作ることに忍耐強く取り組むべき